165 お先に!
外は風がちょっとだけ吹いて、木々の擦れる音もあった。
信じられなくて、どうしたらいいのか分からなくて、ただ突っ立っていた。
そこにまた声を掛けてきた。
「まだ帰ってこなくていい。呼んだら帰ってきてくれ。そうとも言っていたな」
「……はい。分かりました」
「私はもう行く。聞きたいことはあるか?」
「……なんでフーマさんが?」
「彼には魔法を教わった。もとより使えてはいたらしいが、ちゃんと扱えるようになったのは彼のお陰だ。つまり、恩返しだな」
「そうなんですか……フーマさんは、信じてますか? これ」
「私か? 私は信じているよ。彼はバレるような嘘をつく人ではない」
「……分かりました……ありがとうございました……」
「君は? 君には聞きたいことはないのか?」
家の中にいるカエデさんにも「質問はないか」と聞いている。それを受けて、少し黙った後に口を開いた。
「守れないんですか? みんなを……」
「私には分からない。ただ、本当にドラゴンの群れが来るなら、不可能だろうな」
「絶対に?」
「……私はその質問に答える術を持っていない」
「……守ります……私は守りたいです、みんなを……絶対に」
「……私はもう戻る。済まないな」
そう言って森の中に消えていくフーマさん。ボケッと見ることしか出来ない。
はぁ……めちゃくちゃ溜息出そう。というか、本当にどうしたら良いのか分からないんだけど。
大臣とちゃんと話せないってなんだ? 説明してくれれば、もっと受け入れられるのに。
流石に今回のことは、ダメだと思う。今までずっとなんとか従ってきたけど、今回のことは……
でも、どちらにしろ俺に出来ることなんてないのか。うーん……
結局、いつもそうなってる気がするな。そもそも俺には選択肢が用意されてないように感じちゃう。
とりあえず、外の空気を吸うのをやめ、家の中に戻る。カエデさんは「おかえり」と優しく向かい入れてくれた。
「大変なことなっちゃったね……でも、大臣の勘違いってこともあり得るしさ……はは……」
自分で言ってみて思ったが、大臣がこんなに大事なことを勘違いするか?
誰だって失敗するだろうけど、ここまでのことを勘違いして、そして、俺たちにわざわざフーマさんに頼んでまで、そこまでして勘違いでしたってあり得るか?
いや、無駄とは言われたけど、テレパシーしてみよう。声が届かないなんてことはないだろうから、本人から聞きたい、じゃないと気持ちの整理がつかない。
あー、あー、大臣……
ダメだ。聞こえてるはずなのに……
あー、あー、大臣? 大臣?
なんで……返事がないの?
悲しくなってきた……もう……どうしよう……
(もしかすると魔力のせいなのかもな)
「え?」
「どうしました?」
「あ、ルドリーが……」
「ルドリーさんが…………それなら気にせずにお話ししていてください。私は少し、歩いてきます」
「え?……」
気をつかわないで良い、とか、そんな感じのことを言おうと思ったが、辞めた。というか出来なかった。
「えっと……ルドリー? 何?」
(ドラゴンの巣を潰しただろ? その魔力で狂ったドラゴンが増える。それが群れになってここまでやって来るんじゃないか?)
「なんでここなの……」
別にセントラル以外なら被害が出て良いわけじゃない。でも、場所的にはここじゃなくて向こうの国じゃないのか?
(魔力で狂っているのに、わざわざ魔力の濃い場所に近づくか?)
「大臣は分かってたのかな」
(予想はしてただろうな。だから、鍛冶屋に剣を使うことになると言ったんだろう)
「でも、なんで俺たちが出発してから……」
(我にも分からないが、予想外なことがあったんだろう。元々は国の混乱を待つつもりだったらしいしな。それか、全部知っていて黙っていたのか)
「そっか。大臣にも悪気がないのかもしれないのか」
(あんまり何かを信じすぎるなよ。結局、お前が判断して、お前が行動するしかないんだ)
「それはそうだけど」
俺が行動する。でも、この場合は何をすれば良いんだ? とりあえず、みんなに知らせるとか? でも、信じてくれなさそう……そもそも俺は信じてるのか?
カエデさんは中々帰ってこない。もしものことを考えてしまう。
このまま動かず、この家に留まっているとおかしくなるかもしれない。ただ、カエデさんが帰ってきた時に、俺が居なかったら不安に思うかもしれない。
「探しに行った方がいいかな……」
(いや、待ってれば良い。必ず帰ってくる)
「え? なんで?」
(はぁ……信じすぎるな、とは言ったが、全く信じないのも問題だぞ)
「信じる……」
(そんなことをする奴なのか?)
「そんなことはないだろうけど……」
(ならそれで良いだろ)
「でも……もしものことがあったら……俺が守らないと……」
(お前が守る必要もないだろう。彼女は誰かを守る存在だ)
「そうかもしれないけどね……どうしよ……」
(そんなに心配なら早く行ったらどうだ?)
俺はなんでこんなに心配してるんだろうか。カエデさんは大丈夫だって分かってるはずなのに……
頭の中に少しだけ昔のことが浮かんできた。
『守ってあげてね』
……やっぱり行こう! 俺が守らないとダメだ!
そう思い、家の扉を開けた。
(はぁ……それなら最初っからそうしろ)
すると目の前にはカエデさんが居た。
「あれ? 帰ってきてたんだ」
「……あの……」
「え? どうしたの?」
「実は……エリーと、契約しました……」
「え? エリーって、あのエリー?」
「はい……」
「エリー? 聞こえる? 聞こえない?」
「聞こえてるよ? ほら、ここに居るでしょ?」
(また……また先を越されたのか……)
ルドリーが頭の中で珍しく動揺している。
もし、これが本当なら、大臣の言ってることが本当だとしても、なんとかなるのかもしれない。
「俺も契約……ルドリー……」
(頼むから早くしてくれ……)
「やってみる…………っ出来ない!」
(なぜだ……)
希望はあるのかもしれない。
諦めないで頑張る以外ないな。
読んでいただきありがとうございました!
よろしければ下の☆マークから評価をしていただけると、励みになります!