162 新たな剣と手袋
親方の案内で、地下に伸びる階段を降りる。先は真っ暗だ。明かりは?
「ここだ」
「真っ暗ですね」
「ほら。これで見えるだろ」
親方の魔法で、部屋が一瞬にして明るくなる。真っ昼間みたいに明るい。よくこれだけの広さを明るく出来るなぁ。しかも全然疲れた様子がない、やっぱり俺もドラゴンと契約したいかも……
「どれがいい? お前が決めろ。ただ、オススメはこのあたりだな」
「へぇ。なんでですか?」
「一番最新だからだ」
一番新しいのが一番良いって言い切れるのカッコいい、流石親方って感じだ。
「素振りとかしても?」
「当たり前だろ。こんなに広いんだし、振りたいだけ振ればいい」
そう言われたので、一番凝った装飾をしていた剣を取る。鍔が刃に向かって、くの字になっているやつ。
柄の部分は、なんかの蔦や、果物が刻み込まれている。親方が書いたのかな? だとすると相当絵が上手いな。
何回か振り、それに決めた。
明らかに昔の物よりも振り心地が良かったから。
ちょっと前まであのデッカイケンだったから、正確に比較は出来ないけど、アレよりも良いものになってる気がする。
「そういえば、ルドリーとかの鱗って使ってないんですか?」
「そうだな。アレはもっと後に使うよ。お前がちゃんと剣を使える環境になってからだな」
「あ、ありがとうございます……グェールのも?」
「それはもう出来た。一応持っていくか? カエデに渡してやれば良いしな」
「使い方とかは?」
「手袋を付けるだけだ。それだけでいつもの数倍の勢いで矢が飛んでいく。ただ……」
「ただ?」
「もし、鱗が露出してしまった場合は使用を中止してくれ。出来るだけ頑丈な素材で作ったが、どうしても故障は仕方ないからな」
「分かりました。言っときます」
親方は広い部屋の真ん中辺りにあった、机の引き出しから丈夫そうな革の袋を取り出して、壁に掛けてあったかなり大きめのゴツゴツした革の手袋を入れた。
「ほら。見てみろ」
親方はその手袋が入った袋を地面に思いっきり、投げつける。それによって爆発が起こるようなことはなかった。
「その手袋がグェールの?」
「そうだ。全力で剣を叩きつけても爆発しない。お前が思っているより安全だから、安心してカエデに渡してくれ」
「なんであんなに大きいんですか?」
「金属で鱗を覆い、衝撃が行き過ぎないようにしているんだ。だから金属から鱗が出てしまうと危ないんだよ」
「俺にはよく分からないですけど、信じてます。それじゃ、渡しときますね」
「……またな。私は作業に戻るよ」
「また……あ」
「ん? どうした?」
アイラのことを親方に話すべきか。どう考えても余計なお世話だけど……どうせ村に行くんだし、好き勝手しちゃおうかな。
「アイラが親方のこと気にしてましたよ。まぁ、アレですけど、もし、暇なら」
「そうか……私も作業に一段落つけようかと思っていたんだ。少し、みんなと話すのも悪くないな」
「あ、俺がアイラの話をしたことは、本人には言わないでもらえると助かります。それじゃあ」
「元気でな。剣はこの箱にでも入れて持ち帰れ」
「ありがとうございます。親方も気をつけて」
こうして終わってみると、なぜ言うのためらっていたのか分からなくなるくらいなんてことなかったな。
両手に木の箱を抱えながら、その上に革の袋を置きながら、家を出る。
でも、せっかく帰ってきたのに、また出発だよ。もちろん村に行けるのは嬉しいけど、もうちょっとゆっくりしていたかったというかなんというか。
ここに、やりたい事があるわけではないんだけど、どうせ、ずっとここに居たら暇だとかまた思うようになるんだけど、この街に愛着はやっぱりある。
「ただいま」
「おかえりなさい……あれ? それは?」
「親方にもらった。剣と、この袋はカエデさんに」
「なんですか? それは?」
「えっと……説明しないといけないこともあるから……ちょっとこれ置いてからで良い?」
荷物をテーブルに置いて、袋を丁寧に漁る。一応、雑に扱っても問題ないらしいけど、流石に怖い……いや、怖がってるなら渡さない方が良いのでは? 今から返して……
色々考えたが、結局は親方を信じることにした。でも最終的にはカエデさんが決めることだ。出来るだけちゃんと説明しよう。
「これを使うと弓矢の威力が上がるんだって。ただし、グェールの鱗を使ってるからちょっと扱いに気をつけないと危険で……」
「グェールさんの? どうして危険なんですか?」
「あぁ、そっか」
そういえばグェールと戦った時は、カエデさん居なかったな。思えばあれも懐かしい。
「グェールの鱗は爆発するんだよ。だから危ない。とは言っても、安全に加工してくれてるけどね」
「私の知る限りだと、その鱗の加工中に鍛冶屋が爆発したらしいですねー」
「うん……まぁ……そうなんだけど……とにかく! それの中から、キラキラ光る鱗が出てきたらすぐに外してね? それさえしなければ乱暴に扱っても大丈夫らしい……ちょっと、辞めとく?」
「ミリアさんが作った……んですよね?」
「そう」
カエデさんも信頼はしてるんだろうけど、流石に爆発するかもしれないものを手に着けるのは嫌か。当たり前だけど、しょうがないな。てか、ぶっちゃけ俺も無理かも……
「試してみます! 私も、信じてみます!」
「あ……そう?……いいの?」
「はい! ミリアさんの作った物なら……信じれると思います!」
俺にもまだ少しだけ不安があるけど、でも、カエデさんが信じるなら俺も信じてみようかな。
そのゴツゴツした手袋を袋の中に戻す。これも村に持っていこう!
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