160 みんなにも言わないと
そこそこ良い目覚めだ。
昨日は夜更かししたのに、不思議だ。
これから先、俺がどうしたら良いのかもよく分かってないのに。
一階に降りて、エラさんの様子を見る。どうやらまだ寝てるみたいだ。
起きないようにそっと食材置き場を見てみる。ひんやりとした日陰とカゴがあるだけで、そこにはなにもない。
元々は朝ごはんとか食べるタイプじゃなかったけど、今は食べないと落ち着かない。
魔法で食べ物を作るのも考えたが、流石に得体のしれない物を口に入れるのはためらう。魔法って結局なんなんだ。
「おはよう」
「あ……おはようございます!」
家の中を物色していると上からカエデさんも起きてきた。
まだまだ眠たそうだが、挨拶は元気に返してくれた。だが、それを聞いてエラさんが「ふぁぁ……」と吐息のような声を上げる。
「あ、すみません……つい、いつもの癖で……」
「あぁ……良いですよー……はい……起きるので」
そういうと、いつもより癖のついた髪をワシャワシャッとかく。頭をかいてるんだろうけど、髪のボリュームが凄すぎて届いてなさそう。
それから朝の支度を終えて、ご飯もないのに食卓にみんなで座る。話すことはある。
「まぁ、うん。とりあえず……どうしよ」
口を開いたものの、何を話せばいいのか全く分からない。村に行くって言ってもいつ頃行くんだろう。今日? まぁ、別に……てか、これを話せば?
「村っていつから行く? 今日?」
「うーん……いつが良いんですかね?」
「出来れば早い方が良いと思いますよ。ここで今まで通り暮らしていくことは難しいので」
「今日、明日? 出来るかな……」
「ここでのご飯はどうするんですか? 配給の物を食べるよりは、村で食べた方が良いと思いますけど。もちろん私が口出すことでもないんですがね」
「いや、エラさんにも関係あるから。まぁ、でも、その通りかも。今日にでも帰る?」
「そうしたいです!」
この返事からして、早いとこ村に行きたかった感じかな。となると、もう今から出発の準備だな。
また旅かぁ……忙しい。
「荷物とかある?」
「必要なものは大体向こうにありますし、そんなに沢山は要らないので、ちょっとで終わると思います」
「そっかぁ。俺も特にないから……ちょっとみんなに言ってこようかな」
つい最近帰ってきたのに、また出発だ。
アイラとかはまだ旅に出るよって言ったら、どんなこと思うんだろ。またなんか言われそうだな。親方にも挨拶しないと、あとは……
「大臣って今どこ居るかな?」
「さぁ。私にも分かりません」
「そっか。まぁ、あれか。問題ないか」
「そうなんですか? もし、会ったら言っておきますよ」
「ありがとう。うん」
テレパシーで報告しとけば良いでしょ。というより、今やっちゃうか。村に行ったらダメって言われたら面倒だし。
あーあー、大臣ー
(どうしたの? はは)
(あ、おはようございます)
(で? なんで連絡してきたの?)
(あぁ……あの、村に帰ることになりました。なんで家に行っても、俺たち居ないです)
(そう? それぐらいなら勝手にやっちゃっても良かったのに。ははは)
(まぁ、一応……)
「どうしたんですかー? ボーッとしてますけど?」
「……え? あ、あぁ、大丈夫……」
テレパシーの途中で話しかけられてしまった。なので大臣との話を少し無理やり切り上げる。
(とりあえず、そういうことなので……また)
(またね? はは)
本当は今どこに居るのかとか、計画がどうなってるかとか聞きたかったけど、どうせ聞いても応えてくれないし、気にしないことにしよう。
「うん。ちょっとみんなに挨拶してくるよ。その間に用意しちゃって?」
「分かりました! それではいってらっしゃい」
「いってきまーす」
エラさんとカエデさんが手を振ってくれてる。なんかホントに仲良くなったんだな。きっと、荷造りも二人で仲良くやるんだろう。良いことだ。
カエデさんってコミュ力高いよな。王子様ともめちゃくちゃ仲良くなってたし。
人を嫌いになることとかないのかな? そういうのあんまり無さそう。
そんなことを思いながら、アイラの雑貨屋に入った。
「いらっしゃいませ」
「おはよう」
「どうされたんですか?」
「村に帰ることになったから、挨拶でもって思って」
「また旅ですか? 今度はどうして……」
「うーん……まぁ……」
アイラに仕事をクビになったってなんか言いづらいな。どうしよ? 誤魔化しちゃおっかな。
「色々あって……うん」
「はぁ……何があったのか知りませんけど、いつも大変そうですね。あなたは」
「まぁ、村ではゆっくりするつもりだよ」
「そうですか。他に用はありますか?」
「用……用という用はないけど……」
「では、気を付けて。いつ頃から?」
「今日から?」
「……」
謎の沈黙。なんで黙っちゃったんだ?
その沈黙は思ったよりも長く続いた。俺は手持ち無沙汰になり、雑貨を見ていた。この前上げたお土産が飾ってある。売れてないのかな。
「……どうしてみんなそんなに……」
「え?」
「……はぁ……分かりました。それでは」
「……」
よく分からんけど、俺を帰そうとしてるのは分かる。帰っちゃっても良いけど、次にいつここ来るかも未定だし、ちゃんとしておきたい気もする。
しかし、何を話せば良いんだ? このままボケッと立ち尽くしてるぐらいなら帰っちゃおうかな。
そんなことを考えてる俺の視界に、迷ってる人が買っていくという例のやつが入ってきた。
それを見ながら、何を言うのか、考えた。
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