159 『予想外な事』
あの時はちょっと、どうかしてたのかもしれない。
出会ったばかりのカエデさんに、いきなり同棲を持ちかけるなんてどうかしてた。実際、ちょっとあの後困ったことになった気がする。なんとかなりはしたけど。なってるのか?
「それはちょっと意外でしたね。控えめなのかと思ってたんですけど、案外、強気にいく人なんですね」
「はは……」
もうこの会話、終わりにしたいな。なんとか出来ないかな? さっきから愛想笑いしかしてない……辛い。辛いです……
「でも、カエデも意外だね。どうして?」
「ん……それは……」
それは俺も気になる。そういえばなんでオッケーしてくれたのか、良く分かってない。もしかしたらその場の空気でなんとなくとか? いや……どうなんだろ。
「私は、両親が早くに亡くなってて……」
……あぁ、うーん……でも、なんで?
「村の方たちは優しかったので、私もちゃんと狩りをして生活出来るようになりました。おばあちゃんも……」
「うん」
「でも、友達は居なかったんです。ずっと」
もしかして友達だと思われてた? 友達として暮らそうみたいな? もー、良く分からんな。
「そこで初めてアキラさんに会えて、今までにない気持ちになったんです。私はずっと友達が欲しいと思ってたはずなんですけど、ちょっと違ったんです……多分、好きって気持ちになったんです」
「好き……」
「……はい」
ここまで行くとむしろ恥ずかしさとか消えた。聞けたことがまず嬉しいし、何より俺がどうしてあの時、ちょっとどうかしてたのかも分かった。
一目惚れだったのかもしれないな、俺もそうだったのかもしれない。だから出会ってまだ数日なのに、人生初めての告白が出来たんだ。なんかコワ。
「へぇ。私としてはお二人が付き合っていたのが不思議だったので、一つ謎が解けました。ありがとうございます」
「まぁ……はい」
「それにしても大胆すぎる気がしますけどね。あなたって意外とそういうところありますよね」
「そう?」
「だからユーリと上手くやっていけてるんですね。中々居ないですよ。ホントに」
「あぁ、大臣ね」
上手くやっていけてるのか? ただただ、騙されてるだけな気がする。
「意外と細かいことを気にする人なんですよ。だから、あなたなら大丈夫って思われてるんだと思います」
「そうだったら嬉しいけどね」
「とはいえ、私にも、『あの人が何を考えているのか?』。その全てが分かるわけではないので、単なる憶測でしかないんですけどね」
「ふーん。大臣ってなんであんなに行動的なの? なんか知ってる?」
「さぁ。ただ、ユーリの中で『やりたい事をやる』っていうのはいつも変わらずにあるみたいですよ」
俺もそれを言われたことある。というか、俺がカエデさんに告白出来たのも大臣のその言葉があったからじゃないか?……もし仮に結婚的なことをするみたいな感じになったら、証人でも頼もうかな。親も居ないし。
「やりたい事やるのは良いけど、少しぐらい先に教えてくれないかな」
「ふふ、それは私も思います。でも、面白くて良いじゃないですか?」
「面白いかぁ……」
それは否定出来ない。てか、大臣に会ってなかったら俺はどうなってたんだろ? 鍛冶屋で働いてるのは変わらなかったかな?
そうなると親方と……いや、こんなこと考えるのマジで無駄だな。ついさっき、カエデさんに告白出来たのは大臣のお陰でってなったじゃん。
細かいことまで含めると、居なかった時のことを考えるなんて馬鹿らしい。
「『なんにもない』なんてつまらないですよ。最初はそれでも良いかもしれないですけど、次第に飽きてきて、結局は刺激を求めるんです。そういうものだと思います」
「そういうもんなのかな?」
「少なくとも私はそうです。私は、『予想外な事』が好きなんです」
「そうなんだぁ」
最初に会った時はそんな感じしなかったけど、長い間一緒に仕事をしてて、エラさんにそういう面があることは分かってきていた。
ちょっと臆病な人なのかなって思ったのに……いや、でも考えてみればあの時から、こういう人だったかもしれない。
初対面の時とか懐かしいわ。確か変って言われるのが嫌なんだっけ? 今だから分かるけど、他国の人として見られるのが嫌だったのかもな。
それでも『予想外な事』が好きっていうのは、エラさんの根本の部分が、それを求めてるからなのかな。
「「「……」」」
なんとなく話す話題が無くなってきている気がする。そういえば寝ようとしてからどれぐらい時間が経ってるんだろう?
まだ窓の外は明るくなってない。けど、さっきよりも暗くなってる気がする。
このままぼんやりと、ふわーっとしたまま、時間が過ぎていくのも良いけど、どうしよっか?
「はぁぁぁ……もう寝る?」
「え? 寝るんですか? カエデは?」
「え?……あ、はい……」
カエデさんはびっくりした様子で、俺たちを見た。もしかして寝てた? 寝落ちしてたのかな。
「もう寝よう。話し過ぎたかもね」
「そうしますか? 私はまだまだ話し足りない気持ちですけどね」
「ははは。俺もまだまだ話せそうだけどね」
「……話しませんか?」
「いや、辞めとこう。うん」
「そうですか……なら寝ます。おやすみなさい」
「おやすみ」
そう言った後、エラさんは自分で作ったベッドの中に入った。
ライトを消し、二階に上がる。今までの空気が嘘みたいに静かだった。俺はその静けさが嫌に気になって、全然眠れなかった。
エラさんもまだ眠れていないと思う。
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