157 帰省
さっきまで忙しそうだったお店は、すっかり人が居なくなっている。話をするにはちょうど良いな。
「聞いたよ。仕事辞めたんだってな」
「はい」
「……そうか。で、次の仕事は?」
「あ、それなんですけど……」
策っていうのは、ここで仕事を手伝わせてもらうってこと。それならハヤトとも予定が合う日が来るだろうし、ご飯もまかない的なやつで食べられるだろうし。
ただ、それを切り出すのがちょっとムズイ。はぁ、頑張んないと……
「決まってなくて……で、その、決まるまでの間……ここでお手伝いとか……」
「ダメだ」
「……」
「ちゃんと仕事としてやってくれるならありがたいけどなぁ。でも、今はちゃんと自分のことをやった方が良いぜ」
「……分かりました……」
もし、俺がここまで王様に嫌われてなかったら、多分、マスターの言ってることが正しいんだと思う。だってそれならすぐに仕事も見つかるだろうし。
でも、これから先、俺が普通のやり方で仕事に就くことはちょっと難しい……はぁ……大臣……
どうしてこんなことになっちゃったんだろうなぁ。
(ダメだったな)
「アキラくん?……あの……」
(あんまり深く考えるなよ。どうせ成るようにしか成らん)
「アキラくん……」
「まぁ、そうだね……まぁ、いいか」
「え?……アキラくん?」
「ん? なんでもない。ハヤトもごめんね。時間使っちゃってさ」
「それは大丈夫だけど……」
「もう帰るわ。またね」
「……また……ね」
これからホントにどうしよっかな。待てって言われても、その間なにしてれば良いんだ。
……どうしようもないので、家に帰ることにする。もうすぐ夜だ……カエデさん達はどうなったんだろ。そういえば親方にエラさんのことも頼んでおけば良かったなぁ。
夕暮れのちょっと暗い街を一人で歩いていると、泣きそうになってくる……俺はなんにも悪いことしてないはずなのに。多分……
ルドリーが居るお陰で涙を堪えられてるんだろうな、良いのかな悪いのか分からないけど。
「はぁ……」
溜息をつくと、ルドリーが話しかけてくれる。それを期待していたところはある。
(どうした?)
「……うーん。分かんない」
(そうか)
「うん……」
まさかこんなに会話が広がらないとは思わなかったな。てか、「分かんない」ってなんだよ。実際なんにも分かってないけどさ……
どうにもならない気持ちのまま、石畳の街を歩いて行く。なんか帰りたくない気分だなぁ。
(時間があるのも悪くないぞ)
「そう……てか、ルドリーってなにしてたの? ずっと」
(生きようとしていた。それだけだな)
なにそれ、カッコいい。「生きようとしていた」ってなにしてたんだよ。結局のところ。
そんな感じでルドリーと会話をしていると家に着いた。外に漏れてくる声で二人とも帰ってきていることが分かる。はぁ、元気出さないと、つってもそんなに元気に振る舞えないけど。
「ただいま」
「……あ」
「おかえりなさい……」
二人とも落ち込んでいる。この様子だとダメだったっぽいな。
「おつかれ。まぁ……うん」
「アキラさんもおつかれさまです。どこに行ってたんですか?」
「親方のところ。で、大臣とも少し話したよ」
「あ、ユーリとも話したんですか? それって仕事に関わることですか?」
「うん……なんか、待ってれば良いって言ってたよ。信じていいのかは分かんないけど……」
「ユーリがそう言ってたんだね?」
エラさんは、今まで見たことないくらい真っ直ぐに俺の目を見て、そう質問してきた。どういう心境なの?
「まぁ、はい。そうだよ」
「……なら良いかな。うん」
「良い? 良いってどういうこと?」
「待ってれば良いと思いますよ。信じて待ってれば良いと思います」
まだまだ俺の目を真っ直ぐ見ながら、そんなことをいうエラさんを信じないわけにはいかなかった。
なんとなくシリアスな雰囲気になってしまったことで、みんな黙ってしまう。最近こういう空気になる事、多いな。もしかして俺のせいか?
まぁ、俺も一応待つつもりではあったし、やることは何にも変わらない。問題はそのやることがないことだ。暇だ。
というか、やっぱり人といると落ち着くな。さっきまで泣きそうだったけど、どこかに引っ込んでった。
「とりあえず、ご飯でも食べますか? まだ食材の残りもあると思うので……」
「そうしよっか」
カエデさんが気を遣ってくれて、なんとなく空気が朗らかな感じに少しずつなりつつある。
まだ少しだけ残っていた食材を全て使い切って、そこそこ豪華なご飯を作った。もしかしたら贅沢出来るのはこれが最後かもしれない。
いや! ネガティブなことを考えるのは、もうやめよう。うん。出来るだけ明るいこと……てか、普通にこれからのことでも話そうかな。
「まぁ、今まで忙しかったからね。ちょっと、休憩的なさ」
「そうですね。休憩」
「二人はそれで良いかもしれませんけど、私には休む家もないんですよー。もちろん、なんとかしますけど」
「ここに住む?」
「えー、ちょっと大丈夫ですか? 普通に考えてそれは無いですよ。はい」
エラさんは意外とここに住むことを躊躇っていた。別に広いから場所はあると思うんだけど……そういう問題じゃないのかな。
会話の流れが止まって、気まずい空気が流れそうになっていた時、カエデさんが申し訳なさそうに手を挙げた。
「……あの、ちょっと良いですか?」
「え? なに? カエデさん」
「わがままかもしれないんですけど、村に帰るってどうでしょうか?……ダメですか?」
「あぁ……そっか」
そこなら美味しいご飯もご馳走してもらえるかもだし、村のみんなは俺たちが仕事をクビになったことを知らないはず。
騙すみたいで悪いけど、少しの間だけなら……
ちょっっとだけ、物事が良い方向に進んだ気がした。
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