154 助けて……親方
家に着き、それでも思うのは大臣に対する不満だった。こうなってしまったのはまだ許容出来るけど、こうなってるのに何にも手伝ってくれないのはちょっとムカつく。
みんなで団結する時じゃないのか！ はぁ……どうしたらいいのか教えて……
「これからどうしよっか……」
「ひとまず私の事からで良いですかね？」
「良いよ……」
「今日の夜、寝る場所が無いんですけど……ここに泊めてもらってもよろしいですかね？」
「もちろん……カエデ、さんも良いよね？」
「はい！ もちろんです！」
うーん。問題が大きすぎてどうすれば良いのか分からん。そもそもこのまま働かない状況が続くとどうなるんだ？
「エラさんに聞いても良い？ あんまり詳しくないんだけど、仕事してないとどんな悪いことがある？」
お金だけはあるからな。もし、仕事をしない問題がお金だけならそこまで困らない。
「そうですね……買い物とかはちょっと制限されますね。例えば贅沢品とされる物は買えなくなりますし、ご飯も決まった物しか買えません」
「……マジで？」
「今まで飲食店などでお仕事を聞かれたことないですか？」
「うーん……あったかな？」
「もしされてないのなら私の仕事の一部でしたね。今は違いますけど。有名人なのでそういう手続きが省かれていたのかもしれませんが」
買い物出来なくなるってマジで？ なにが出来なくなるのか良く分からないけど、ちょっと怖くなってきた。
というよりも普通に生きてたらみんな働くからこういうケースは少ないのか？ はぁ……
「俺たちで仕事始めるとか無理なのかな？」
「それは無理ですね。報告のないお店はすぐに停止されます」
「……じゃあ、お城行く？ 謝ったら許してくれないかな……」
「私達は分かりませんけど、アナタは無理だと思いますよー？ 相当嫌われてますからね。王様に……ここだけの話、裏でめちゃくちゃ言われてますからね」
「えーー」
地味にショックなんだが。予想はしてたけど、ちゃんと嫌われてるんだな。
「ただカエデとかは許されるかもね。元々王子様のお世話をしてたわけだからさ」
「そうですかね……」
「うん。だってカエデはみんなに信頼されてる」
「そう、なんですか？」
嫌われてる俺と信頼されてるカエデさん。うーん、対照的。
心に地味な傷を負ったまま、これからのことを考える。俺はもう就職出来ないのかしら？ え？ マジで？
流石にそうなったら文句の一つや二つぐらい大臣に言いたいんだけど、今どこに居るんだ？
「私達だけで一度お城に行ってみます。アナタが着いてきても逆効果だと思うので、待っていてくれませんか？」
「……分かった……待ってる……」
「アキラさん……大丈夫ですか？」
「大丈夫かも。うん」
家で一人お留守番をすることになった。この時間で大臣にちょっと文句でも言ってやるか！ このやろ！
あーあー、大臣！
（どうしたの？ もう終わった？）
（ちょっと、今なにしてるんですか？）
（僕？ 僕は必要な物を回収してたの。大臣の部屋からさ！ ははは！）
（え？ 必要なもの？）
（僕もこうなるとは思ってたからさ？ 安心してよ。大丈夫だから）
（でも自分のことは自分でって）
（そうだよ。でも僕も君に手伝ってほしいことが沢山あるからさ？ ある程度は協力するよ？）
（えー……ありがとうございます……）
（ひとまずミリに会いに行きなよ。僕も終わったら行くからさ。はは）
（分かりました……）
結局大臣の手の平の上でした。まぁ、良いだろう。いつかは自立しないとだけど今んとこ大臣に着いていって失敗したこともないし、そもそもやりたいこともないから手の平の上でも良い。ホントか？
でも、そもそも俺にも問題があるしな。もうちょっとちゃんとしないと。
色々考えながらこの通りで一番大きな家を目指す。アーノルドさんが建てていたあの家だろうな。おそらく。
コンコンとデカい家の扉をノックする。工事の時にも思ったけど、やっぱりバカでかいな。これだけ大きければエラさんを。いや、親方の昔の家が空いてるんならそっちに頼んでみるか。
考えてみればこんなデカい家なんだし、ノックじゃ分からないか。作業してたら絶対聞こえないだろうし。
「すみませーん！」
大きな声を出してみると、家の中が動くような気配がした。
「おぉ。来たのか。入れ」
「あ、はい」
中から親方が出てきて、家の中に入れてくれた。はぁ……この話するの嫌だなぁ。てか、本当に親方に相談するようなことなのか？ はぁ……ツライ……
てか、この家、全然物ないじゃん。これだけ広いのにテーブルや椅子もない。どうなってるんだ？
しかし天井が高いな。二階まで吹き抜けになってるのを見てそう思った。これ、お金全部使っちゃったんじゃないの？ 大丈夫？
「で、なにか用か？ ないなら作業に戻るが」
「あの、後で大臣も来るみたいです……結構大事な……いや親方にはそんなに関係ないんですけど……」
「ん？ なにかあったのか？ 変だぞ？」
「なんかありました。ちょっとその話を少しだけ」
親方は前を歩いている。行き先は地下への階段。結局ここでも地下で作業してるのか。
階段を降りながら話を切り出す。
「実は……仕事クビになっちゃいました」
「そうか。次はなんの仕事なんだ？」
「それが……まだ決まってなくて……」
「ん？ アイツはなにしてるんだ？」
「その、大臣もクビになりました……はい……」
「はぁ……一体なにをしたんだアイツは……」
いやぁ、そんな大したことしてないと思うんだけどなぁ。てか、もしかして俺が怒りを向けるべきところって大臣じゃなくて王様だったりするかな？
でもそんなとこ敵に回すの怖すぎ。でも大臣が敵になった方が怖いな。
はぁ……もう！ めんどくさ！
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