143 みんな起きてる?
その夜は随分と寒かった。今まで、厚手の布団を一枚でなんとかやっていたが、それだけじゃ我慢出来ないぐらいにクソサミィ……
みんな寝てるけどちょっと焚火に当たろうかな。なんか変だわ……
寝ていた部屋からコッソリ抜け出し、廊下をドロボウみたいに静かに歩く。窓から外の雨を確認した時、鼻水がズルズルと出てきた。なぜ寒いのかが分かった。
「風邪かぁ……」
(風邪引いたのか?)
「多分……そりゃそうだよなぁ」
(それなら寝た方が良いんじゃないか?)
「寒くて眠れん……だから火に当たろうかなぁって」
当たり前だが焚火の部屋には火がついていない。なので火打ち石でカチッと火をつけた。
この火打ち石で火をつけるの懐かしいな。ドラゴンの煙吸ってた時はたまにやってた。
「あったけぇ」
ぼんやりと火を眺める。それに手をかざしても、相変わらず背中に寒気はあったが、それでも何にもしないよりは明らか暖かい。ここに来て、少し眠たくなってきたが、また布団に戻った時にはまた眠気が飛んでいってることだろう。
「……みんな何してんだろ?」
(みんなって大臣さんとか?)
「そうだね。セントラルのみんなとかも」
(大臣さんもまだ起きてるよ)
「そっかぁ。こんな時間にまだ起きてるんだ」
俺はまだ布団に入ってから、一睡もしていない。時間もそこまで進んではないと思うけど、それにしてももう夜遅い時間だ。
それでも大臣はまだ起きてるらしい……ここからでもテレパシーで声届いたりすんのかな? 試してみるか。
あーあー大臣ー聞こえるー。
(はは! 聞こえた)
「えー! マジで?」
(ん? もしかして僕のは聞こえてない?)
(あ、聞こえてます。てか、何してるんですか?)
(ん? 知ってるでしょ?)
(まぁ、知ってますけど、でもなんで一人で?)
(一人の方が捗るかなぁってね。ははは!)
(危なくないですか?)
(ん? スティーが居るから大丈夫だよ)
それはそうだな。いやぁ、今どこに大臣が居るのか知らないけど、こんなに遠くに居てもテレパシーって出来るんだな。便利。
(聞いてこないの? 見つけたかどうか?)
(国ですか?)
(そう。どっちだと思う? はは)
この感じだと見つけてそうだな。なんかウキウキしてる気もするし。
(あったんですか?)
(そう、あった。ただ中には入ってないよ? 中に入るのは君たちと一緒にね?)
(あったんだぁ……てかまた旅になりそうなんですね)
(まだまだ後の話だよ。僕にもやりたい事が出来ちゃったからさ! ははは!)
(そうなんですね……)
なら良かった。ちょっとホッとしたぁ。
このまま行くと一生旅をして生きていくことになっていた。大臣のやりたい事がなんなのかは分からないが、それでも嬉しい。
(僕もう寝るからさ? またね?)
(あ、いつ頃帰ってきます?)
(もう戻り始めてるよ。だからもうすぐだね)
(待ってます。おつかれ様でした)
(はは。おつかれ……)
ちゃんと生きてた……しかも他国見つけてるし優秀過ぎ。はぁ……俺も風邪引いてる場合じゃないよぉ。
それからどうも布団に入る気になれず、ずっと火を眺めていると、一ついいことを思いついた。
親方にもテレパシーって出来んのかな? もし、今寝てたら悪いけど、試すだけ試して……いやでも夜だよ?
それからしばらく悩んでみたが、寝てたら寝てたでいいやと思ったので、小声でテレパシーをしてみることにする。向こうに小声で聞こえてるのかは分からないけど。
……あーあー……親方ーー……
うん。届いてないか、向こうが寝てるかのどっちかだな。応答がないし。いや、幻聴って思ってる可能性もあるからもうちょっとやってみるか。
……あーあー……親方……応答してー……アキラです……
(なんだ?)
(あ、お久しぶりです)
(久しぶりだな。だが私は今作業中だ。出来ればまた今度にしてくれ)
(あぁ、すみません……元気だって知れて良かったです、また明日)
(明日な。おやすみ)
(おやすみなさい)
早く親方の顔見たくなってきちゃった。てか、こんな時間まで作業してるって化け物か? それとも昼夜逆転しちゃってる? なんか色々と心配にもなってきたなぁ。
まぁ、魔法を使ったおかげで、やっと眠くなってきたな。このままここで寝てもいいけど、火事になるかもだから火を消さないと。
魔法を使うのが煩わしかったので、部屋に置かれた樽から水を汲んで焚火に流す。
火が消えると部屋がいきなり暗くなる。外は雨だから廊下からの光もほとんどない。さて寝るとするか。
(これから大変かもだけど、頑張ってね! 大丈夫、私がついてるから!)
「え?」
(どうかしたか)
今、いきなり聞き覚えのない……いや、聞き覚えはあるぞ? でも誰か分からない。そんな感じの声が聞こえてきた。テレパシー? 誰がしてきたの?
「今、エリー喋った?」
(喋ってないけど? どうしたの?)
「……誰かが話しかけてきた……気のせいかな」
(気のせいでしょ? え、まさかそんなに風邪酷かったの?)
「あ、風邪?……そういえば風邪だったんだっけ?」
(えーー、もう治ってるのに幻聴? 早く寝た方が良いんじゃない?)
「かも……まぁ、寝るか」
うわぁ、心霊現象? それにしてはポジティブなこと言われたけど……てか、どう考えても聞き間違いじゃないんだよなぁ。頭にはっきり聞こえてきたよ? なんだったんだアレは?
そんな考えは布団に入ってしまうとすぐ消えた。眠かったから。
読んでいただきありがとうございました!
よろしければ下の☆マークから評価等よろしくお願いします!
ありがとうございました!