142 雨の中でも作業
昨日も大臣が帰って来なかった。エリーさんは元気だと言っているので心配はしてないが、このまま俺たちを置いて、ずっと旅をし続けるんじゃないかって不安はある。
そうなったら勝手に帰っちゃおうかな? てか、そもそもどうやってここからセントラルに帰るつもりなんだろ。
そんなことを考えてる雨の日。久しぶりだ。
雨になると本格的にやることが無くなってしまう。みんな焚火の部屋でぼんやりとするだけだ。ふぅ……眠たい……
ずっとボーッとしていると、玄関から人の声が微かに聞こえてきた。聞き覚えのある語尾が伸びた声。
「私が行ってきます」
「あ、はい」
ヘルミーさんが立ち上がり、応対に向かう。こんな雨の中なのになんだろう? なんか落とし物でもしたかな?
「やぁやぁ、どうもどうも」
「あ、おはようございます」
「昨日はありがとぉね。で、いきなりで悪いんだけどぉ……死体の処理手伝ってくれないかなぁ?」
「え? 良いですよ。やることなかったんで」
「そう!? 良かったよぉ。だって雨でしょぉ? 早めに処理終わらせないとねぇ」
「あぁ、そうですね」
確かにあれだけの死体を雨の中放置したら地獄みたいな臭いがしちゃうだろうな。でもあれだけの量をどうにかするのも無理だぞ。
「私も手伝いたいです。良いですか?」
「あ、それなら私も行きますよー。おそらく今日もユーリは帰ってこないと思うので」
「そお? ならみんなで行こうかぁ」
人手は増えたけど、それでどうにかなるようなもんでも無さそう。まぁ、居ないよりは絶対いいけど。
雨の中、みんなでドラゴンの巣跡地に向かう。はぁ……ちょっとだけ憂鬱だぁ。
俺はいつものように、カエデさんの後ろで、目的地に着くのを待っていた。
「思ったより臭い無いですね」
「雨だからなぁ。これが止んだら終わりなんだなぁ」
「他にも作業してる人いますね」
「徹夜なんじゃねぇかなぁ? まぁ、とにかく少しでもマシな状況にしないとなぁ……」
俺にも手伝う責任がある気がする。てか、多分ある。もしエリーさんから他国の話を聞いてなかったらもう帰ってたのかな? そう考えると大臣が探しに行ってくれて助かるな。いや、仕事は増えてるぞ?
「おつかれ!! もういいぞぉ!」
さっきまで作業してた人達と入れ替わり、俺たちがドラゴンの解体をする。基本的にこの世界には良く切れる鋭い刃物が無いので、こういう作業はドラゴンの爪なら牙やらを研いだもので行われる。
これはセントラルでもここでも同じだった。これが無かったらもうちょい親方も仕事増えてたのにね。
爪やら牙やらがあるせいで刃物の需要がない。
変なことを考えながら一つ一つ鱗を剥がしていく。うーん……ここまで近づくと流石に臭いが……
「キリがねぇなぁ。魔法って今使えるかぁ?」
「はい。使えますよ?」
「もうさぁ。あそこの山を全部燃やしちゃってくれねぇかなぁ? 鱗ごとさぁ?」
「良いんですか?」
「良いよぉ。鱗の価値もおかしくなってきてるんだよなぁ。ちょっとぐらい燃やした方が良さそうだ」
鱗の価値かぁ。そりゃこんだけあればなぁ。
よし! じゃあ、あんまり細かいことは気にせず燃やすかぁ。
ハリォードさんに指差されたドラゴンの山に火の玉を投げ込む。雨の中でもブワッと火が広がって、焦げくさい臭いが立ち込めた。
「おぉ……雨でも関係ないのかぁ?」
「うーん。関係ないってわけでも無いですけど……でもこれぐらいなら」
「そうかぁ。便利で良いなぁ。お前の世界の人間はみんな出来るのか?」
「え……」
その質問は死ぬほど困る。だって別に魔法は誰でも使えるから……どうしようかなぁ……
「ん? どうしたぁ?」
(この世界に来てから使えるようになった。それで良いだろ)
「あ、この世界に来てからですね! 使えるようになったのは……」
「ふぅーん。何がきっかけなんだろうなぁ。確か一回死んでるんだよなぁ?」
「聞いたんですか?」
「うん。大臣さん? からなぁ」
大臣がどれぐらいみんなに話してるのか分からないから難しいな。どんなこと話してるんだろ。
「大臣といつもどんな話してるんですか?」
「そうだなぁ……」
俺たちは手を動かしながら会話を続けた。遠くでもエラさんとカエデさんが仲良さそうにドラゴンを解体している。
血が雨で拭われてちょっとだけ赤い頬。グロテスクなはずだけど綺麗な気もする。
「大臣さんとは情報交換ばっかりだよぉ。俺がそっちのことを聞いて、大臣さんがこっちのことを聞く。そんな感じだなぁ」
「……あぁ、そうなんですね」
手が真っ赤になって気持ち悪い。しょうがないから水溜りで手を少し洗った。
ふぅ……もう疲れた。何より雨が鬱陶しく感じてきた。髪がウザい。
「もう燃えたみてぇだなぁ。助かるよ」
「いえいえ……」
その後も何回かドラゴンの山を燃やしていると後ろから馬車がやってきた。
「おーい。お疲れ様」
「おぉ、中々進んだよぉ。後はよろしくなぁ?」
「もう終わりですかね?」
「おう。おつかれさま。ホントに助かったよぉ」
エラさんとカエデさんも集まり、みんなで帰宅の準備をする。はぁ……温泉入りたい……室内の。
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