141 山
ハリォードさんの身体はドラゴンの血で染まって真っ赤になっていた。ちょっとグロテスク……
「アンタらぁ、必要な物があったらいくらでも持っていってなぁ」
「あ、ありがとうございます」
「出来るだけ肉とかも保存しようとしてるんだけとねぇ。量が多すぎてさぁ……本当はぁ俺も屋台で遊びたいんだけどなぁ」
「手伝いますよ」
「でもなぁ。もう腐りかけてて肉の加工は無理そうなんだよぉ。だからこの死体の処理に困っててさぁ? 特にあのどデカいのなぁ」
このまま放置するわけにもいかないな。俺に出来ることはぁ……
「なら燃やしちゃいましょうか?」
「魔法でかぁ? そんならありがたいけどぉ鱗がちょっと惜しいよなぁ」
「調節すれば多分……肉だけ燃やすんですよね?」
「出来んのかぁ? そんなら俺も見てみたいしなぁ」
よく分からないけど、多分出来るだろ。念の為まずはちょっとだけやろ。
小さな死体の山を探して、そこを燃やすことにする。小さいと言っても数十ぐらいはありそうだけど。でもこれぐらいなら鱗が無くなっても良いだろ。
火を付けるとドラゴンの油のせいか、火がドンドンと強くなる。それを抑えるようなイメージで……
鱗の様子を見ながら火を調節していると、途中で肉からポロポロと鱗が剥がれ始めてきた。もう良いのかな?
「おぉ! 剥がれてるなぁ」
「こんな感じですかね? でも、もうこれ以上は……ごめんなさい」
「いやぁいやぁこんだけで十分だよ。ちょっと……アッチィィ!」
ハリォードさんは焼きたてホヤホヤのクソ熱いであろう鱗を触って飛び跳ねた。そりゃそうなるだろ!
それにしてもドラゴンを燃やすと肉のこんがりと焼ける臭いがして美味しそうだぁ。でも腐ってるんでしょ? 辞めといた方が……
「食べれそうなとこありますかね?」
「んん? 臭いが大丈夫なら食べれるんじゃないかぁ?」
「た、食べるんですか?」
カエデさんが驚いている。でも臭いが良いんだよ……お腹も減ってるし。
ちょっとだけ口に含んでみる。大丈夫そうなのでそのまま飲み込んだ。
「食べれそう……」
そのまま食べ進めていくと明らかに変な部分に当たったので、そこでもう食べるのを辞めた。
そんなことをしていると鱗の温度もだいぶ下がったので、ハリォードさんと一緒に回収作業をみんなでする。
「いやぁ、悪いなぁ。君たちも忙しいらしいじゃぁない」
「そんなに……あ! そういえばカエデさん……」
「あ、すみません……」
「おぉ、なにか予定がぁあったぁ? それだったら引き留めたりはしないけどぉ」
「ちょっと良いですか?」
「もちろん、もう十分だよぉ」
カエデさんには買い物の予定があるんだった。ここへ来た理由も微妙に忘れてきたけど、目的は多分果たしてるはず。
「あぁ、それなら鱗、貰ってていいよぉ?」
「良いんですか?」
「うん。だって、君たちが倒したやつだからさぁ」
ハリォードから鱗が詰まったカバンを渡される。それを、馬の後ろの方で何もすることがない俺が抱えた。
「今度はちゃんと手伝いたいです。その時はよろしくお願いします」
「そう? まぁ、待ってるよぉ。へへへ」
馬に乗りながら、そこそこの眠気が来た。しかし、流石にここで寝たら落馬するだろうし、もう少しだけ頑張んないと……なんか話そう。
「いやぁ、大変そうだったね」
「そうですね。すみません、私のせいで手伝えなくなってしまって……」
「……いや、実は俺も魔法使って疲れてたから。むしろありがたい」
「……ありがとうございます」
うーん。眠気覚ましのために話したいんだけど、そんな空気でもなくなってしまった。俺が魔法を使って疲れてるのは本当なのに……
まぁ、気合いで起きることにしようか。それともルドリーとかに話しかけてみる? 何を?
いや、それならカエデさんと多少無理やりにでも話した方が良いな。うん。
「カエデさんって……昔から弓上手いの?」
「弓ですか? 昔は下手でしたよ? でも……私の村は近くに草原があったので、狩りが得意な人が多かったんです。その方達に教わったお陰で……」
「草原? あぁ、狩場なんだっけ? 俺は剣だから詳しくないけど」
草原っていうと初めて俺がここへ来た時に居た場所だっけ? ちょっと忘れっぽいけど、あれは流石に覚えてるなぁ。目覚めたら草原にいて……で、変なドラゴンに襲われて。
「草原かぁ……懐かしいなぁ」
「そうですね……」
懐かしんでばっかりだ。こうしてカエデさんと二人で外にいると昔のことを思い出すなぁ。
ここを帰ったらカエデさんはまた王子様の世話に戻るのかな。俺はまた別の国を探しに行くのか?
こういう時、大臣ならどうすんだろ?……いや、大臣は誰かと一緒に居たいとか思わなさそう。分からんけど。
どっちにしろこういう時間は珍しいんだし、ちゃんとしないと……眠たいなんて言ってる場合じゃないな。
「温泉楽しんでね? 帰りになんか食べ物買ってきてよ」
「え? はい! 何が良いですか?」
「うーん……肉?」
「お肉ですね? 分かりました!」
その後もマジでどうでもいいような会話をしながら、街まで戻った。帰ったらすぐ寝よ。
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