15 雑貨屋の少女
「おい、お前ら! ドラゴンの群れを倒したって本当か!?」
城に向かう途中で若い人からお年寄りまでいろんな人に話しかけられた。いきなり人気者になったみたいでちょっと怖い。
おそらくドラゴンを倒したことが広まっているんだろうけど昨日の出来事だぞ、早すぎないか?
「どうしてみんな知ってるんですかね? 流石に早すぎるような」
「だから、昨日からずっと言っているだろう? 私たちはとんでもないことをしたんだ! これに王はなんていうだろうな、今から楽しみだよ」
親方は不敵な笑みを浮かべていたがすぐに消した。しばらくすると遠くの方から走ってこちらにくる薄い栗色の髪をした少女がいた。白いエプロンの下に淡い緑のドレスを着ていて走り辛そうな服なのにすごいスピードで走ってくる。
「ミリアさまーー! お怪我はないですか? 私特製の傷薬を持ってきましたよー!」
走りながら大きな声でなにかを言っている。ミリア様とは誰のことだろうか? もしかして親方のことか? それでもなぜ様付け?
親方は背伸びをして片手を振り、その少女に応えていた。親方の赤い髪は手を振るたびに揺れる。
「親方って……ミリアさんっていうんですか?」
「ああ、そうだよ。お! アイラ! ありがとう。いつも助かるな、でも今回はこいつに渡してやってくれ」
いつのまにか近くに来ていたアイラと呼ばれた少女は親方に渡そうとした小さな木の箱を俺に手渡した。なんだか渋々ではあったが。
「これ、擦り傷になっている所に塗ったりとか、あと痛みがひどい時に飲んだりするといいですよ……」
大きな怪我こそしなかったが擦り傷や痛みは体中にある。もしそれが良くなるならありがたいが……
彼女の態度が親方に話しかけていた時とはだいぶ違う気がした。まぁ初対面だしな。てか、挨拶してないな。
「あの、俺、別の世界から来たアキラです。これからよろしく」
「あ、そうなんですね。よろしくおねがいします」
いや、ちょっと冷たくないか。これからまた会うことがあるだろうし、名前ぐらい名乗ってくれてもいいのでは?
「アイラ! こいつはドラゴンの群れを倒した男だ!もうすこし愛想良くしたらどうなんだ?」
親方が注意している。それが効いたのか今度は俺に向かい、自己紹介を始める。
彼女の大きな瞳が俺に向けられるとなんだか問い詰められているようですこしだけ戸惑った。さっきまでとまったく違ったハキハキとした声で話し始める。
「そこの路地の奥にある雑貨屋で働いている……アイラです! お店に足を運んでくださった時はしっかり接客しますのでご安心してください」
彼女が深々とお辞儀をしたので俺も頭を下げた。
アイラさんは頭につけていたカチューシャが落ちそうになっていたがギリギリのところで頭を上げていた。
「おし! 私たち城に用があるんだ! ひとまずこれでお別れだ……またな!」
「あぁ、ミリアさま! かならず、またお会いしましょう。お仕事! 頑張ってください!」
アイラはギリギリまで手を振って、俺たちを見送っていた。なんだかただの知り合いって感じじゃないなぁ。俺はそれを親方に聞いてみる。
「どうしてあの子、親方のこと様付けしてるんですか?」
たしかにアイラさんはまだあどけない少女だった。敬語で話すのならいいのだが、様付けをするのはすこし、いやかなり違和感がある。
「私にもわからない。いつしかそう呼ばれていたんだ。別に悪いことを言われてるわけじゃないからいいだろう」
あんまり気にしてないのね……そういえばアイラさんが来てからカエデさんが黙ったままだ。
まぁ、あんなに熱量がすごいと圧倒されても仕方ないだろう。すこし話しかけてみるか。
「カエデは王様になんの仕事を希望するの?」
驚いたように俺の顔を見るために顔を動かす。勢いで長い髪がブワッと広がった。
「みんなと一緒に鍛冶屋で働けたらいいなぁ……と思ってます! 出来るだけ……みなさんの近くで働きたいです」
俺もそうしたかった。だから俺もやれることを出来るだけしよう。
「リフォームのついでに頼んでみようかな……多分それくらいなら聞いてくれるでしょ」
「どうだろうな。おそらく鍛冶屋で働かせてもらうことは難しいぞ」
親方が話に割り込み、鍛冶屋で働くことは難しいと言い切る。それを聞いてカエデも落ち込んでしまったのか下を向いてる。
だが、カエデはこの街に引っ越してきて間もないので仕事がない。鍛冶屋になれないことなんてあるのか?
「どうしてそう思うんですか? 鍛冶屋は人手不足だって言ってたじゃないですか?」
そのはずだ。だって俺は鍛冶屋にそういう理由で働くことになったのだ。実際、親方以外にあそこで働いている人をまだ見たことがない。
「いろいろあるんだよ、この世界にもな……それよりも、やっと着いたみたいだぞ! 城に」
見慣れたはずの城は何度見てもすげぇって感じだった。なんだそりゃ。前と同じように跳ね橋は降りており、誰でもお城に行き来できるようになっている。
「やぁ! 来ると思ってたよ。君たち! 王様に用があるんだろ?」
橋を渡り、門に入ると大臣が向かい入れてくれた。今日の大臣はなんだかいつもよりまともそうな雰囲気がしている。
「あぁ、そうだが、私たちに何か用か? 大臣さま?」
親方が大臣に話しかける。なんだか嫌な空気が漂っているような……そういえば俺が大臣に連れられて来た時も親方めちゃくちゃ機嫌悪かったなぁ。
「うん! 用があるんだ! 実はさ、ドラゴンを倒す手助けをしたくてねぇ。王様に会う前にまずは僕の部屋に来てくれないかな?」
手助けをしてくれるのか、有り難いがどうしてわざわざそんなことを?
「おい、お前。アイツの話を聞いてやれ……その間に私たちは王との用事を済ませておく。お前の願いは家の掃除だろ? それも言っておくよ」
そんなぁ、俺も連れてってほしい。あの部屋には出来ることなら行きたくない。
「え、いや、俺も親方について行こうかなぁって思ってるんですけど」
話をさえぎるように大臣は喋り出した。
「わかったよ! 僕も彼の方が話しやすいしね! 二人だけで話し合いをしようか? それじゃあ、君たちはさよなら」
大臣は親方に手を振っていたが親方が振り返すことはなかった。絶対この二人なんかあったでしょ。
「ははは! また君を僕の部屋に招待出来るなんて幸せだなぁ、なんだか君とは気が合うんだよね! はははは!」
大臣の顔の緊張が緩んでいつもの感じに戻ってしまった。なにがそんなに楽しいんだか分からないがめちゃくちゃ笑ってる。
大臣の部屋の前につくと扉が前よりも汚くなってる気がする。あれから何度か煙を吸ったのだろうか。
だとしたら今日も煙の話だろうか?また吸わさせられるんじゃないだろうか?それは嫌だな。
「ようこそ! 名誉ある栄光の素晴らしい大臣の部屋へ! ははは!」
この部屋にもだいぶ慣れてしまった。だが、油断は禁物だ。いつ何が飛び出してくるか分からない。気をつけて中に入ろう。大臣が部屋の扉を開けると、やっぱりカラフルな煙が漏れてきた。危ないから吸うのやめた方がいいのに。
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