138 本当に大丈夫なのか?
しばらくそこに立ち止まっていた。そのせいかこちらが話しかけるよりも先に向こうから話しかけられた。
「興味ありますか?」
「え? あ……」
「あるならこちらでお話でも……」
(向こうから来てくれて良かったな)
そのまま腕を引かれて、その集団に混ざる。一応カエデさんも後ろについて来ていた。もしここに大臣が居たら大笑いするんだろうな。
「アナタはドラゴンを殺したことがあるでしょうか?」
「……いやぁ……」
「良いのです。正直に言って頂ければ」
「……まぁ、生活もあるので」
「ならばアナタには罪が乗っています。それを償いましょう」
その紫の服を着た女性はちょっとやつれたような雰囲気のお年を召された方で、怪しい。このままだと変なツボを買わされるぞ?
「罪を償う方法は簡単です。祈るのです」
「祈る?」
「それだけで救われます。ただ、祈り続けることは常人には不可能です。なのでそれを助けるような物がこちらにあるんですが……」
話はや! やっぱりなんか買わせようとしてるじゃん! ちょっと頑張ってこっちから話題を切り出さないと……
「あの! すみません……」
「どうされましたか? 罪を償うための準備が出来てませんか?」
「あの……タグュールさんって方知ってますか?」
「…………え?」
その瞬間、その女性の目に輝きが戻った気がする。まぁ、気のせいかもしれないけど。
「知ってるんですか? ならもしかして……」
「……」
「ドラゴンの巣で離れ離れになった。そうですよね?」
「…………」
年老いた女性はそっと目に手を当てて、涙を隠す。あぁ、やっと見つけたけど、一体なにがあったのよ?
これもう全部言っちゃおう。ダメだったら俺がここに来ることはもう無くなっちゃうかもだけど。
「俺は他の国から来ました。で、そこにはタグュールさんがまだ生きてます……」
「ん? おい! 他の国から来たってまさかお前らが!?」
「……連れて来ます。それか一緒にセントラル……俺たちの国に来てください。ダメですか?」
「…………」
おいおい。なんか随分勝手なこと言ってないか俺。そもそもこんな危なげな人をセントラルに連れてきて良いの? あっちでもこの怪しげな宗教を布教しようとしたらどうするの?
「連れていって頂けるのでしょうか?」
「はい。そんなに遠くでもないんで」
「ならよろしくお願いします……本当、なんですよね?」
「本当にタグュールさんは生きてますし、本当に連れて行きます」
「私は少しだけここを離れることにします。分かりましたか?」
「でも! コイツはドラゴンを!」
「……如何なる罪であろうと償えるはずです。私たちはその手助けをするだけですから」
その集団から離れると女性はついて来てくれた。なんか他の人たちは納得してない様子ではあったけど、止めることはもうしなかった。
「あの、お名前は?」
「リィーアシィです」
「……リィアシー?」
「……違います……」
またまた笑われた。これもしかしてタグュールさんの発音も間違ってたりする? それぐらい全然合わないんだけどなんで?
そんなわけでリアシーさんを連れてヘルミーさんの家に帰ってきた。流石の大臣もびっくりするだろうな。ははは!
「……そちらの方はどなたですか?」
「あ、前に頼んでた人ですね。あの……タグュールさんの。覚えてます?」
「見つかったんですか? それなら良かったです」
ヘルミーさんは案外そこまで驚くことなく、普通に対応してくれた。後は大臣とエラさんだ。二人とも普通に受け入れそうだなぁ。
「あ、おかえり。あれ? 誰?」
「あの、タグュールさんの……この人とセントラルに一緒に帰っても大丈夫ですか?」
「良いけど、どうするの?」
「一緒に乗って……」
そういえばこの人ドラゴンの宗教やってんじゃん。そんな人がドラゴンに乗って空を飛ぶとか許してくれるかな? そもそも俺たちって歩いてここに来たことになってるんだっけ?
なんも考えずに行動しちゃった……ここまで来て断るとかはあり得ないし……どうしよう……
「……まぁ、なんとかするよ。ははは!」
「え?」
「僕がなんとかしてあげるから。連れて来たら良いじゃん。君も来たいんでしょ?」
「あぁ……本当にありがとうございます……」
「ははは! そりゃ死んだと思ってた人が生きてたら会いたいよね! 僕もそうだもん。ははは!」
「すみません……いきなり……」
「別にこれぐらいならなんでもないよ。はは」
うわぁーー……めちゃくちゃ懐広いじゃん。え? これホントに大臣? 惚れそうなんだけど……カッケェ。
予想外の回答にちょっと驚いたが、俺の適当な部分をカバーしてくれて本当にありがたい。これからはもっと素直に大臣の言うこと聞くことにしようかな。
てか、そういえば大臣に従ってて悪いようになったこと無くない?
色々めちゃくちゃなことを言い出すところはあるかもだけど、ちゃんと成功する根拠があることだったのか。ちょっと見直さないといけない。
俺の考えていた大臣のイメージが少し変わった。もしかしたらもっと立派な人なのかもな。だって大臣だし。
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