132 無数のドラゴン達
今日も晴れ。
カエデさんが手綱を引いてる馬の後ろの方に乗りながら、街を出て行く。
街のみんなも戦闘準備完了って感じで弓矢を構えたり、動きやすそうな服に着替えたりしてる。
「それじゃあ行ってくるよ? ははは!」
「お気を付けて……」
「心配しないで良いよ」
みんなに見送られながら、森の方向へ進んでいく。あぁ……もう引き下がれない。
緊張で吐きそうになりながら落とされないようにカエデさんの体をしっかり掴む。地味にこんなに密着するの初じゃないか?……別の意味で緊張してきた。
馬は足元の悪そうな中をパカラパカラッと進んでいく。自然と口数は減って、俺以外も緊張してるんだなぁっていうのが伝わってきた。
そこそこ速い馬のおかげで前よりもすぐにドラゴンの巣の場所に着いた。やぁ……マジでやるのか?
「じゃあ、よろしくね」
「…….もうやるんですか?」
「うん。バレたら面倒だからね」
「じゃあ……はい」
魔法で火を作るような芝居をする。すると目の前にクソデカな火の玉が出来た。やりすぎじゃない? スティー……
それを見てカエデさんやエラさんも驚いている。俺も驚いているが、それを表に出さないようにしないと……
いつまでも目の前にいる火の玉は放たれるタイミングを待ってるみたいだった。なんかやらないとか?
「…………おりゃ!……」
デカい火の玉は真っ直ぐドラゴンの巣に向かっていき、着火する。晴れていた空はモクモクと上がる煙で暗くなっていった。
そして地味にキツいのが悲鳴。ドラゴンがギャーギャーッ鳴いてる悲鳴がここにまで聞こえてくる。ちょっと耳も痛くなってくる。
逃げ出すことが出来たドラゴンは空を覆い尽くすほどいたが、それでもこの悲鳴を聞く限り相当数のドラゴンが死んでることだろう……悪いことしてる気分……
「おつかれ。そこら辺で横になっててよ」
「あぁ、はい……」
「おつかれさまです! 後は任せてください!」
俺は切り株に寄りかかりながら、みんなの様子を見ることにした。早速この辺りにやってきた奴らを素早く弓矢でやっつけていくカエデさん。
大臣も弓を使っていたが、剣を使えるほどの距離まで敵が来れば剣でスパッと切る。
それは次第に激しくなっていき、目で追うことも難しくなった。みんな頑張ってる。俺はこのままで良いのかなぁ。
ドラゴン達は街の方にも行ってる。ただ、それはスティーがなんとかしてるんだろう。手伝ってくれるのか半信半疑だったが、あれだけ大きな火の玉を作ってくれたんだ。きっと……
ビャャャャーーー!!!
耳が裂けそうなぐらいの音がこの空に響く。すると空のあらゆる方向へと逃げ回っていたドラゴン達が集まって行く。それは一切にこっちに飛んできた。なんかキモい。そんなこと考えてる場合じゃないので、俺も火の玉を作ることにした。
さっきほどじゃないが、そこそこの火をドラゴンの集団に投げ込む。当たって数十匹は落ちてきたが全体の数を考えるとほとんど意味ない。
(ホントにアイツは助けてくれるのか?)
「さぁ」
(なんでそんなに落ち着いているんだ?)
「なんでだろうね」
立ち上がり、剣を握る。煙で空が暗いし、ドラゴンの塊の陰も暗い。真っ暗だ。
それでも近づいてくるドラゴンは臭い吐息や瞳の輝きで分かる。それに向かって思いっきり剣を振りかざし続けた。
足元にも蛇やトカゲのドラゴンが這い寄って来る。それらはきつく踏みつけた後、魔法で吹き飛ばした。
みんなは大丈夫なのかな……
俺は大丈夫だけど。
自分の周り以外はもう何も分からない。ただただ剣を振り続けるしかない。久しぶりだったが前よりも強くなってる気がする。
死体の山が出来上がったことで、さっきまで好戦的だったドラゴンもどこか控えめだ。上空を漂うだけで何もしてこないやつが増えた気がする。
「ははは! 君は元気そうだね?」
「あ、大臣」
「カエデくんもあっちでまだ頑張ってるよ? 慣れない魔法も使ってさ! はは!」
「エラさんは?」
「スティーが安全な場所に。前とおんなじだね」
「とりあえず合流しますか。カエデさんと」
「だね! いやぁ、ホントにスゴイなぁ」
大臣がカエデさんにスゴイって言ってるのか、この景色に対して言ってるのか分からないが、とにかく元気そうで何よりだ。
「カエデさん!!」
「あ、アキラさん!」
カエデさんの周りにまとわりつくドラゴンを魔法で地上へと落としていく。
疲れ果て、傷だらけになったカエデさんに近寄り、体を支えた。
小声で独り言のように呟く。それでも聞こえるだろうから。
「……スティーは居る?」
『居るぞ』
「あぁ、良かった。ちょっと傷とか治してくんない?」
『分かった。自分でやるのか?』
「うん」
エラさんが居ないなら別にスティーがやっても良いんだけど……コレを握るのが久々すぎてもっと楽しみたい。
(俺の出番はなさそうだな)
「うん。多分」
体の疲れがスティーの魔法で一気に取れる。そのまま俺に向かって降ってくるドラゴン達を順々に切って行く。
カエデさんは弓矢なので出来るだけ近くに寄る。この方がカエデさんを守りやすいし。
大臣も近くに来て、三人で無数のドラゴンを倒し続けていた。
何回もスティーに怪我や疲れを治して貰いながら、いつまでも燃え続けるドラゴンの巣に向かって少しずつ近づく。
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