122 泉にくまさん
楽しそうな大臣が声を上げる。
「ははは! 見つかったよ!」
楽しそうだなぁ。そんな楽しそうな大臣の元に二人で駆け寄る。合流出来て良かった……
「はぐれちゃってすみません……もう戻りますか?」
「お気になさらず。戻る前に泉に入っていきませんか? 汗が流れて気持ちいいですよ?」
「それなら是非……」
泉かぁ。温かくない泉もあるんだね。さっきまで汗が吹き出してしょうがなかったけど、今は探し回ったせいで逆に引いてる。もうちょっと早く入りたかった気もするけど、まぁ、無いよりは大分良いな。
みんなと合流しても結局は歩くんだ。こうなると広すぎるのもめんどくさいな。もうちょっとコンパクトとにまとまってくれてたら便利なのになぁ。
それにしても雨が止んだだけでこんなに変わるとはな。何故かドラゴンも襲ってこなくなるらしいし、雨さえ降らなければ良い国だ。
「ここは冷たい水が流れています。お好きな所へ」
滝が上からバシャバシャ流れている。ここは泉なのか? まぁ、細かいことはどうでもいいので、適当な場所に浸かる。
入った瞬間、冷たくて出た。カエデさんも同じで足だけ入れて戻った。
「こちらに桶がありますので、そちらで……」
「あ、はい」
俺たちの様子を見ていたヘルミーさんが桶の存在を教えてくれる。なるほど桶で水をすくうのか。みんなでここに汗流したら汚いもんな……いや、そんなこと言ったら温泉も汚いってことに……うん。
肩のあたりから水を流すとひんやりして気持ちいい。ふぅ……気持ちがいいなぁ……はっ! アレは!
「クマだぁ……」
「へぇ? ホントですか……あぁ! くまさん!?」
木々の中に俺よりもかなり背が高い熊がガォーッて感じで現れた。ドラゴンは出ないけど、クマは出る。それって結局危ないじゃん!
森をガサガサとかき分けて俺達に近づいてくる……魔法でやるか……
「あ、心配しないでください。悪いクマじゃないので大丈夫ですよ」
「……そうなんですね……」
悪いとか良いとかクマにあるの? びっくりしながらクマの動きを見ていると、泉の方に行って飛び込んでいるのを確認した。
大きな音を立てて水飛沫が上がる。俺たち以外のみんなは慣れているのか見ることすらしない。
俺たちもクマを無視して汗を流す作業に戻った。
「クマとかもいるんだね。猪とかはたまに出会ったことあるけど」
「私も久しぶりに見ました! その時は私たちに敵意があったので……」
「動物って基本そうだよね。初めて鷹が襲ってきた時はびびった」
森の中で出会う動物はほとんどドラゴンだが、たまぁに別のやつにも出会う。そこそこ珍しいけど。
「もう終わりましたか? それでは帰りましょうか?」
着ていた服が入った布の袋を持って来た道を戻る。途中で肉まんみたいな蒸し料理を買い食いしたりした。道中、いきなり大臣に話しかけられる。
「明日はドラゴンの巣の下見に行こうよ。明々後日ぐらいに突撃しちゃってさ」
「えぇ……でも」
「下見に行くのは明日ね? そこまでの道に荷物が落ちてたらそれで終わりでいいからさ」
「……まぁ、はい」
渋々了解する。ちゃんとエラさんとかカエデさんにも相談してるんだろうか?
「そういえばなんで巣の場所分かったんですか?」
「え? 当たり前じゃん。だって数十年も前に見つけてるから」
「え?」
「タグュールって人は一人で巣を見つけたわけじゃないでしょ? 無事に戻れた女性がみんなに報告したんだって」
「あ」
「ん? どうしたの?」
その人がもしかしたら「アナタ」なのかな。だとしたら挨拶ぐらいしておきたいかも。
「その女性って今どこに居るんですかね?」
「さぁ。そこまでは話聞いてないから、分かんないね」
返事からして大臣は興味なさそうだ。なら俺が頑張って探さないとか? とりあえずヘルミーさんに聞いて、それでダメだったら……どうすれば……まぁなんとかなるだろう!
……あぁ、しまった……あの日記持ってくれば良かった……いや、荷物無くしたこと考えると持って来なくて良かったな。
家に帰って焚火で全身を乾かす。温泉入ったり、水浴びたり、火に当たったりで血管が破裂する可能性がある。幸いにも俺は若いから大丈夫だけど……この国の人は血管が強い?
「あ、ヘルミーさん」
「……はい。どうしました?」
「あの……タグュールさんって分かります?」
「はい。確か、ドラゴンの巣を最初に見つけた方……そちらに行ってらっしゃるそうですね」
「はい。で、タグュールさんと一緒に巣を見つけた人が今どこに居るとか分かりますか? 探してて」
「すみません……私が治めるようになる以前のことなので、詳しいことは……」
「ならその時の王様? と会えますか?」
「恐らくもう亡くなっています……手伝えなくてすみません……」
「いや、大丈夫ですよ! はは……」
うーん。これは難しいやつかもしれないな。そうだ……
「街のみんなってもう俺たちのこと知ってるんですか?」
「まだ一部の人だけだと思います」
「あの……みんなに知らせることって出来ませんかね。セントラルに来た人の名前と一緒に」
「それなら出来ると思います。ただ時間はかかってしまうかもしれません」
「お願いしても大丈夫ですか?」
「もちろんです。長い付き合いになるでしょうから」
よし! これできっと向こうの方から俺たちを訪ねてくれるはずだ。ダメなら……うーん。
しかし長い付き合いかぁ。ここからセントラルへの道を整備する方法とかも考えないと……どうせ俺じゃなくて大臣が考えるんだろうけど。
それなら戦闘とかは俺が頑張るか。マジでそれぐらいしか出来ることないし。今はそれすら不十分なんだけども……
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