14 思ったよりいい人だね。親方
二階から降りて親方に挨拶をしようと部屋を覗くと、まだ眠っていたようなので静かに玄関のドアを開けて外の空気を浴びに出ていく。
この世界に来てから空気が美味しいと感じるようになった。元の世界ではそんなことはなかったような気がする。
ドアから向かいにある自分の家を眺めていると誰かが家の前で大荷物を持っている。じっくりと見てみるとそれはカエデさんだった。
「あ、おーーーい! おはよう!」
片手を振って呼びかける。すると向こうでも同じように手を振って挨拶を返してくれた。
「おはようございます!」
彼女は持っていた大荷物を家の近くに置いてテクテクと歩き始める。ここまでやって来るようだ。
「お! もう起きてたのか? おはよう!」
「あ、おはようございます」
さっきの声で起きてしまった親方が俺に声をかけてくれた。親方は下着の上から薄い服を一枚着ていただけで無防備だった。しかも寝ぼけているのか距離が近い。
「あの……こちらの方はどなたですか?こんなところで何を?」
彼女が橋を渡ってここまで来た。おそらく怪しい関係だと思っているんだろうけど別に悪いことはしていないので堂々としよう、そうしよう。
「鍛冶屋の親方だよ! 昨日俺たちでドラゴンを倒したんだけどあまりに疲れちゃって家の掃除が出来なかったんだ。そこで親方があそこで寝るくらいならって泊めてくれたんだよ」
「あ……そうだったんですね! 怪我もないようで良かったです! お疲れ様でした。でもどうやってドラゴンを倒したんですか?」
この世界では弓矢以外のドラゴンを倒す術がほぼないらしいので疑問に思うのは当たり前だ。
何から説明しようか迷っていると後ろから声が飛んできた。
「それはだなぁ、私が作った装備を使って20匹ぐらいのドラゴンの群れをこいつが一人で倒したんだ! なかなかこいつもやるだろう?」
親方は話が終わると俺にウインクをしてくれた。どうやらカッコつけさせてくれているようだが嘘をついているみたいでなんだか申し訳ない。
「え! それ本当ですか!? 凄い!」
あまりにも目を輝かせるので否定出来る所は否定しておく……俺は熱中症で倒れただけだ。
「でも、親方が作った防具や剣がなかったら絶対そんなこと出来てなかったし、何より俺はただ剣を振ってただけだから凄いのは親方の方だよ。それに疲れて気を失っちゃったしね」
俺じゃなくても良かった。おそらくこの世界の人間なら誰でも良かった。戦いに慣れた者なら一人で全てのドラゴンを倒す事も出来ただろう。
報酬を三分の一で分けてもらう事になっていたが俺がそんなにもらっていいのだろうか?
「しかし、お腹が空いたなぁ……ご飯を作るけどお前らもちょっと食べるか? ついでだから気にするなよ」
親方が不意にご飯の話をした。おそらく褒められて気まずかったのだろう。
「え? ありがとうございます!」
「もし良ければ私も食べたいです!」
「それじゃちょっと待っててくれ」
今日はまだ何も食べてなかったから有り難く頂く事にしたが親方が料理をするなんて意外だと思った。
この世界で一人暮らししている内に勝手に身についたのだろうか? いや、偏見か?
ご飯を作ってくれている間に彼女が今ここにいる理由を聞いてみる。
「もしかして……ここに住める事になったの? 村の人達は納得してくれた?」
「はい! 皆さん快く受け入れてくれてこれからはこの街で暮らす事になりました! よろしくお願いします!」
「うん、こちらこそよろしく」
村の人達に悪いことをしたと思っていたが快く受け入れてくれたならありがたい……またいつか村にも行きたいなぁ。
「そういえば……ドラゴンを倒した報酬で家をリフォームしようと思ってるんだけどどうかな?」
報酬は三分の一と言われていたので自分の分はリフォーム代に使おうと考えていた。他に使い道も思いつかないしそれが妥当だろう。
「素敵ですね! でも……その間に住む場所がないですよね?宿に泊まりますか?」
「親方が綺麗になるまで泊まっていいって言ってくれてるからお言葉に甘えてここに泊まろうかなって思ってるんだけど……どうだろ?」
図々しいかもしれないけど頼れる人間が親方ぐらいしか今はいない。大臣は忙しいだろうし、あと変わった人だ。
「うーん、私も泊まっていいんでしょうか? 迷惑じゃないかな?」
「迷惑じゃない」
親方は出来た料理をテーブルに置きながら答えた。
「迷惑じゃないから泊まっていけばいい。どうせ一人で過ごすには広過ぎるほどなんだ。気にしないでいいよ」
「あの、ありがとうございます! 私、この街で暮らすのは初めてで」
彼女は少し申し訳なさそうにしながら感謝を述べた。
「それよりもこれからどうするんだ? 私たちは王に成果を報告に行くが一緒についてくるか?」
「お邪魔じゃなければ付いて行かせてください!」
「分かった。それなら冷める前に早く食べてしまうぞ……いただきます」
「「いただきます」」
見た目が鉛筆のように細長くて黄色い野菜のサラダとお肉と野菜を煮込んだスープがあったが両方とも思った以上に美味しかった。どうやら親方は料理が上手なようだ。
「さて……ご飯も食べ終わった事だし、支度を済ませてくるから」
俺たちは特にする事もなかったので親方が支度をしている間、お皿を片付けながら待っていると二階から昨日の鎧よりは少し身軽そうな鎧を着て降りてきた。
「それじゃあ、行こうか! お前は報酬を決めておけよ」
「もう決まってます! 行きましょう!」
家を出て三人でお城に向かう。
カエデも親方がいい人だってことが分かったみたいで道中に色々な話をしていた。
この三人で一緒に仕事が出来たらきっと楽しいだろうな。
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