120 温泉でほかほか
いやぁ……良い国だなぁ。
慣れない服装で恥ずかしそうにしているカエデさんがクッソ可愛くて死にそうだ。ほっぺ、アカイネ? ドウチタノ?………………いや……キモすぎるぞオレ。
「なんか慣れないね。ははは……」
「そうですねぇ……慣れないです……」
ゆったりとした服ではあるが、その布一枚がカエデさんと世界を隔てている唯一の存在だと考えると頭がおかしくなりそうだ。見ないようにしないと失礼……
まぁ、何はともあれ着替え終わったので、ヘルミーさんのところに戻った。
「他にも沢山違う温泉がありますのでご自由に行き来してくださって大丈夫ですよ?」
「これって、どこら辺まで温泉が湧いてるんですか?」
「……うーん……自然のものですからね。もしかしたら街よりも大きいかもしれないです」
「へぇ……大きいなぁ」
それって温泉が本体じゃん。ならセントラルには来た人たちからもっと話を聞けてても良かったような……俺の知らないところでそういう情報もゲットしてたのかな。
「早速みんなで入りましょう! 気持ちいいですよ?」
撥水性が良い謎の服に着替えたヘルミーさんは謎にテンションが高い。そう思っている俺もかなりワクワクしていた。元の世界が懐かしいってのもあるかな。
……昔は家族で温泉旅館的なところに泊まったりもあったなぁ。俺が大きくなるにつれて無くなっていったけど。
まぁ、昔の事はいいだろう。とにかく今は温泉に入ろう。
真っ白でお湯の中が見えない温泉は近づくと独特の匂いがする。ふんわりと花が広がるような匂い。
「はぁーー……」
肩まで浸かると自然に息が漏れる。あぁ、ちょーどいい温度だぁ。疲れが取れそう……
ずっとボーッとお湯に浸かる。気持ちいいけど、すぐにのばせそう。別の温泉に移動しようかな……
(良いもんだな)
「え? いきなり?」
「どうかされたんですか? アキラさん?」
「あぁ……ルドリーが…….」
「あぁ、ルドリーさんが……」
周りの人に気付かれないように小声でやり取り。そのせいで距離が近くなってワロタ。ほんのり紅くなったカエデさんの肩が近くてびっくり!
あんだけ弓矢打ってんのになんで肩が細いの?
「…………他のとこも行ってみる?」
「そうしましょう? せっかくなので色々行きたいです!」
お湯から上がり、舗装された道を道なりに歩く。てか、ここも地面土だけど足に付かないのはなんでじゃ?
道を進んでいくと今までとは違う香りがしてくる。良く分からないが、ノスタルジックな匂いがする。どうしてか分からないが、五時頃を思い浮かべた。
「なんか変わった匂いだね」
「そうですねぇ……あ、ここにも人が沢山居るみたいですよ?」
この道ですれ違う人も多い。みんながみんなこの服を着ていてちょっと変な気分だが、旅行に来た感があってそれはそれで良い。うん。
もはや街の外を歩いていると思うほど木が増えてきた。となると心配なのはアレだ。
「結構外の方まで来たけど、ドラゴン大丈夫なのかな? みんな無防備だよね」
こんな時までこんな事を気にするもんじゃないかもしれないけど、気になってしまったので口に出してみる。
カエデさんも知らないだろうけど。
「晴れてるので大丈夫らしいですよ」
「え? どうして?」
「私も詳しいことは分からないんですけど、晴れるとドラゴンの群れがみんな草原の方に行くらしいんです。そんな事を聞きました」
「いつの間に……」
「アキラさんが寝てる時、私もヘルミーさんに着いて行ったんです。そこで聞きました」
あぁ! その時かぁ! 確かにあの時居なかったな。
「じゃあ、今は草原にめちゃくちゃドラゴン居るのかな?」
「そうかもしれないですね……あ! キレイ!」
夕陽のような色をした温泉が目の前に広がる。どこまでも広がっていて、その先が水平線みたいに曲線を描いていた。あ、ここも丸いんだ。
そのどデカい温泉に足を入れた時、マジで熱くてすぐ引っ込めた。灼熱やぁ。
「これ、熱いよ……えー、入れないかも……」
「そうなんですか?」
カエデさんが温泉に右手を伸ばす。もう片方の手は右の二の腕辺りにあった。
「確かに熱いですね……でも皆さん普通に入ってますよね?」
「慣れ? でも熱すぎるような気も……」
「あ、あれ見てください。アレじゃないですか?」
カエデさんが指差したのは橋だ。みんなそれを渡って温泉の真ん中の方へ移動している。
端っこが熱いのか……確かに良く見ればお湯がこの辺りから湧き出している。
「もうちょっと歩こうか」
「そうですね!」
考えてみればデートじゃないかこれは。いや! これはデートだろ! 周りを見渡してもカップルっぽい人達も沢山いる。腕組みながら歩いてる。今にもキスしそうな人が沢山居る。良いけどダメだ……俺には無理ダァ……
橋は水平線のような曲線へ伸びる。めちゃくちゃキレイだ。映えてる。
橋に足を踏み入れた辺りで……手を握った。ここならおかしくない。よ。はぁ……心停止しそう。若いのに。
夕陽色の温泉は空の雲が反射して、夕焼けの空を歩いてるみたいだった。実際に夕焼けの空を飛んだことがあるから間違いない。
「……ここはあったかいね。入ってみる?」
「……そうですね……」
温泉に浸かった。さっきの温泉と何が違うのか分からなかったが、明らかに違うのはこのオレンジの湯の中でカエデさんと手を繋いでいる。
数秒前に入ったばっかりだけど、もうのぼせた。
汗が全身から吹き出してる。
幸い、手の汗が相手に伝わることはない。
はぁー……なんか変だなぁ。こんな時になんで昔を思い出すんだろう……
元の世界でお母さんもお父さんも元気なのかな。
マジでなんで……
「……どうかされました?」
「汗……はは。汗だね……うん」
カエデさんが俺に近づいた。水面が揺らいで雲が波打つ。
(悪くないな)
「……」
……はは。今話しかけてくるか? 普通?
流れてくる汗を片手で拭いて、じっと目をつぶる。
悪くないなぁ。いや、最高かもしれん……
のぼせるギリギリまで温泉に浸かっていた。あがった時に喉が渇きすぎて死ぬかと思った。
読んでいただきありがとうございました!
よろしければ下の☆マークからの評価などもよろしくお願いします!
ありがとうございます!