13 億万長者の道
滝から街までの道は親方が引っ張る荷車に鎧を乗せ、自分は歩いて帰った。 森の中を歩いている道中でどうしてこんなに危険なことをやらせたのかやんわりと聞いてみた。
「あの、あんなにドラゴンがいる所に行くと親方まで危ないんじゃないですか?」
「私は自分で作った防具を信頼してる……何も恐れることなどない」
荷車を引っ張りながら胸を張る。
「だが、君の体調のことはあまり考えていなかった。本当に申し訳ないな」
荷車から手を離し、頭を深々と下げる。たしかに防具のお陰で怪我をしなかったので本当に安全だったと思っていたのだろう。
それに俺はこの世界に来るまでまともに運動をしたことがなかった。この世界の人と比べると体が弱かったのかもしれない。
「そんなに謝らなくても大丈夫です! もう大分体調も良くなってきたので」
親方の作った装備は素晴らしかった。運動経験がない俺が数えきれないほどのドラゴンを倒したのだからそれは間違いないだろう。
「さぁ、街へ行きましょう! 今度は僕が荷車持ちますよ!」
気を使って荷車を持つと申し出る。
「悪いな……だが、私に持たせてくれ! 君には出来る限り休んでほしいんだ……今回のことは私のせいだ。せめてこれぐらい……」
親方は荷車を引いて街への道を歩き始めた。
「あ! 着きましたね!」
セントラルの高い城壁が見えてきた。
「よし! 早速今日の成果を兵士に報告しようじゃないか! 凄いことになるぞ?」
そういうと親方は走って入り口まで向かった、荷車を引きながら。
「はぁ〜やっと戻って来れたなぁ!」
今にも壁が崩れてしまいそうな鍛冶屋に戻ってくると親方は着ていた鎧を脱ぎ捨て、下着だけになった。ドスンと音を立てて、地面に落ちていく鎧は明らかに俺が使ったものより重たそうだった。
「あ、俺、もう帰りますから、また明日よろしくお願いします!」
親方だって女性なのだ、下着姿を凝視していいわけがない。居心地が悪くなってしまったので早いとこ帰ろうと別れを告げると親方が言った。
「しかし、君の家はまだ汚いだろう? 今日は私の家に泊まりなさい! 大丈夫! ここの近くだから歩くことはないよ」
それはもっとマズイだろう。てか、前にも似た展開あったなぁ。まぁ、流石にお互いに疲れすぎているので、大丈夫だろう。
あんな家で寝るくらいならと思い、お言葉に甘えて泊まらせてもらうことにした。
親方はそこら辺に放り投げてあった服をぶんどるように取ると下着の上に着た。
「え、ここですか? ほんとに?」
「ああ! ここが私の家だ! 近くていいだろう」
親方の家は我が家から川を隔てた所にあり、真向かいだった。つまりご近所さんなのである。
「あの、あれが俺の家です。まだ掃除してないので汚いですけど」
向かいにあったとにかく汚い二階建ての家を指差して言った。
「知ってるよ、アイツから聞いた。綺麗になるまではうちに泊まっていいから、明日からも頑張って働いてくれよ」
難しい事はまぁもういいか……今日は早いとこ休みたい。
「じゃあ、お邪魔します」
中に入ってみると思っていた以上に綺麗で清潔な家だった。親方がリビングの椅子に座ったので近くにあった適当な椅子に座る。
二階建てなのでうちに似ているような気がしたが清潔感が全く違った。
テーブルや椅子も立派で村で座った時のようにガタつくこともなく、背もたれにしっかりと体重を乗せられるようになっていた。
「まぁゆっくりしていってくれ。しかし、今日はすごかったなぁ! 私たちも鍛冶屋をリフォームすることが出来る」
ワクワクとした様子で話しかけてくれたが俺はドラゴン退治の相場が全くわからないのでどのくらいすごいのかわからない。
「あの、あんだけのドラゴンを倒すとどのくらいのお金になるんですか? ていうかお金ってあるんですか?」
そもそもこの世界にお金はあるのだろうか? 俺は払っているところを見たことがないかもしれない。
「あぁ、ある。しかしそんな大きな買い物はできないんだ。大きな買い物は国を通さないといけないんだ」
「じゃあ何にお金を使うんですか?」
「使う機会はあまりないよ、食料はある程度もらえるし、困っていることも王様に言えばなんとかなるしね。それより雑貨とか、私が作った鉄製品なんかもお金を使って取引するんだ」
「お金ってどうやって稼ぐんですか?」
「簡単だ、ドラゴンを倒すと報酬として少しもらえるよ。もちろんおまけ程度だかな、ただ! ドラゴンは倒せば倒すほどできることが増える! あれだけのドラゴンを倒せば家の一軒や二軒ぐらい建つだろう!」
「そんなに!! まさかそんなにもらえるなんて!」
「他にも商売の制限が少なくなるだろうし、あと、上手くいけば国の役職も与えられるかもしれないな」
そんなすごいことをやっていたのか……何のためにやったのか疑問に思っていたがそれだったらあの苦労も報われるというものだ。
「あぁ、それなら頑張った甲斐がありました。なんかすごいことになりましたね!」
「あぁ、すごいんだよ! 本当にありがとう、無理を言って悪かった。もちろん君にも分けるつもりだから安心してくれ」
「私とお店と君と三分の一で分ける。それでも大分もらえるだろう……あ! 仕事を辞めようとしてもダメだからな、仕事をしてないと色々な権限が無くなるから働いといた方がいい、これからもよろしく」
「本当に君のおかげだ、ありがとうな」
「いえ、僕はただ親方の言ったとおりにしただけなのでほんとうに凄いのは親方ですよ!家を買うことが出来るなんて、しかも、二軒も」
初めてこの世界に来た時よりも混乱しているかもしれない。今日だけで一体いくら稼いだんだ?1秒で何億稼ぐ男みたいになっているぞと思っていると親方が眠たそうにし始めた。
コクリと首が動いているのがわかる。
「あ、大丈夫ですか、もう眠りますか?」
「いいのか、じゃあ、もう寝ることにしよう、君は上のベットで寝てくれ、私はここで寝る」
そういうと奥から布団を引っ張り出して床で横になりはじめた。もう寝ているようにも見えるが流石にまだ寝ていないだろう。
「じゃあ、おやすみなさい、また明日」
返事がなかったので、勝手に二階に上がる。
部屋が複数あったのでドアを開け続けているとその一つからベットが見えた。
ベットの他には本棚もあったが全部埋まってしまっているせいか地面にもたくさん本が置いてあった。それの表紙を見るとどうやら金属製品の加工やら仕事に関する本みたいだった。
俺も眠かったのでとにかく今はベットに横になって休む。 少しホコリを払って布団に入ると甘い、いい香りがした。 今日はいい香りに包まれ眠ることにしよう。
ドラゴン討伐の疲れもあるし、おそらくグッスリ眠れるだろう。
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