106 出発前日
はぁ……明日はついに出発の日。その前にみんなに挨拶をして回らないと。
カエデさんは仕事関係の人が多いみたいなので、俺は今日も一人で行動する。
朝ごはん代わりにハヤトのところにでも行こうかな。マスターの……名前忘れちゃった……マスターにも挨拶しておきたいし。
ガチャガチャッとフライパンとお玉が当たるような音が外まで響いている。今日も忙しいのかな。
「いらっしゃい! おぉ、アキラじゃねーか!」
「どうも。後でちょっとだけ話せます?」
「んー、ならお昼終わりぐらいにまた来てくれよ!」
「分かりました。とりあえず、おまかせで良いですか?」
「分かった! おまかせな?」
ハヤトが持ってきてくれた麻婆豆腐的なやつを食べる。美味いけど、ここって中華料理屋になったの?
「じゃあまた来ます。それじゃ」
「おう! またな!」
とくれば次は雑貨屋だ。昼が終わるまで雑貨屋にでも居ようかな。いや、邪魔になるか。
とりあえず行くか! アヤカは元気にしてる?
「あ、来ましたね。アヤカさんは居ますよ」
「なんか大変そうじゃん。大丈夫なの?」
「多分ね。あ……大丈夫だよ」
「私はもう無理だな。冒険に出るの」
「あんなことあったらしょうがないよ。まだ慣れてなかったのにごめんね」
まだ経験が浅いアヤカにグェールと戦わせたのは間違ってた。
親方とか大臣とかはそういうの気にしないから俺が止めないといけなかったんじゃないかなぁって思うことがある。
「あ! そうだ。お守りとかってある? 三つ」
「三つ? 三人で行くの?」
「四人なんだけど、俺の分はもうあるから他の人の」
「ありますよ。お守りなら」
作業をしていると思っていたアイラは話に入り込んできた。ちゃんと聞いてたのか。
「それ買うね」
「はい。これです」
渡されたのはやっぱり女神像だ。この奥に飾ってあるものよりも少し小さいような気がする。
「これもフーマさんが?」
「そうですよ。この店にあるのは全てそうです」
「じゃあ三つ買うね」
これだけあると荷物になる気もするから、もしかしたら大臣が嫌がるかもしれないな。信仰心も薄そうだしな。
「……それじゃ、もう明日行くから」
「うん」
「……女神様が守ってくださいますように。私が祈りを捧げておきます」
「ありがとう。それは助かるわ」
「はい。それではまた」
アイラが祈ってくれるんならきっと俺も安全に帰ってこれるだろう。安心して他国の旅に出ることにしようかな。
もうお昼過ぎぐらいにはなったかな? もう一度ハヤトとマスターのところにでも行こう。
その道中でルイスくんが絵を描いてるのが見えた。手を振ると振り返してくれる。
「いらっしゃい! お! アンタか!」
「もう大丈夫ですか? お邪魔じゃない?」
「座んなよ。長旅になるんだって? だからウチに大事にしまってあったやつを用意したんだよ」
「え?? なんですか?」
「ずっと誰にも食べさせたことないんだけどよ。特別に食わせてやるよ!」
マスターが持ってきたのは異臭がする肉のステーキだった。これは? 腐ってる?
「え、これ腐ってないですか……」
「腐ってる。でも食えるぞ」
「お腹壊したりとか……大丈夫ですかね?」
「ちゃぁーんと保存しておいたからその心配はねーよ。ささ! 食べな!」
ハヤトの方を見ると苦笑いをしていた。これって食べて大丈夫? 納豆とか、ヨーグルトみたいに腐ってても食べれる系のやつ? それにしても臭いが酷すぎるけど、てか、そのまま腐肉の臭いがするんだけど。
意を決してその肉にかじりついてみると、酸っぱい。ツーンと鼻の奥に酸っぱい香りがそのまま抜けていく……美味しくはないけど、なんかこういうものだと納得することは出来るかもしれない。
「どうだ!」
「……んー。なんか酸っぱいですね」
「それがクセになるんだよ! 美味いだろ!」
「そ、そうですね……」
「ちょっと……食べて良いか?」
「あ! もちろんです!……その間、ハヤトと話してても良いですか?」
「もちろん!」
その肉をマスターに任せて、ハヤトと外に出て少し話す。
「明日だよね? 気を付けてよ?」
「もうみんなからそれ言われてるわ。はは」
「そりゃそうだよ。だってさ、元の世界とは違うんだから」
「そうだね。確かにそれはある」
「アキラくんが帰ってくるのを待ってるから」
「そんなに重たく考えなくても、普通に帰ってくるよ」
「そう? なら良いけどさ」
「おい! もう食べ終わっちまった。わりーな」
「あ、全然気にしなくて大丈夫ですよ」
話は中断され、ハヤトが仕事に戻る。これからちょっとだけ忙しい時間に入るそうなのでそれの影響でお話はもう終わりだ。
みんなと話して気付いたけど、もはやこの世界での知り合いの方が仲が良いかもしれない。ハヤトとかアヤカは別だけど、でも親方ほど信頼出来る人なんて元の世界には居なかったし、大臣ほど……イカれた人も居なかった。
来れてよかったのかもなぁ。
明日の出発に備えて、まだ早い時間だったが眠りについた。
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