105 挨拶まわり
大臣はもうすでに俺たちの家に入り、荷物を確認し終わっていた。問題は何もなかったみたいで、明後日の出発予定日は変わらずじまいだった。
カエデさんは王子様とかお仕事関係の人にも挨拶をしに行き、俺は一人になった。
俺もみんなに会いに行ってみようかな。まずは雑貨屋からだ。
「あ、最近よく来ますね。どうしたんですか?」
「明後日、出発だから。あれ? 何やるか知ってる?」
「旅に出るんですよね。アナタから聞いたんじゃないですか」
「それで挨拶に」
「……帰ってきてくださいよ。ミリアさまのために」
「それは約束するよ。必ず帰ってくる。それでさ、アヤカにも会いたくてさ」
「アヤカさんならまだ戻りませんよ」
「あぁ、そっかぁ。明日は居るよね?」
「はい」
「なら明日また来るよ。アヤカにもそう言っといて?」
「分かりました。それでは……」
「じゃあ、また明日」
何も買うことなく雑貨屋を去ってしまった。明日また来る時は何か買お。カエデさんにお守りでも……いや、みんなに買えばいいか。
他には……親方のところかな? でもいきなり邪魔して大丈夫かな。言わないわけにもいかないし。
……それに作業してる時、ずっと裸だから行きづらいんだよ! マジで意味分からんからやめてくれ。てか、鍛治やってるのに裸ってどういうこと?
色々考えていたことはあったが、親方の家の前まで来た。トントンッと扉を叩いても特に反応はない。やっぱり地下か。
グェールと契約したせいで無尽蔵にスタミナがあるんだろうな。ずっと作業だ。
勝手に中に入り、地下へと声をかける。
「すみませーん」
階段を降りるとそこには予想通り、裸の親方がいた。てか、グェールの性別ってどっち?……いやドラゴン相手に気にする必要ないか……
「あ、親方」
「おぉ! どうした?」
「実はこれから長旅になりそうで……」
「そうか。他国に行くんだな?」
「はい……それでご挨拶に」
「それならアレを持っていけ。ちょっと待ってろ?」
木の箱をガシャガシャッと漁る親方。それ素手だけど突っ込んで大丈夫なの? 刃物とか入ってないの?
「ほら、これだけ小さければバレないだろう。もしもの時に使ってくれ」
「あ、コレ……」
渡されたのは小指と親指を広げた時ぐらいの大きさをしたナイフだ。これは俺の小指と親指の大きさ基準だ。
「アイツにも渡してある。お守り代わりだな」
「ホントにありがたいです! 弓矢全然上手くならなくて……」
「私たちも子供の頃から練習を繰り返してやっと使えるようになるんだ。いきなりじゃ難しいよ」
「ありがとうございます……でも、頑張ってみます」
「お前なら必ず使いこなせる日が来るよ……絶対に諦めるなよ?」
「お、親方!」
「ど、どうしたんだ?」
やっぱり親方だなぁ。心の底から信頼出来るのは親方だ! もし親方が分厚い鎧を身に付けていたら、飛び込んでしまっていたかもしれない。それぐらい感動した……裸で良かった……良くない……
変な人かもしれないけど、絶対に良い人なんだよなぁ。どうしてちょっと変わってるんだろ?
「それじゃ、他にも挨拶行かないといけないんで、そろそろ」
「お前のための鎧を作っておくからな。待ってるよ」
「ありがとうございます。絶対生きて帰ってきます!」
「じゃあな」
死亡フラグが立ったような気がしないでもないけど、きっと大丈夫! 多分!
清々しい気持ちで外に出るともう夕方だ。今日のところは後、一人、二人かな?
うーん……誰のところ行こ。
ハヤトはこの時間クソ忙しいと思うんだよな。となるとルイスくんか?
他に思い付く人で言うと……アーノルドさん? アーノルドとは流石に関わりが少ないかな。お世話になってはいるけど……他には……門番とか? でも行く時会うしな。
俺ってあんまり知り合い居ない?……市場の人にも一応、言っておくか。まぁ、とりあえずルイスくんだな。
美術店の中に入ると、そこにはルイスくんのお父さんが居た。
「あれ? お客さん、どうかなされましたか?」
「ルイスさんって居ますか?」
「ルイスならどこかで絵でも描いてると思いますよ?」
「……これって全部ルイスくんが描いたんですか?」
「全部じゃないですよぉ。ただ、ほとんどアイツの作品です」
「スゴイなぁ。あ、ありがとうございました」
「どうも! 見るだけでもいいんで、また来てください」
ルイスくんっていっつも絵を描いてるイメージあるな。まだ若そうなのにプロ並みに絵が上手いのも好きだからっていうのがあるんだろうな。
ルイスくんの居場所について具体的ではなかったが、最近良く会う辺りで散歩していると絵を描いていたのを見つけた。
「あ、ルイスくん」
「え? アキラさん?」
「もう暗くなってきたのにスゴイね。まだ絵を描いてたんだ」
「この時間も綺麗なので……出来上がったら是非見てくださいね?」
「……あ、そうだ。明後日から長旅になるんだよ。それで挨拶にね」
「どこに行くんですか?」
「ちょっと……他国を探しに行くの。何日かかるか分かんないけどさ」
「え、そんな……それだともしかしたら」
「そうかもね。でも、安全には気を付けるから大丈夫だよ」
「……ちょっといいですか? アキラさんの絵を描きたいです」
「絵を? 俺の?」
「このままお別れになったらいつか忘れちゃうかもしれないじゃないですか? 顔とか……思い出って消えやすいので」
「それなら……お願いしてみようかな」
いやぁ。似顔絵とか描かれるの少し恥ずかしいけど、死んだときのことを考えると描いて貰った方が良さそう。遺影にでもしてくれい。
「暗くなってきたので明かりを付けますね?」
「うん」
……ジッと動かずに被写体としても役割をまっとうしている。ちょっと顔とかがかゆくなってきたけど、動いちゃダメかな……
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ?」
「あ、ごめん」
バレた。めちゃくちゃ緊張してるのバレた。でもそんなこと言われてもどうしようかな……なにか気を紛らわすようなことない?
ボーッと頭の中を空っぽにしているとルイスくんの顔が満足したような感じになった。
「出来ましたよ! どうですか?」
「お、いや、俺だ。上手いね」
「え、微妙ですか?」
「いや! あんまりにも俺だったから……びっくりしちゃった」
「そうですか……すみませんお時間取らしちゃって」
「コレさ。もし俺が帰って来なかったら、ずっと取って置いてくれる?」
「はい……もちろんそんなことが無い方が良いに決まってますけど」
「コレ買うよ。でも、ルイスくんが持ってて?」
「え、いや、そういうつもりじゃなかったので……」
「じゃあ帰ってきたら買うよ。それでいい?」
「もちろんです! 待ってます!」
ひとまず今日はこんな感じで良いかな? 他にも行きたい場所はあるけど、流石に暗くなってきた。
本格的に出発の準備が終わっている。無事に帰れる
といいなぁ。
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