99 空中戦
お遊びみたいに、当たり前のように矢を木に当てる大臣を見て、さっき抱いた気持ちを返せと思った。
エラさんも試していたけど、当たらない。いや、これ普通に難しいよね? いきなりやって出来てる二人が凄いんだよね?
「もう戻る? それとももっと確かめたいこととかある?」
「ドラゴンとの戦闘の際にどうなるかが問題ですよね? 逃げれるのか、戦えるのか」
「これだけドラゴンが周りにいると襲ってこなさそうだね。一回戻そうかな」
空中にはドラゴンの群れが出来上がっている。俺たちが乗っているもの以外にも、4、5匹のドラゴンが飛び回っている。
大臣はそれらに地上に戻るよう指示をした。言いつけをしっかり守り、下に向かうドラゴン達。一体どんなことをしたらこんなに言うことを聞くようになるんだろう。
「これで来るかもね。それでも多いかな?」
「いや、来てるみたいですよ!」
カエデさんがいち早く遠くのドラゴンを見つける。そして弓矢を構えた。
もう落ちてきた太陽を後ろに弦を引く。綺麗だなぁ……
「……難しい……」
「……これは僕でも無理かもね。もうちょっと近づいてくれれば」
「近づきましょう! みなさんは大丈夫ですか!?」
「僕も賛成!」
「俺も行く」
「私も行きます!」
空気を思いっきり吸うと、明らかにここがいつもいる場所ではないということが分かる。冷たくて、なんとなく綺麗で、澄んだいて。
それぞれが広がって一匹のドラゴンを囲む。驚いた様子のそれはどこを攻撃しようか迷っていた。
「当てます!」
カエデさんが放つ矢の先にドラゴンが居た。しかし身をクルリッと躱して、矢を上手いこといなす。
「真に当たってなかったんだ……もう一発!」
手際良くもう一本の矢を矢筒から取り出して、もう一度弦を引く。
そのドラゴンは狙いを俺に定めたようで、俺に向かって突進してくる。ヤベェな。
どうにか回避するために良く良くドラゴンの動きを観察していると、急に速度を落として、地上に落下していった。
「当たりました! アキラさん!」
「おぉ!! ありがとう! 助かった!」
上手いなぁ。こんな状態でも当てられるってどういうこと? 俺が今からどれだけ努力したところで絶対に勝てないよね。それね。
「行けそうだね! 戻ろう!」
四匹のドラゴンは地上へと戻る。向かい入れてくれたドラゴン達はじっとそこで待っていた。
「ふぅ……疲れたぁー、なんか下半身に違和感が……」
「ずっと縛ってたからですかね。ただ緩めると今度は落下の危険があるので、飛行の前後でどうにかするしかないかもしれないです」
「いつもより長かったからかな? とにかくこんなに暗くなるまで乗り続けられたっていうのは成果だね」
「お疲れさまでした。楽しかったです!」
「そう? なら良かったよ! ははは!」
「とりあえず、街の中に戻りましょう。まだここも危ないんで」
「そうだね。行こうか。落とした物とかないよね?」
ネックレス! と不安になったが、よく考えてみればアレを付けたのは買った時とその次の日だけだった。
もったいないから誰かにプレゼントしようかな。それとも付けるのを習慣にしてみるか。
「アキラさん! 空飛ぶって想像もしてなかったです! 凄いですよね!」
「凄いよね。はは。やっぱり大臣ってちょっと天才というか」
「……これでやっと一緒にお仕事が出来ましたね? ずっっとそうしたかったんです」
「うん。やっとだ……いやぁ、久しぶりに助けてもらっちゃった」
最初からカエデさんは優しい。マジでなんでそんなに優しいのか分からんってぐらい優しいし、気が効くし、なんか良い感じだし、俺が負い目を感じてしまうくらい完璧な人だ。
そんな人が横に居てくれることは当たり前じゃない。マジで。
カエデさんがドラゴン討伐の報告をしている。久々にそれ俺もしたいな。ただ待ってるの手持ち無沙汰だしさ。
あのスパーダさんが剣を渡してくれたら……そういえばお代払ってねーわ。作ってもらったから一応、お金は払わないと……でも、剣は渡されてない……
親方の知り合いみたいだし、ちゃんとお金も払おう。別に知り合いじゃなくても払うよ? うん……
「話したいことは沢山あるんだけど……君たちはもう帰るかな?」
「私は良いですよ。どうせユーリとは帰る方向一緒なので……私も話したいことが山ほどあります」
この二人の話し合いに俺が着いていけるわけがない。それなら最初から諦めて帰ろう。疲れてるし。でもカエデさんはどうするんだろ。
「俺は帰ります。最近ずっと弓の練習してて、体が疲れてる……」
「それなら私も帰って良いですか?」
「ははは! 分かった! それならまた明日ね?」
「すみません。先に帰って……」
「僕たちも家には帰るからさ!ははは!」
今日はご機嫌だなぁ。ずっと笑ってたような気がするよ。ホントに。
「帰りましょうか。ね?」
うぉ! 不意打ちで「ね?」とかやられると心臓がもたない。顔をこっちに向けて微笑まないでくれ……幸せになってしまうから…………なにを言ってんだ!
ちょっとマジで手を繋いでみようかと迷ったけど、勇気が足りなくて出来なかった……なんて情けないんだ……俺は。
色々なことが上手くいかない。そんな状態でも楽しくいられたのはみんなのことが好きだからだとふと思った。
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