94 心の準備が……
「もう他国を探しに行ってみる? ドラゴンに乗ってさ」
「それは有りですよね。もうすでに他国のある程度の方向は分かっているし、ドラゴンであれば火山も超えられますし」
「でもまだ怖いよね」
「そうですね。そもそもドラゴンの飛行による長期的な探索というものが成功するのかどうかも分かりませんしね。途中で帰られたりしたらもうお終いです」
「縄張りの外とかに出たらね。ぶっちゃけドラゴンの生態とか詳しくないし」
「そうなると魔法を使うことになるんでしょうかね。ただそれも漠然としていて、具体的な方法はまだ未定です」
「熱さから身を守れる手段が必要? 耐熱みたいな」
「ただそんな物があるなんて聞いたことないですね。大量の水でも持っていきますか?」
「火山に入ったことあるけどさ。水とか耐熱とかじゃどうしようも無いぐらい熱そうだよ」
「となるとやはり空からですかね。魔法を使えば可能ですか?」
「不可能じゃないけど、色々と問題が……」
スティーに協力して貰えばこんな問題は一瞬で解決するはずだけど、国の仕事として行うことにスティーが力を貸したらきっとクソ面倒なことになる。
だって俺から見てもスティーの魔法って怖くなる時あるし、いや……でも面倒なことにならない可能性もあるのかな。
もう大臣に全て話したら上手いことやってくれそう。そうしよっかな。
「ちょっと休憩とろ。うん」
「はい。分かりました」
部屋の外に出て行き、大臣のところへ向かう。扉を開けると大臣はまた煙を吸っていた。久しぶりに見たな。
「あ、どうも」
「どうしたの!?」
「実は……」
大体の事情を話すと大臣は理解してくれたみたいで、うんうんと首を振っている。最終的にどんなことになるのかな。
「分かったよ。じゃあ、行こう!」
「え? マジですか?」
「うん! だって大丈夫でしょ? スティーも居るんだからさ!」
「でもエラさんにバレたら……」
「そこは任せてよ。じゃ、いつにする?」
「……えー、ホントに行くんですか?」
「行かないの? ちょっと僕も話し合いに混ざっても良い?」
「あ、どうぞ」
ヤバイぞ。本当に他国に行くことになりそうだぞ……なんだかんだ色々理由付けてきたけど、結局、俺がまだ他国に行きたくないっていうのが一番の理由だったのかも知れない……
大臣と二人でエラさんの部屋の扉を開ける。この二人だとちゃんと話し合いが進みそうじゃん! やだ!
「あ、ユーリも?」
「うん、もう行こうよ。他国」
「え? もうっていうと、どういうことですか?」
「明日か明後日には行ってみない? 火山の向こうにあるんでしょ?」
「いや、それは流石に早すぎないですか? まだ俺の心の準備が……」
「え? 君も行きたいんじゃないの? だから僕に相談したんでしょ?」
「せめてもうちょっと準備して行きましょうよ」
「準備ってどんな準備? もしかして君の弓が上手くなるまで待たないといけないの?」
「……いやぁ……」
「ははは! 上達するまでどれぐらいかかるか分かんないしね!」
久しぶりに大臣にムカついた! もう慣れてたけどこの人ってこういう人だったわ! ムッカツク!
「僕とエラと君の三人……それだと流石にダメそうだね」
「俺もエラも弓矢下手くそですしね」
「誰かもう一人ぐらいいれば良いんだけどなぁ……」
「親方とかですか?」
「ははは! 多分今は無理だよ。だって何日もかかりそうだしね」
「あぁ……確かに」
今の親方は鍛治に対して怖いぐらいに真剣に向き合っている。もしかしたら地下に移動したことによって作業がしやすくなったのかも知れない。
アヤカは弓じゃないし、そもそもグェールの時から狩りに消極的になってる。ハヤトは嫌がるだろうし、アイラは上手くないし……
他の知り合い……カエデさん? カエデさんなら弓も上手いし、何より冒険したがってる。ただ、カエデさんにはお仕事が……
「誰かに頼むっていうのは無理なんですかー? 護衛の方や冒険家の方に頼んでしまえば良いと思うんですけどどうでしょう?」
「こんな仕事まともな人なら受けないよ。ちゃんとした実力のある人はね」
「あのぉ、カエデさんとかってなんとかなりますかね?」
「それ行けるかもね! 子守から離れるしっかりとした理由があるからさ」
「……え、もしカエデさんが行けるってなったら、すぐに行きますか?」
「まぁ、ちょっとだけ練習してからじゃないかな? 僕もカエデくんが参加出来るようにしてみるから」
冷静に考えてみたら、カエデさんと一緒に外へ行くのクッソ久しぶりじゃないか? なんかワクワクしてきたんだけど……心の準備が出来てきたぞ!
ただカエデさんも冒険がしたいとは言っていたけど、流石にいきなりこれはないよな。マジでちゃんと話そう。あと、もうちょっと他国に行くまでに時間を作ろう。
「これで良いかな? じゃあ、僕はやることが出来たからこれで!」
「それじゃ、よろしくお願いします」
「安心して? 多分大丈夫だからさ!」
大臣が来てから話が一気に進んだ。やっぱり行動力が普通の人とは違うよな。恐ろしいぐらいに真っ直ぐな人なんだと思う。
……大臣みたいになりたい気持ちもあるな。でも死ぬほど嫌われそう。俺は嫌いじゃないけど。
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