93 弓矢の初級者本
潰れた建物の前に来ると中から聞き慣れた鍛冶屋のトントンという音がしてくる。中であのご老人が作業している。
「すみませーん」
もしかしたらと思ったけど、やっぱり返事がない。もっと大きな声を出すか、それとも中に入って行くか。
「すみませーん!!」
よし。中に入ろう。
倒壊してる建物は屋根が斜めになっていて、片方が完全に潰れている。しかしもう片方はなんとか原型を留めていて、体一つ分空いた穴から中に入ることも出来る。
ただ、俺の体だとその穴が小さすぎて入れなかった。ここから呼び出すしかないのかな。
穴の中に顔だけ入れて、また声をかける。
「すみませーん! 居ますか!?」
「ほぉぁん?」
「あ! すみませーん!!」
「だれじゃぁー」
「昨日の! おやか……ミリアさんの!」
「うるさいやつじゃなぁー」
出てきてくれたご老人は、めんどくさそうにしている。俺のこと覚えてる?
「昨日のことについてなんですけど」
「なんのはなしじゃ?」
「剣を作ってもらうって言う……」
「けん? 作っとるからまっとれ!」
「完成したらどうしたらいいですか?」
「ばかじゃなぁ。ここに来ればいいじゃろ」
「そー……ですよね。呼び出してすみません……」
「きにするなよ!」
ご老人に肩をポンポンとされる。もうちょっと待ってれば良かったのか。
「あ、そういえばお名前は? 俺はアキラです」
「……」
聞こえてなかったのか穴の中に入って消えた。名前は親方にでも聞こう。でも、親方は親方で作業してるんだよな。
というよりこの建物ボロボロすぎないか。もしこれから一緒に仕事することになるならちゃんと建て直したい。
俺がお金を出すのもありだな。いくらでもあるし。
明日は仕事だから、また明後日に休みを取ろうかな。休めるようになったらガンガン休んじゃってるけど、俺は大丈夫か?
それとも気を使ってもうちょい先に休みを……めんどいからいいや。
暇になってしまった……狩りに行こうにも弓矢だと楽しくないし。練習も今はしたくない気分だ。
ハヤトのところにご飯でも食べに……いや、全然お腹空いてない。朝ごはん食べてきたから。
……アーノルドさんに話でもしてみようかな。多分、工事でお世話になるから。家の近くではまだまだ工事が終わってないし、もしかしたら予約とかしといた方がいいかもしれない。
そうと決まれば行動だ。多分、図書館だろう。
久々に図書館の中に入ると静かすぎて場違いな感じが出てくる。やっぱりアーノルドさんに話を聞くのは良いかな……てか、普通に本でも読むか!
興味あることといえば……弓矢ぐらい? 弓矢の使い方みたいな初級者用の本を探していたが、本の数が多いので見つからない。
こういう時のための司書さんだ。聞いてみよう。
「あの、すみません、本探してるんですけど」
「はい? どのような本ですか?」
「弓矢の使い方についての本みたいな。そういう感じで」
「あぁ、それならこちらですかね」
指差した方にあったのは、確かに弓矢の本だ。一瞬で場所がわかるの凄くね? 全部覚えてたりするのかな。
「そちらのハシゴをお使いになってくださいね」
「ありがとうございました」
数冊、本棚から本を抜き取って、落ちないようにハシゴを降る。これちょっと危ないな。
テーブルで本を読み始める。まだお昼だから全然明るい。
本の内容は基本的なことや弓矢の歴史などが書かれていて退屈だ。大臣に教わったようなことばかりで意外と大臣もちゃんと教えてくれていたんだなぁとか思った。
そもそも子供のころに勝手に出来るみたいな前提があるみたいで、本当の意味で初級者向けの本って感じでもない。弓矢を使う上での精神論なんかを語られても俺には興味がないからな。
ダメだ。これなら普通に外に出てドラゴンを狩った方がいい。言ってみれば自己啓発本を読んだ後のやる気がみなぎる感じだ。よし! 片付けたらやるぞ!
片付け作業をしていると、アーノルドさんが居るのが見えた。声をかけるかかけないか。挨拶ぐらいならおかしくないな。
「こんにちは」
「……君か……」
「工事、お疲れさまです。いつも大変そうですよね」
「……迷惑をかけて……申し訳ない……」
「あ、いや、お気になさらず……あの、今から工事頼むとどれくらいかかりますか?」
「……今からでも大丈夫だ……」
「あ、ならもしかした近々お願いするかもしれません。すみません、休んでる時に……」
「……分かった……ではまたな……」
工事の話も出来たし、もう外に行こうか。だって今めちゃくちゃやる気が満ち溢れているのだから。
弓矢を拾いに家に帰る。中には当たり前だが、誰もいない。
「弓矢上手くなれるかな?」
(使ってればなるだろ)
「なれる気がしないんだよねー。どうしたらいい?」
(そもそも弓を使えるようになったところで、高が知れてるだろ)
「そういえばそうじゃん! 剣みたいにバッサバッサ倒せない」
(お前は狩りが好きなのか? それともドラゴンを殺すのが好きなのか? 後者ならばいくら弓を練習したところでお前は満たされないだろうな)
「やる気削ぐようなこと言うのやめてよぉ……」
(ならば後者か)
「殺すが好きって語弊があるけどね?」
そもそもドラゴンを倒すだけなら魔法でも良い。ただそれだと討伐報告を出さないから、弓矢にしようという話だ。
俺の場合、剣でも討伐報告が出るから今までは特に不便もなかったけど、弓矢だけしか認めてもらえないってめんどくさいな。
失ったやる気を取り戻すために、頭の中でやらなければいけない理由を思い浮かべる。
なんとか外に出て数分で帰るだけのやる気は出た。
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