92 ほぉぁん
外に出てドラゴンを狩る。それはいつも通りのようでようでない。持っている武器は弓矢だからだ。まだ全然慣れていないし、なんならこれで外に出ることで不慮の死を遂げる可能性もある。魔法があるから大丈夫だけど。
この前から相当、魔法に対する意識が上がっていて、もはや弓矢よりも魔法がメインだぞ! という気持ちで来ている。
魔法で矢を飛ばしても、側から見た場合、弓矢で射ってるようにしか見えるだろう。おそらく。
なので俺がやる事といえば、弓にセットした矢がドラゴンに向かって飛んでいくイメージを持つことだけだ。実際、空中に向かって打つ練習には成功している。
後は実践あるのみ、そして実戦あるのみ。
「来た……」
空を飛ぶドラゴンはこちらに気付いていないし、ここは街からも近いという理由からか単独の、群れから逸れたドラゴンだ。
弓を構えるだけ構えて矢をセットする。そこに俺の魔力を吹き込む。とは言ってもただただイメージするだけだ。
強くイメージした矢はドラゴンの方向には飛んでいった。しかしまるで的外れといったところで、擦りもしないし、気付きしない。
それは鈍感すぎるだろともう一本矢をセットする。
上空を飛行している物体の、その動きに狙いを合わせなければ矢が当たるわけがない。案外、頭を使うみたいだ……だから大臣は得意なのかな。
それに俺の場合はほとんどないが、一般的な弓矢は偏差というものが付き纏ってくるらしい。
もちろんそれが無かった場合は重力など無視してどこまでも真っ直ぐに進んでいくという事なので、あるのが当たり前ではあるが、発射のエネルギーが低い矢の偏差は必ず考えないといけない。
魔法は発射する時のエネルギーが普通に弓矢で打つよりも高いので、偏差なんか知らん!って打っても軸が合っていれば当たるはずだ。つまり普通よりも簡単なはずなのに、当たらん。つまりセンスがない……
ごちゃごちゃとゴミみたいなことを考えていたせいで、空の彼方に消えてしまった。難しいよぉ……
(ダメだな)
「ダメだ……剣使いたい……」
(この前みたいに魔法で作れば良いじゃないか)
「それだと報告出来ないんだよ。だって鍛冶屋はもうないことになってるんだから」
(この国には鍛冶屋が一つしかないのか? そんなはずもないだろう)
「……そっかぁ! ルドリーってやっぱ頭良いねぇ!」
(お前が鈍感なだけだ)
俺はあのドラゴンに鈍感だと思ったけど、俺もドラゴンに鈍感だと思われていたらしい。みんなが敏感すぎるだけだ!
また収穫もなく街に戻る。門番は優しく向かい入れてくれる。前までの俺はどこに行ってしまったんだ。
しかし誰に聞けば鍛冶屋の場所を教えてくれるのだろう。親方? でもちょびっとだけ聞きづらいような、でも良いか。この際わがまま言ってられない。
今回はちゃんと用事があったので、ノックの後に応答がなくても中に入る。
物置に居ると、いや、物置の地下に居ると思うので、物置の扉も開ける。悪いことしてる気分だ。
「すみませーん。居ますか?」
「……だれだー!」
「アキラです!」
「入れ!!」
めちゃくちゃ機嫌悪い? それとも普通に声が大きくなってるだけ?
階段を降りていくと途中で親方の肌が見えた。背中に布がないということは前にもないだろう。
謎の音が地下には反響し続けている。壁が土なのに反響?
「ここからでもいいですか!?」
「あぁ! その方がありがたい!」
「この国には鍛冶屋って他にもありますか!?」
「あるがどうしてだ!?」
「えっと……」
「聞こえないぞ!?」
「剣を使いたいからです!」
「……なるほど。分かった!」
謎の音が止まったかと思うと、親方がこっちに歩いてきた。予想通りだった。
「お前の気持ちは分かった。ただ、まともな剣を作って貰えると思うなよ」
「それは分かってます。親方じゃないんで」
「……店に行くぞ。もう潰れてないかもしれないがな」
親方は服を着てから家から出た。
目的地はどこにあるのか一切教えてくれない。いや、教えたところで何にもならないか。
長い時間歩いた後、目の前にあったのは文字通り潰れた店だ。物理的に屋根に押しつぶされている。
「おい! いるか!」
「そのこえはぁ……みりあちゃん?」
潰れた店から聞こえてきたのは相当なご老人の声。その声だけで歯が抜けてることが分かる。そんなこと分かってどうする。
「こいつが剣を作って欲しいらしい。まだ作れるか?」
「ほぉぁん。イケるぞ?」
「だってさ。良かったな」
「あ、よろしくお願いします」
「ほぉぁん」
「私はもう戻るから後は勝手に話を進めておいてくれ……必ずいつかは元に戻る。待ってろ」
「はい」
親方はそう言って元の道に戻って行った。残されたのは俺とこのご老人だけ。
「どんなのがいい? いうてみぃ」
「まぁ、剣だったらなんでも」
「ほいならいまあるよ」
「え!? ホントですか?」
ご老人が潰れた建物の中に入って数分後、片手には遠くから見ても刃こぼれしていると分かるぐにゃぐにゃの剣があった。
「ほい」
「これは流石に……」
「文句の多いやつじゃな!」
「あ、ごめんなさい」
「またあしたな?」
建物の中に戻った老人は帰ってくることがなかった。本当に剣をくれるのか?
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