11 不安
家に戻ると我に返ってしまう。
歩くたびホコリが立つこの家。俺だけならまだしも彼女も一緒に泊まるなど出来ないだろうけど、野宿になるのも嫌だったので少し相談する。
「今日はどこで寝泊まりしようか? なにかある?」
ダメ元で聞いてみる。おそらく俺よりも彼女の方が詳しいだろう。
「それなら……昨日の宿なんてどうでしょうか? そこならおそらくなんとかなると思います」
「よし! それなら今から宿に向かうか!」
少し歩き始めた時からなんだかとんでもない事をしてしまった気がしてきた。彼女の村も今頃大騒ぎかもしれない。
見透かしたように彼女が言った。
「あの……村のことなら心配しないでも大丈夫だと思います! 前にも1日遅れて帰って行ったこともありますし! でも、明日は一度帰って村の人たちとこれからの話をしたいと思います」
「ありがとう…………無理はしないでね」
「はい、でも必ず……ここで暮らせるように説得してみせますから待っててください」
昨日泊まった宿屋に着いて扉を開ける。
「あら?もう部屋は空いてないわよ?」
気を抜いていたであろう受付嬢さんが扉のバタンという音に気付いて振り返る。
「すみません。俺たち今日泊まるところがなくて……もしよろしければこの広間でもいいので泊めていただけませんか?」
「あなたたち昨日のお客さんね?」
「「はい」」
「分かったわ。そこの空いてるスペースになら横になってもいいわよ。ただし、少し手伝ってくれる?」
「はい!わかりました!ありがとうございます!」
小さなスペースではあったがそれでも2人なら問題なく横になれる場所があった。
「それじゃあ、あなたそこにある椅子とテーブルをこっちに持ってきてくれる?」
2人でそれを抱え言われた場所に持っていく。
「次はその本棚をそっちに移動させて?」
どうやら模様替えをしているらしい。それからも部屋にあるものをたくさん移動させた。
「ありがとね。私1人じゃどうも難しくて……変なことさせてごめんなさいね?それじゃお休みなさい。また明日」
「「おやすみなさい」」
受付嬢がいつの間にか持ってきた毛布を2人で分ける。
「それじゃあ、おやすみなさい」
「おやすみなさい!」
狭いが不快ではなかった。
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朝になると1人になっていた。
辺りを見回してもいないみたいなので受付嬢さんに聞いてみる。
「あの、すみません……一緒に泊まった女の人がどこに行ったか知りませんか?」
「彼女ならもう出て行ったわよ。あ!そうだわ、伝言があったのよ。「今度はあなたの家で会いましょう」って言っていたわよ?」
「どうもありがとうございます」
早く村に帰りたかったのかもしれない。やっぱり村のことを心配していたのだろう。さて、彼女には彼女のやる事があるみたいだが俺にもやる事があるのだ。
鍛冶屋でも本格的な仕事が今日からはじまる。
憂鬱なのは間違いないが行くしかないだろう。俺だけサボるわけにもいかない。
「泊めていただきありがとうございました。この街で暮らすことになったのでこれからよろしくお願いしますね」
「よろしくね。新人さん?」
手を振って見送ってくれた受付嬢さんが見えなくなった。それから少し歩くと目的地が見えてきた。
「ここか」
鍛冶屋に着いてしまった……中に入るとこの前の女性が作業をしていた。
「親方!おはようございます!」
親方と呼べ!と言われていた事を覚えており、しっかりとそう呼んだ。
「ああ!おはよう!今日はよろしく!」
やけに機嫌がいいなぁ、何かあったんだろうか
「よろしくお願いします!俺は今日、何をすればいいんでしょうか?」
「実はな、やってほしい事があるんだが頼めるか?」
「はい!もちろんです!」
「これを着てみてほしいんだ!」
親方が指差した物は鉄で出来た鎧だった。
「これですか?」
「これを着て耐久性を試して欲しいんだよ!」
「それってどんな事をするんですか?」
「これを着てドラゴンと戦ってくれ!やってくれるな?」
どうやら無茶を言われているらしい。だか俺は弓矢が使えないのでそれを理由に上手いこと断ろう。
「あの、すみません。実は俺、弓矢使えなくてドラゴンと戦えないんです」
「なに!!それなら好都合だ!少し待っていてくれな……どこだどこだ?」
奥の方へ向かい何かを探している様子だ。
「あった!これを使うといいよ」
渡された物は柄のついた立派な鉄製の剣だった。おそらく1メートルはあるだろう。ずいぶんと重たい。
「こ、これ、重いですね。これでドラゴンと戦うんですか?」
「そうだ!それとこの鎧で戦うんだ!」
鎧を叩いて親方が自信満々にいう。
「着てみろ!いい着心地だぞ!」
鎧を着てみるとこれまた重たい。しかも関節の部分があまり動かない。これでドラゴンの前に出たらエサとして食べられるだけだろう。
大丈夫か?
「あの、体が重たくて全然動けないです!親方!」
「ん?とにかく今日は外出することになってるんだ。もし危なかったら私が助けるから安心してくれ!」
「でも!関節が動かない!」
「さぁ!この剣を持ってとにかく外に行こう!あんまり暗くなっても仕方ないしな!」
何から何まで不安だがついて行くしかない!俺が今できることはこれしかないんだ!そう言い聞かせて体を動かそうとするが関節がうまく曲がらないのでぎこちない歩き方になってしまう。
本当に大丈夫だろうか、そんな不安を抱きながら街の外へ出ていく。
転職活動を明日からした方がいいかもしれない。
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