91 火傷
コンコン、扉をノッキング。すると中からそこそこ元気になったエラさんが出てきた。布はリンゴみたいな果物が何個か描かれているやつだった。
「もう大丈夫?」
「あぁ……一応」
「なら始めよう。まずは昨日の集会での質問はどんな感じ?」
「これに書いときました。はい」
渡された糸で束ねられた紙は十枚くらいあった。これはA4っていうんだっけ。それぐらいのサイズ。
「これやったから寝不足だったの? お疲れさま」
「それに全部まとめてあるんで……私は寝ててもいいですかー?」
「大臣のことも?」
「そうです」
「凄いね……本当におつかれ」
めちゃくちゃ優秀だ。今までも優秀さの片鱗みたいなのは見え隠れしてたような気がしないでもないけど、ここまでされると凄いと言わざるを得ない。
これが有るならここにいる必要もないかな。エラさんも眠そうだし、家で読もう。
「ありがとう。じゃあもう終わりにしちゃおうかな」
「終わりですか?」
「うん、終わり。あと明後日も休みにしよう。大丈夫?」
「はい、それじゃまた?」
「またね」
休みなんていくらあっても足りない。一日でこれを理解する自信がないわけじゃないからな?
そんじゃあまぁ、帰ろう。ルドリーが代わりに読んでくれたりしないかなぁっつってね?
家に入ると誰もいない。飾られた絵が静かに、そして平和的に俺を向かい入れてくれた。
二つある内の一つに描かれたのは俺。それはアキラという個人ではなく、荷車を引く奇妙な人間としての被写体ではあったが、それでも描かれているのは俺だ。
夜の暗さを全体的に薄い色合いが表現している。細部に石畳の線が入っていた。その線は個々の石と石とが、くっつき合っているのを表したものだ。
「さて、読むか」
こんなことをしてる場合ではないが、それでもいい気分転換にはなる。否が応にも休ませられる時間を生み出すことが出来るのは、絵画というものの存在価値の一端だと思った。
閉じられた書類の束を見てみると、やっぱり偽物というか、嘘くさいようなのがあった。
例えばいきなり何かに呼ばれてここにきたとか? 夢を見ていたはずがここにいた? とか? そこだけ記憶がすっぽり抜け落ちてるんだとか。
なんだそれ!って感じのも多かったが、中には本当っぽいのもあった。しかし、本当っぽいのは長い! めんどくさー。ただ、エラさんによって要約されてるみたいだ。ちょっと読んでみよう。
〔素材を取りに火山の中へ入り込んだ商人は、道に迷った。噴き出る炎の熱さに耐えきれず背負っていたカバンの中から感覚を麻痺させる草を食べる。しかし、それでもまだ熱さによる痛みが消えることはなかったので、カバンの中のそれを全て平らげてしまった。痛みはなくなるもその草の副作用による幻覚で思考が曖昧になる。
曖昧なままで歩き続けると、いつの間にか火山を抜けて、草原で狩りをしていた人達に助けてもらった。(スィードさんの全身にはかなり重度の火傷跡が多く見られました)スィード〕
これは今までの俺たちの考えとも似てるし、本当っぽい。やっぱり火山の向こうに国があると考えた方が良さそうだ。
……もしかしてこれは行こうと思えば明日にでも行けるんじゃないか? だってドラゴンで飛んでいけば火山なんて関係ないし。
まだその覚悟出来てないなぁ。でもいつかは必ずそこに行かないといけないんだし、今の内に……
その話もしようかな。明後日だっけ? いや明後日は休みにしたのか。
その後もペラペラとページをめくっていると、大臣のお父さんのここに来た理由も書いてあった。なになに?
〔ドラゴンに運ばれた。ツィーダ〕
相当、嘘くさいぞ。大臣の父親がホラ吹いてたらちょっとショックなんだけど……でも、本当だっていうのもなくはないのかな? だって俺たちもドラゴンに乗ってるし。
ツィーダさんの故郷の様子も書いてある。
〔寒くてしょうがない。ツィーダ〕
エラさんはどんな聞き方をしたの? それともツィーダさんってこういう人なの? みんな変なの?
その後も書類の束を見ていると火山の描写がめちゃくちゃ多い。他国って火山の向こうにしかないのかな。
あ、でもあのレイだっけ、あのドラゴンは沢山あるみたいなこと言ってた。
ここからアクセスがいい他国はそれだけって感じかな。
うーん、結局のところもう火山の方に行ってみるしかないのかもしれない。大臣と俺と親方の三人で下見に行くとかは? ただ、何日で見つかるか分からないし、もし仮に見つかったとしても、仲良くしてくれるかわかんない。
やっぱり俺一人でどうこう出来るあれじゃない。エラさんの方が頭良いんだし、シンプルに相談しよう。
となると明日にでも仕事したくなっちゃうな。だってこのまま悶々としてたら何も手に付かなくなっちゃいそうだし。
「ルドリー。他国行きたい?」
(我はどっちでも良い)
「俺もどっちでも良いんだけど、見つけないと俺の仕事も終わらないよね」
(終わらせたいなら行くしかないな)
「終わった後に狩りが出来るんだったらそれでも良いんだけどねー」
(……どんだけ狩りが好きなんだ、お前は)
好きだね。狩り好きだ。今すぐにでも行きたいし、多分明日は行く。
体動かしたいね。うん。そんな感じですね。
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