87 思い出の場所
俺も絵をかいてみようかな。とか考えながら散歩していると、街中で紙に絵を描いてる人が居た。しかもパレットのような物も持ってるし、そもそも紙自体が丈夫そうでデカい。
絵を商売にしてる人だと予想する。
そんなにジロジロと見ても失礼なので、わざと遠回りをして、歩きながらその絵を見ようと考えた。
なにかいてるんだろうと覗いたその絵には、どこか懐かしい、電柱のようなものが描かれている。
「え?」
「……うわ! 人が居た!」
「あ!」
この世界に電柱があることに驚いて後ろにいた俺が声を上げると、背後に人が居ることに気が付かなかった絵師さんがびっくりして振り返りながら絵を立て掛けている台の方へと倒れ込んでしまった。
咄嗟に魔法で絵を宙に浮かせる。俺も悪いけど、驚き過ぎじゃない?
「え! どうして!?」
「あ……」
絵師さんがまた驚く。俺も宙に浮いた絵を見て驚いた。魔法使っちゃったよ。しかし俺以上に絵師さんが驚いていて、見開いた瞳がキラキラと輝いている。この人は女の人? 髪は短いんだけどな。
「貴方が? ありがとうございます……」
「え? いや、そんなわけないですよ! てか、驚かせちゃってすみません!」
「そうですよね……いやいや、謝らないでくださいよ!」
浮かんだ絵が元の台に戻る。それを絵師さんと一緒に俺も不思議そうに眺めておく。バレたら面倒だからな。
「不思議ダナァー……すみません、じゃあまたどこかで」
「あ、あの! もし良かったらお名前だけでも」
「アキラです。貴方は?」
「ルイスです。それでは……」
また台に掛けられた絵に向き直るルイスさん。よくよくその絵を見ても電柱がなにを表しているのかが分からない。ただセントラルの街中に謎の柱が生えている。
ここで聞いとかないと……いいや! もう夕方になりそうだし、親方のところ行こ。
いや、まずは雑貨屋に行こう。プレゼントが決まったことをアヤカに教えといた方が良さそう。
「いらっしゃいませ」
「どうも」
「またアナタですか?」
「アヤカ居る? ちょっとだけ報告っていうか」
「アヤカさーん」
「はいはーい。あ、アキラじゃん。何買うか決まったの?」
「うん。絵でも買おうかなって」
「へぇ、オシャレだね。良いんじゃない?」
アイラも目の前に居るし、相談にも乗ってもらったからここでも買い物しようかな。
近くにあった淡い水色で輝く宝石のネックレスを手に取り、アイラに渡す。
「これ買うよ」
「はい」
懐からコイン入れを取り出して、お金を払った。
「それは何? それも渡すの?」
「いや、自分用。良くない?」
「良いね」
「じゃあ、また来るね」
「ありがとうございました〜」
早速首からネックレスを下げてみる。前まではこういうの絶対しないと思ってたけど、案外人って変わるんだね。ちょっと、オシャレすぎるかもしれないな。
それにもしかしたら存在を忘れるかも……それはないかな。
親方の家の前に着く。勝手に入って良いとは言われてるけど、ノックぐらいはしておこう。
コンコンッ。返事はない……
別にこれといって用は無いから、帰ろうかな。話すこと何かあったっけ?
……考えても思い付かないので、親方の家には入らないことにした。また前みたいに気不味いことになっても嫌だし。
予約しておいた絵画を取りに行くために、美術店への道を思い出す。その記憶を辿って目的地を目指した。
「こんにちは」
「あ、どうも。予約の方ですか?」
「はい」
「えっと、こちらですよね?……お代は頂いてるよな……それじゃ、お家まで運びますんで……」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ、中には運んでる途中に破損させちゃう人も居るんですよ。それは売った方としても悲しいんでね」
両手で抱えて持ち帰ることになるかと覚悟していたが、良いサービスがあってくれて良かった。
「お家はどちらに? もう帰宅されますか?」
「じゃあ、着いてきてもらえば……」
「はい。おーーい! ルイス!」
「え? ルイス?」
「お父さん、例の人来た?……て、あれ?」
ルイスって聞いてもしかしたらと思ったけど、前に見たルイスさんだった。短い黒髪に大きな瞳。小さめの身長にそこそこの肩幅。
ルイスくん? ルイスちゃん? 声もどっちとも取れる感じだし……
「よし! じゃあ俺はこっち持つぞ、力入れろ!」
「はい!」
「落とすなよぉ……それじゃお客さん、家までの道を」
「こ、こっちです」
重たそうにしている二人を後ろにして帰宅する。手伝おうか迷うくらいにルイスさんが辛そうにしていた。華奢で可憐な雰囲気あるし、女の子?
家の中にまで入り、ちゃうど良い場所に絵を設置してくれた。いつのまにか額縁にも入ってた。
こうして絵画を飾るなんて富豪になった気分だな。良い絵だし。
「それじゃ、また何かあったら」
「……すみません。もしかしてこれってルイスさんが描いたんですか?」
「私が描きました……問題でも……ありましたか?」
「いや、問題なんかないです! 良い絵だと思います……あの、今度お話し聞いてもいいですか? 他にも絵が見たいなぁとかも……」
「もちろんです! 私で良ければいくらでもお話しさせて戴きます!」
「それじゃ、また」
「ありがとうございました!」
二人は頭を下げてから外に出ていった。色々と良い買い物だったな。
私って言ってたってことは女の子? でも……どっちでもいいわ!!
カエデさんが帰宅すると、一番最初に近くに駆け寄ってきた。それから壁に飾られた絵に驚きつつも感動して、その次に二人で話した。
「これ……あの丘の絵ですか? アキラさんが?……」
「あの、今日、休みだったからさ。買ってみた……」
「私たちの思い出の場所……」
少し遠くを見て、何か物思いにふけっている様子だ。俺も懐かしかったよ。これ見た時。
「……昨日は何かあったんですか?」
ウルウルとした目で見られるとスゲー悪いことした気になる。いや、スゲー悪いことしたんだけど。
そしてこれから悪いことをしないといけない。流石に親方や大臣と隠れてドラゴン狩りに行ったとは言いづらい。
「うーん……実は、仕事が……」
「…………分かりました。ご飯でも食べましょうか? 私が作りますよ?」
「え、じゃあそうする?」
「そうしましょ?……あの、アキラさんは私のこと好きですか?」
「うん……え? いきなり?」
「…………」
「好き……だよ。うん」
「私も好きです……食材ってまだありますかね?」
「…………あ、あると思うよぉ」
ひっさしぶりにドッキドキした。ちょっと声が上ずっちゃった。
やっぱりあんまりカエデさんを心配させたくないなぁ。冒険に出るのは必要な時だけにしよ。
「……また一緒に行きたいですね。この絵のところに」
「行きたいね。夕方ぐらいにさ」
「あれから時間が経ちましたね。考えてみると不思議です」
「そっか……短く感じたなぁ」
「私も、一瞬で時間が通り過ぎちゃって」
日常が忙しくて、分からなかったけど、色々あったんだ。
飾られた絵画を眺めるたびに、この街に初めて来た時のことを思い出すのかもしれない。
それを思い出すと他のことも色々浮かび上がってくるんだろう。親方と初めて会った時、大臣と初めて会った時。
カエデさんと初めて会った……草原で寝っ転がっていた俺を……この世界で一人きりだった俺を助けてくれたカエデさんと初めて会った時が思い出されるんだ。
「これ良いね」
「素敵ですね」
「さて! ご飯作ろっか!」
「そうですね!」
その日はそれからずっと幸せな気持ちでいられた。
別にいつも不幸ってわけじゃないけどね。
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