85 レイダ! キマリダ!
前と同じように大きな岩が人工物みたいに加工されたドラゴンの住処に入る。
中からは大臣の話し声がずっと聞こえていた。
「邪魔するぞ」
「あぁ! 君たちも来たんだね?」
「おじゃまします……」
〈またお前らか〉
(懐かしい……聴こえるか?)
ルドリーが白いドラゴンに声をかけていたが、応答がない。ドラゴンにも聴こえないみたいだ。
(聴こえないか)
「……しょうがないね。話したかった?」
(話すことなどないが……聴こえてはほしかったな)
「へぇ……」
〈ドラゴンが居るのか? お前の中に?〉
「え? 俺ですか?」
〈そうだ。お前だ〉
「あの、ここの下の広場に居たドラゴンがいます。声聴こえませんでした?」
〈私には聴こえない。契約はしてないのか?〉
「してないですね。しようとしても出来なくて。でも、親方はして……この人は契約してますよ」
親方じゃ伝わらないと気付いて途中でこの人って切り替えた。ナイスだ。
〈そうか。良かったな〉
「ヨカッター! アリガトウー!」
「お前、起きてたのか?」
「オキタ!」
「寝起きでも元気だな」
グェールが起きた。さっきまで寝てたんだ。寝てても魔力を沢山使えるのかな。
「大臣はドラゴン狩らないんですか?」
「僕? 僕はもうちょっと話してようかな?」
「えー、まさかまたここに泊まったりとか?」
「そうするかも。良い?」
〈勝手にすれば良い〉
そういえば大臣って前はどうやって帰ってきたんだろ。改めて来て思ったけど、ここめちゃくちゃ遠いぞ?
「前はどうやって帰ったんですか? 徒歩?」
「送ってもらったんだよ。この子に」
〈この子はやめろ〉
「でも名前とかないじゃん。なんて呼んだら良い?」
「ナマエ! オレガツケル!」
やっぱりだ。なぜか名前に執着しているから決めてくれると思った。
「どんな名前にするんだ?」
「レイ! レイダ!」
『……レイ!??』
スティーがいきなり大声を出して驚いた。不思議だったので問いかける。
「え? スティーどうかした?」
『いや……そういうやつが居て……』
「妖精の仲間とか?」
『そうじゃない……レイは辞めないか?』
「レイダ! キマリダ!」
『……まぁ勝手にすれば良い』
待て待て、目の前で黙って聞いているドラゴンに許可を取っていないではないか。
困惑した様子もなく空を眺める白い龍。夜の中で雪のように輝いているそれはやっぱりちょっと、レイって感じがした。
「あの、この名前はどうですか?」
〈呼びたいなら勝手に呼んでくれ〉
ルドリーの時とおんなじようなこと言ってる。長生きしたドラゴンって大体考えること一緒なんだね。
「親方、俺たちはどうしますか?」
「別に話すために来たわけじゃないからな。広場のドラゴンでも食べたら帰るとするか?」
「そうですね。ぶっちゃけ眠いですし」
「帰るとするか。お前は残るんだろ?」
「うん。またね?」
「……無茶ばかりしているといつかホントに死ぬぞ」
「その時はその時だね。じゃ僕はまだ話してるからさ」
「ジャアナ!」
帰えるために住処から出ようとしたとき、聞きたいことが頭に浮かんだ。
「あの、一つだけ質問しても良いですか?」
〈なんだ?〉
「セントラル以外の国って何個有りますか?」
〈私が知ってるだけでも数十個はある。お前らは狭い世界で生きているんだ〉
「ありがとうございます。お元気で」
そんなに有るの! 全然実感湧かないなぁ。
もしかしたら俺の元の世界とも繋がってるかもしれない。てか、一つ質問したら他にも聞きたいことがドンドン出てきちゃったよ。このまま大臣と一緒に泊まろうかな。
「帰るぞ」
「……あ、はい」
「まだ居たいのか?」
「うーん。まぁ、どっちでも良いですね」
「はっきりしろ。それで困るのはお前だぞ」
「とりあえず今は帰りましょうか」
帰ろう。だって家に帰りたいし。
「あ! ヤベェ!」
「ん? どうした?」
「カエデさんに言うの忘れてた」
「はぁ……お前は……早く帰るぞ!」
「ドラゴンまだ居ますかね」
広場にはドラゴンが死体を啄みながら律儀に待っていた。いや、流石に申し訳ない。せめて書き置きぐらいしたけば良かったわ。
ドラゴンの背中に乗って、出来るだけスピードを出しながら空を飛ぶ。
朝が来る前の一番真っ暗な時間の中、門の近くに無事着地した。
「私が透明にする。先に剣や鎧は預かるから、早く帰れ」
「でも、重たくないですか?」
「魔法でなんとかする。カエデならまだ起きててもおかしくないだろ」
確かに俺も思い浮かぶ。机に伏して寝落ちしてしまった姿が浮かぶ。
鎧をドタバタと脱いで透明になる。誰にもバレないまま、街の中に入っていった。
「……それじゃ……」
「……あぁ……」
ヒソヒソと会話をしながら、親方と別れた。そこからは自分の魔力で透明になる。
「……ただいま……」
我が家に帰った時に真っ先に目に入ったのはカエデさんだった。壁にもたれかかりながら眠っている。
「あぁ、ごめん……」
起こすわけにもいかないので、眠ったカエデさんに謝った。いや、マジでこれは何かで返さないと。
このまま寝かせておいた方がいいのか、ベッドに運んだ方がいいのか迷ったが、そのままにしておいた。
申し訳なさからか何故かベッドに入って眠る気になれなかった。椅子に座りながら、机に伏して寝た。
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