82 練習あるのみ
大臣! 大臣のところに歩いて行ってみるとそこには誰も居なかった。
「居ないですね」
「そうだな。しかしどこに行ったのだろうか」
「ここだよ!」
「ん? 声が」
誰もいない部屋から声が聞こえたかと思うと、空中から大臣がニュッって感じで出てきた。
魔法か? いつも通り変な人だなぁ。
「どうしたの? 二人揃って」
「今日の夜、行かないか? コイツも予定が空いてるみたいなんだ」
「へぇ、そうなんだ。じゃあもう行こっか」
「まだ早いだろ。いや……行くとしようか」
「まだ外に人居るんじゃないですか? バレたら……」
「弓矢の練習がしたいんだろ? コイツに教われば良いさ」
「そうなの? へぇ、弓矢なんだ」
「とにかく外に行こう。城の近くに弓矢置き場がある。そこに寄ってからな」
件の弓矢置き場にはびっっっしりと弓矢が置かれている。村でも相当な数が有ったけど、やっぱ街だとヤバいなぁ。
これは親方的にはどんな気持ちなんだろう? 弓を忌み嫌うような感情が高まるのかな?
「ここはいつ見ても壮観だな。素晴らしい」
「え? てっきり嫌いかと……」
「考えてもみろ。これが全て私の武器や防具になるところを……壮観だろ?」
「あぁ、そうですね」
そういう理由か。てか壮観って何?
「どれ選んでも変わらないよ。ただ、こういう色が均等じゃないものってしなりが良くないことがあるからそれだけ避けてね」
「そうなんですね」
「うん。あと、下手くそだと張りが緩かったり、矢の方でも先っぽがダメになってなり、ちゃんと見た方がいい場合もあるけど、基本的には変わらない」
「じゃあこれで」
「あ、やっぱりダメなの選んだね? ははは!」
色合いが均等だし、糸の張りもピンッとしてるのを選んだはずなのに、ダメなの?
「僕が選んであげるよ。ほらこれ」
最初からそうして……とかも少し思ったが、これから自分で選ぶことになるならこれも良い経験だと思おう。
というか大臣に渡された弓矢は俺のと変わりがないように見える。何が違うんだ?
「何が違うんですか?」
「こっちは上手い人が作ったやつだから」
「そうなんだ……」
「んで、そっちは量産のやつね? その色も塗料で塗ってあるんだよ」
「はぁ……嫌なことする人も居るんですね」
「みんな気付かないから関係ないよ! ははは!」
大臣としてそれを放置するのはどうなんだ?
そんなこんなで弓矢を選び終えると外に飛び出す。まだ夜になって早いので、ギリギリ外にも人がいるだろう。
「じゃあ、ちょっと弓矢の練習しよっか? ミリは良いの?」
「私はいい。もう弓矢は沢山だ」
「でも暇つぶしにちょうど良いね。あ、そういえば弓矢重くない?」
「え? 重くないですよ?」
「うん。君も力がついたんだね? ここに来て長いもんね!」
そっか、俺が弓矢じゃなくて剣を使ってる一番の理由ってそれだったわ。弓矢が持たないから剣を持ってた……それもおかしな話だけどな。
門番と久しぶりの再会をしてから街の外へと飛び出す。今、俺どんな風に見えてんだろ。
「それじゃ、構えてみて?」
「……出来てます?」
「あっははは! それホントに? ははは!」
「おい、そんなに笑わなくても……」
そうだ! そんなに笑わなくても良いだろ!
普通にみんなこんな感じで構えてるよね?って感じで構えた。うん。形はどこもおかしくないはず。
「そこまで下手じゃない。心配するな」
「ありがとうございます」
「それだと撃てないでしょ? 試してみて……って矢も取り出せないか! はは!」
「いや、多分出来る……あ、倒れる!」
糸を持った左手を離すと力が一気に右手にかかって、そのまま前に倒れ込みそうになった。
親方が手を伸ばして俺を支えてくれたお陰で、怪我することなく普通に倒れなかった。
やっぱり親方だな!
それから一時間ぐらい何度も大臣に笑われながら、親方に助けられながら、なんとか矢を射れるまでには上達した。ただあまりにもゆっくり過ぎるけど。
「キミセンスないよねぇ。こんだけやってこれ?」
「まぁ、よく出来た方だと私は思うぞ? アイツは普通じゃないからな」
「……ありがとうございます」
「それじゃもう暗くなってきたし、そろそろ帰ろうか」
「え? 帰る?」
「そうだ。アレを取ってくる……お前もそうするか?」
「……じゃあ今日はソレで」
アレだのソレだの言っているが、防具や武器のことぼかして言ってるんだろう。一応バレたらマズイし、いや、バレたらどうなるの?
「そういえば剣使ってるのバレたらどうなるんですか?」
「ん? まぁ、あらゆることが生涯出来ないようになる。例えば食べ物も国から渡されるもの以外食べれなくなったりとかな」
「僕もまだ大臣でいたいしね。バレたら面倒なことになるよ」
「へぇ」
門番に帰宅が遅いことを心配されたついでに、まだ外に居る人がいるか聞いてみる。
「俺たちが最後ですかね?」
「まだまだいるぞ? ただ、もうすぐみんな帰ってくるよ」
「もう少ししたらかぁ……」
「どうした? なにかあったのか?」
「いや! 特には……」
「久々だからな!とにかくお疲れ」
門番に優しく向かい入れられた後、急に罪悪感が湧いてきた。
頭の中を色々な考えが巡る。そんなことは関係なく親方達は道を進んでいく。
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