前大臣の引退
王子様が王となってから、歳月が過ぎていった。その姿は前王を凌駕するほど勇ましく、高潔である。
しかし一方私の方は衰えるばかりで、もはやこの大臣という責任ある立場を与えられていることが惨めである。限界だ……しかし後任者など今まで考えてもこなかった。それもまた衰えか……
「王」
「どうした? なにかあったのか?」
「私はもう大臣という座から離れようと思っています」
「何故だ? お前が……いや、分かった。では次の大臣は誰にするのだ?」
「それは今から探して参ります。そこで王からもご意見を頂ければと思いまして……」
「そうか……それならエラはどうだ? 才能はお前と比べても劣らないだろう」
エラは数年前に私が見つけた人材だ。しかしまだ数年しか経っていない人間を大臣に? しかも村育ち……
「それは……果たして国民の理解を得られるのか……」
「なら誰だ」
「……スューリは如何でしょうか? 彼は弓矢の実力も相当なものです」
「彼ならば文句は無い。そうと決まれば話を付けてくるといい」
スューリ……あの飄々とした青年がこの国の未来を作っていく。だが、彼はどこか恐ろしい……好奇心だけで動いているような人間だ。
話をしてみよう。しっかり話さなければ分からないこともあるはずだ。
「スューリ君、話があるのだが……」
「はい? なんでしょう?」
「君にとって国民とはなんだ?」
「それは、糧です。なぜならその存在がなければ僕は生きていくことが出来ないからです」
「それは本心か?」
「もちろんです。アマルイダ様」
素晴らしい回答だ。国家を動かす上で必須となるのは大臣でも王でもなく、国民だ。それを理解しているとはやはり彼しかいないのか?
「ならばもう一つ、君は国のために死ねるか?」
「はい。もちろんです」
「本当か?」
「はい。もし、今、王に死ねと言われれば自らナイフで首を切って死にます」
「……」
恐ろしいまでの覚悟だ。彼の目は真実を語っていることを教えてくれている。
他にはいないのかもしれない。この城では安寧をぼんやりと生きている人間も多い。そんな中でここまでの気迫を持っている人間は他にはいない。
「スューリ、今ではない。いつになるか分からないが大臣に興味はあるか?」
「はい。もちろんです」
「ならば覚悟しておけ、いずれ大臣になる男だという自覚を持て」
「分かりました。大臣」
きっと間違いはないはずだ。大丈夫、心配することはない。しかしこの胸のザワつく感じはなんだ? 彼以外に適任はいないだろ?
やはり私は衰えている。なぜなら目の前の青年は素直で勇敢で知的だからだ。彼以外は有り得ないはずだからだ。
私は去る。全てを彼らに託して。
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(°し=°)