77 空は怖い
まだお昼かな? ちょっとお腹減ったけど今はそれどころじゃないか。
「君はどれが良い?」
三体の中から一体選ぶ……どの子が良いかな。別に属性とかもないし、そこまで大きさとかの個体差もないけど迷う……
うーん……悩んでいるとエラさんが声をかけてきた。
「あの、もしこだわりとかないなら私から選んでも良いですか?」
「あ、良いよ。大臣も良いですよね?」
「うん。僕はどれでもいいよ?」
あれだけカラフルな布を持ってるんだから、色にもこだわりがあるよな。でもどの色選ぶんだろ?
「じゃあこの赤いドラゴンに乗りたいです。良いですかね?」
「うん。良いよ。君は?」
「まぁ、青で」
「オッケー。別にどれ選んでも変わらないけどね? ははは!」
大臣はどこかから金属の腕輪みたいなやつを取り出すと俺たちに渡した。これって親方が作ったのかな。
「見てて?」
ドラゴンの首の後ろからかけられた縄はそのまま脇や足の付け根に沿った線を描く。尻尾に巻き付けた後、大臣は自分の腰にも縄をグルグル巻きにした。
そしてドラゴンの背中に乗り、尻尾と腰の縄を金属で繋げる。そこからカチッという音がすると大臣は両手を離した。
「どう? 凄いでしょ?」
「今のどうやって繋げたんですか?」
「強く押し込めば入るようになってるから。もしそれが外れたらドラゴンにしがみ付いてね?」
「指示は言葉で良い?」
「うん」
これ、魔法が使える俺は良いけど、エラさんは不味くないか? 大丈夫なの?とか考えていたが、エラさんはドラゴンに縄を巻き始めている。ホントに大丈夫なのか?
「……下手すると死にそうじゃない? 大丈夫?」
「そうですね。でもこんな機会滅多にないので……それにもし外れても縄がありますからねー」
「そうか……そうだね」
もし落下しそうになったら俺が助けないと……アレ? スティーって今も居るのかな? 最近マジで話してない気がするけど……スティーがいるならスティーに任せた方が確実だからなぁ。
「これで良い?」
「うん。後は君だけだよ?」
「あ、はい」
考え事してたら遅くなっちゃった。
前の二人の見よう見まねでドラゴンと腰に縄を巻きつける。金具を付けなくても思ったよりしっかりしていた。
カチッと金具を付ける。そして手を離すと思ったより安定していた。これは安全そうだ!
「それじゃ飛ぼうよ。頭を触りながら「飛べ」みたいなことを言ったら飛ぶから」
「はい」
「じゃあ、飛べ」
ドラゴンの頭を触りながら、大臣が「飛べ」と言った。すると緑のドラゴンが上空へと羽ばたき始める。縄が窮屈な感じも少しはあったが、問題なく飛べているようだ。
(お前も前よりは上手くなっているんだろうな?)
「まぁね。多分だけど」
「へ? 独り言ですか?」
「あ、うん! 独り言!」
隠すようなことでもないけど、隠しちゃうんだよなぁ。
大臣は遠く空の向こうで点みたいに小さくなってしまった。それに着いていくために俺もドラゴンに指示を出す。
頭を触った。
「飛べ!」
ブワッブワッと地上に向けて勢いよく翼を羽ばたかせていると、強い風が俺の方にも吹いてくる。
「大丈夫そうですかー?」
「うん! エラさんも飛びなよ!」
「はい!」
ドラゴンが強く地上を蹴った衝撃がお尻に伝わったかと思うと、地上から徐々に、徐々に離れていく。
……たかーい……
風は全身にゴワー! みたいな感じで吹き付けてくる。両手が空中にあると不安定な気がして少し恐怖が……でもおそらく親方が作ったであろうアレを信じよう。金属の腕輪みたいなやつを。
(もう一度味わいたいと思っていたのだ)
「俺もぉ……でもちょっと怖いんだけど!」
(いずれ慣れるさ。今はこの瞬間を楽しもうではないか?)
「……はは……」
加減なんか知らずにスピードをあげて、ただ上へと向かっていくドラゴン。そして、俺の中で珍しくウキウキとしながら話しかけてくるもう一つのドラゴン。
これは俺も楽しまないとダメだ……でも……
「たいちょーー!! うわぁ!!」
「え!? ちょ、危ない!」
猛スピードで俺の横に着けてきたエラさんが、ブレーキの反動で前後にフラフラと揺れている。ホントに大丈夫?
「隊長! 気持ち良いですよね!?」
「え? まぁ……」
「気持ち良くないんですか!?」
「……」
どうなんだ俺! 今も下に見える地面が遠すぎるところにあることを確認してしまったし、高い太陽が眩しくて目もあんまり開けられない。
それでも……それでも、こうやって風が全身に強くブチ当たってくるのを、今、この世界で誰も届かないような高いところにいるのを思うと……やっぱり気持ち良いかもしれん!!
「ははは……気持ち良いよ! 空飛ぶのって気持ち良い!」
「ですよね!? そうですよね!」
(ははは! 愉快だ!)
俺の周りの人ってなんでこんな人ばっかりなんだろ?……もしかして俺もこんななの?……否定は出来ないかもしれない……
雲の上まで行くと流石に空気が薄くなってきた感覚を覚えた。なので滑空する! それも楽しみかも……
「降りろ!」
俺の顔の皮膚が張り裂けそうなほど下へ向かってひたすらに進んでいくドラゴンは鱗が太陽光に反射して眩しい……
このまま死んでもまぁいっかな。久々にそう思えた。
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(°し=°)