75 お久しぶりですミリアさん
タグュールさんの家から出ると夕陽が見えたので現地解散にする。
ご飯に誘われたが、親方の家に遊びに行く用事? があったので断ってしまった。
「今度ちゃんと話したいですね! ハヤトさんとは仲良くなれたと私は思っているので」
「休みの日とかに遊びに行く? ドラゴン狩ったりとか」
「あ、私、弓矢苦手なんです……」
「そっか……まぁ今度予定が空いてたらご飯でも」
「そうですね! また明日〜」
エラさんってご飯食べたがるよな。布を取ることになるから嫌がる方が自然に思えるけどなんでだ?
他国の血? なんでもかんでも他国のせいにすんなよ!?
とりあえず今は親方の家に遊びに行こう。あぁ……鍛冶屋時代がもはや懐かしいなぁ……
「お邪魔します。アレ? 居ない?」
昔お世話になった懐かしい家の扉を開けると中には人が居ないみたいだ。流石に勝手に入るわけにはいかないし、帰ろうかな。
そのまま空の家を眺めていると、剣が壁に立てかけられていた。あれ? 無傷の剣とかあったんだ。鍛冶屋の中で見つけたのかな。
「お邪魔しましたー……」
「あ! 待て待て!」
「お、おやかた?」
全身に真新しい鎧を着た親方が俺が前に泊まっていた物置から飛び出してきた。何かあったんだな?
「その鎧……どうしたんですか?」
「作った。早く扉を閉めろ……お前にも見せてやるからな」
親方に連れられて物置に行くと地下へと伸びる……階段があった……あるなよ! だって、こんなの俺がいた時には……
「魔法で作った。この中でいつも作業をしている」
「へぇ? 鍛治のですか?」
「当たり前だろ? みんなには秘密にしてくれ……これを知ってるのはお前とスティーと大臣とアイラだけだ」
そこそこ知ってる人居るんだな。でもスティーはアレか。ノーカンみたいなもんか。
中に入ると今までの作業場よりも広い空間がある。
壁にはランタンのようなものが吊るされていた。それに照らされた壁は土だった。
ちょっと薄暗かったが親方が魔法を使って光源を部屋のあちこちに置くと、昼と変わらないぐらいに明るくなった。
「これを親方が一人で? こんなに広いのに……」
「いや、それは大臣とスティーにも手伝ってもらった。そもそもこれは大臣からの入れ知恵だからな」
「大臣……確かに、なんか納得です」
部屋の隅に置いてあった暖炉みたいなやつに火をつけると金属を溶かせるだけの炎が出来上がった。地下でこんな業火を焚いてもいいの? よく分かんないけど。
「親方、あの……」
「お前……私はもう親方じゃない。その呼び方はやめてくれ」
「え、じゃあ……ミリアさん?」
「……はぁ……親方と呼んでくれ」
ちょっとだけ考え込んだ後、親方とよぶことを許可してくれた。ミリアさんって呼ぶの恥ずかしかったから有り難い。親方もなんだか変な感じになってたしな。
「いつかまた冒険とか行くんですか? それとも作るだけ?」
「お前にも言おうと思っていたんだが、私たちも剣を使うことにする。どっちにしろ隠し事をしているんだからな。もう関係ないだろう」
「……そうですか。今までもたまに使ってましたけどね?」
「それはそれだ。とにかくこれからはバレないよう夜中に冒険に行く。行く時はお前にも声をかけるよ」
親方や大臣まで剣を使うとなると俺の価値が……まぁ、そんなことよりもまたドラゴン狩りが出来るかもしれないことの方が嬉しいよな。ただ夜かぁ……休みの日じゃないとむずそうだな。
「ありがとうございます。あの、俺ちょっと用があるのでもういいですか? すみません、こっちから押しかけたのに」
「いや、気にするな。私もお前にいつかは話そうと思っていたんだ。今度は勝手に入ってきていいぞ」
「それじゃ、また今度」
「ジャアナ!!」
「あ、グェールも居たの?」
最近全く話しかけてこないからグェールの存在を忘れていた。そういえば契約してたんだっけ?……その話も聞きたくなってきたなぁ……でも、帰りが遅くなると……まぁ、話すだけならそんなに時間もかかんないか。
「あの、グェールとはどうですか?」
「どうってなんだ?」
「まぁ、契約してから結構経ったじゃないですか? それで話を聞きたくて」
「あぁ、その話か。それなら上手くやってるよ。グェールも最初の頃より落ち着いてきたしな」
「ソウダ!」
「私の肉体を無断で操ろうとすることも減った。たまに作業に没頭しすぎているとメシを勝手に食べに行こうとするぐらいだな」
「そうなんですね……あの時はすごい心配してたんですけどそれが聞けて良かったです」
「それよりも得することの方が多い。こうして明かりを付けながら作業が出来るのもグェールの魔力のおかげだ」
「確かに……親方もまだ元気ですもんね」
「まだまだいけるぞ。今日はこのまま作業を続ける……」
「ヤルゾ! ヤルゾ!」
羨ましいなぁ。俺もルドリーと……でも魔力増やしたところで、意味ないか。他国を見つけに行く時とかは必要になるかもだけど。
「話聞かせてもらってありがとうございました。それじゃ今度こそ」
「あぁ、お前の分の鎧と剣も新しく作っておくから、楽しみにしておけよ?」
「ありがとうございます!」
物置に戻ると、地下の明るさが嘘のように真っ暗だ。
契約かぁ。魔法も最近使ってない……いや、洗濯とか家事でめちゃくちゃ役に立ってるな。でもそれにそこまでの魔力はいらないし。
(お前も我と契約する気になったか?)
「まぁ、いつかね?」
(……そう遠くない未来に契約することになるだろう。我には分かる)
「どうして?」
(勘だ)
「……なにそれ?」
俺的にも契約してみたい気持ちもあるし、まぁ、楽しみにしてようかな。
市場に寄ってから家に帰った。
カエデさんはもう帰ってきていた。やっぱり話しすぎたかな?
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(°し=°)