74 ホントにいた!
花瓶を俺が持ち、エラさんは花束を抱えている。それも出来るだけカラフルにしようと、黄色やら紫やらピンクやらの沢山の色を入れてもらった。
道中でも質問内容をしっかり決め、万全の準備を整えた感じだ。これで普通に断られたらどうしよう……
遠くの方で大きな工事の音が聞こえてくる。確かアーノルドさんがそんなこと言ってたなぁ。ついでに見てきちゃダメか?
「ちょっと向こう見てきていい? まだ時間あるよね?」
「見てくるんですか?」
「ごめんね。見よう」
二人でテクテク歩いていると、たしかに数軒ぐらいの大きな更地が出来上がっている……ん? この場所確か……鍛冶屋の場所か?
この世界に不動産とかがあるのか知らないけど、親方と関係あったりするのかな?
今日の夜、久々に親方の家に行ってみよう。そこまで久しぶりじゃないけど。
「ごめんね。俺の用事で」
「いいですよー? 時間はまだまだありますし、それにこの地図も本当に意味があるのか疑問に思うところもありますから」
ブラブラと怪しい地図を見て歩いていると、目的地らしき家を見つけた。
「ここがタグュールさんの家?」
「この地図が正しければそうですねー」
扉をコンコンッとノックする。いるかな……
「どちら様でしょうか?」
出てきたのは予想外に女の人だった。まだ若くて、髪の毛が長い、胸の辺りまで伸びてるけどサラサラだ。
俺はてっきりタグュールさん、もしくはその息子のエウレカ? そんな感じの人思ったら……
「あの、俺たちは「外界調査隊」の……」
「いや、「外界探索隊」です」
「……そんな感じです……タグュールさんっていますか?」
「はぁ……お父さんになんの用でしょうか?」
「え!」
本当にいた! ホントにいるとあんまり思ってなかったけど、居るとなると異世界……じゃねーや。外界への道がパカッと開けるぞ!
「ちょっと他国の……」
「あ! 私が説明します! いいですよね? ねー? ついでにお花も渡しちゃいますよ!」
「え? じゃあ、よろしく」
花瓶をエラさんに渡して、その場で待つことにする。
話を遮られて混乱したが、エラさんが説明してくれるならありがたい。
暇な間に部屋の中を眺める。別に普通の家って感じもするが、この世界での普通がよく分からんからもしかしたら変な家なのかもしれない……
でも、特別カラフルな感じもしないし、もしかしたら……同姓同名? それか、他国の人がタグュールさんじゃなかったとか?
「ではこちらです。どうぞー」
エラさんが女の人の代わりに案内してくれる。ありがとう。
「お花喜んでくれた?」
「はい!私が見る限りだととっても喜んでくれてましたよ?」
それなら良かったと一安心する。やっぱり花瓶とかをプレゼントって変じゃなかったよな?
案内されるままにそこそこ広い家の中を歩いていると、エラさんが一つの扉の前で立ち止まった。ここかな?
「お邪魔しまーす。あ、はじめまして」
「はじめまして。タグュールと申すものです」
あ、居た。ホントに居た。顔の輪郭がはっきりしていて見た目だけでも他国人っぽい。でも、言われなきゃ分からないぐらいの違いだなぁ。外見だけで他国の人を探すのは難しそう……
多分50代、60代ってとこかな? 黒い髪の毛と白髪がまばらに混ざっている。
「アキラです……こちらはエラさん」
「はいエラです。よろしくお願いします!」
「なんの用でしょうか? お国の方々がわざわざ」
「私から説明してもいいですか? 隊長?」
「あ、じゃあよろしく」
エラさんが他国について調べているということを説明すると、あちらの方でも協力的になってくれた。
聞きたいことは山ほどあったが、まずは一番目に気になったタグュールさんが他国の人なのか? そうだとするならばそこはどんな所だったのか? それを聞こう。
「協力ありがとうございます。まずは……タグュールさんって、セントラルの外から来たんですか?」
「そうです。えー、私は元々、セントラルの人間ではありませんでした……」
「その……タグュールさんが住んでた国ってどんな場所だったんですか?」
「そうですねぇ……随分と昔のことだから、曖昧な部分もありますけど……」
どこか懐かしそうな、上を見てなにかを思い出すような顔をしてからタグュールさんは口を開いた。
「彩り豊かな素敵な場所でした。友人も明るくて……私はウィールドでは常に幸せだった……もちろんセントラルも好きですよ?」
「ウィールド? それが国の名前なんですかね?」
「そうです」
「あのー? ちょっと私も質問して良いですか?」
エラさんが手を上げて俺の方を見てくる。よし! 質問してくれ! 頷くとエラさんはタグュールに近寄っていき目を見て質問を始める。
「えっと、ウィールドという国は統合された一つの政治ではなく、複数の政治によって成り立っていたり、地域によって文化が大きく分かれていたりとか、国内で貧富の格差みたいなのがあったりとかはしましたか?」
「……僕が知る限りはそんなことないかなぁ……みんなとても幸せそうに人生を謳歌していたよ」
「ありがとうございます。ならばウィールドに居た時に他国についての知識等はありましたか? それともここに来て初めて他国の存在を知りましたか?」
「噂では聞いてたけど、まさか本当に有るとは思ってなかったよ」
「なるほど! ありがとうございました!」
深々と頭を下げるともう質問は無いよって感じで俺の近くに戻ってきた。これはエラさんが立てた仮説? みたいなやつを確かめるためのものかな?
いやぁ……他にも質問を色々考えていたけど、質問があり過ぎて、いきなりだと迷惑かもしれないなぁ……
今度別の機会をちゃんと設けて、そこで話し合った方がいいかもしれない……
「あの、また今度お会いすることって出来ますでしょうか?」
「もちろんですよ。それがセントラルのためになるのであれば……」
「では予定が空いてる日とか教えてもらっても大丈夫ですか? タグュールさんの都合で大丈夫なので」
「明日でも明後日でもいつでも大丈夫です。あ、ただ休日や祭日は基本的に予定が埋まっていまして……」
「わかりました。なら……明後日またお邪魔させていただきます。エラさんは予定空いてる?」
「はい! もちろんですよー」
「今日は来客が来るとも思ってなかったので、もてなすことも出来ませんでしたがその時にはちゃんと……」
いやぁ……まさか本当に他国の人がいるとなぁ。楽しみになってきたし、ウィールドのことも気になってきた。
ワクワクしているとタグュールさんが申し訳なさそうに声を掛けてきた。
「あの……失礼な質問になるかもしれませんがよろしいですか?」
「え? もちろん。なんでもこたえます」
「どうやって私がセントラルの人間では無いと分かったのでしょうか? それが分からなくて……」
「あ、それは日記です。交換日記」
「……あぁ! そんな……お恥ずかしい……」
「え? 素敵な日記でしたよ?」
「……そう言っていただけると有り難いです。アレは私にとってもいい思い出なので」
「……ウィールド、見つけます。その時には……えっと……」
日記に書いてあった《アナタ》のことって言ったら失礼かな? 流石に入り込みすぎか? 初対面の人に。
「とにかく、俺たちは頑張ります! 期待しててください!」
「ありがとうございます……私が生きている内に……」
「はい!」
この世界の平均寿命とか知らないけど、多分これぐらいの人になるとそういう考えも浮かんでくるんだなぁ。
早目に見つけよう! ウィールドでも時間は平等に進んでいるんだから。
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(°し=°)