衣装替え
突然個室の更衣室のカーテンが開かれた。
「どう私のドレス姿? 」
赤い派手なドレスを回りながら四条は照れながらもドレスを見せびらかしていた。
ドレスは大胆に背中が空いており、手にもドレス同様の布の手袋をはめていた。
「どうって……普通じゃない? 」
英国の執事のような格好で答える相模は、無邪気な彼女をあしらった。
「もう少し良い反応できないのかな? セバス」
「はい、お嬢様はお似合いです」
相模は従順な執事を演出しているが、手に持っている強く握られた手袋は反抗を表していた。
「いつか覚えてろよ」
彼は小声で復讐を誓っていた。
「それじゃ準備もできたし、行きますか」
鼻歌を歌いながら再度鏡で自分の美しさに酔いしれている四条。
「しっかし、よくこんな場所見つけたね」
「最上さんに言えばなんでも揃うわよ。仕事に関係してればね」
自慢話をするかのように言う彼女は手に持っていた紙袋から何かを取り出した。
「それは? 」
すかさず相模は彼女の持っている|それ(‥)について言及した。
「仮面よ、裏オークションには必須品なのよ」
彼女が持っていた仮面は赤く、目元のみを隠すタイプのものだった。
「あなたの分もあるから博物館に入る前にはつけといて」
四条が有無を言わさず手渡してきた仮面を相模はまじまじと観察した。
彼女の仮面とは違い、白と黒の半分に色分けされたシンプルなデザインであった。
「あら似合うじゃない」
相模が仮面を着け終えた辺りに、四条の賞賛する声と拍手が衣装屋に響く。
「はぁ……ありがと」
ため息混じりに言う感謝には力はなかった。
「支度も完璧だし、潜入に行きますか」
そう言って店の扉を勢いよく開け、無線を一本入れた。
「じゃお願いしますね」
彼女の透き通った声がした後すぐに、黒い高級車が道路沿いにやってきた。
「あれは? 」
「送迎用にお願いした車よ」
その車はフロントには高級車の証である、エンブレムとボンネットの艶が目立つ。
「それも最上さんが? 」
目を丸くしながら相模は恐る恐る尋ねる。
彼女は嬉しそうにそれに対して大きく頷いた。
「そりゃすごいわ」
こればかりは相模も驚いた様子で、運転手がこちらを見ながら待っていることに気づいた。
二人は上流階級の者のように優雅に車へと乗車した。
車の中は本革に仕立て上げられ、後部座席に装飾された木には趣を感じられる。
「初めてこう言うの乗ったけど、なんか良いわね」
四条は子供のようには飛び跳ねたい気持ちをぐっと堪えているのが見てわかる。
「じゃ博物館までお願いします」
相模は彼女の無邪気な姿に目もくれず運転手に声をかけた。
エンジンの音が轟き、ゆっくりと車は出発して行った。




