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プランβ敢行

「ちょっとさっきから言ってるけど、近接戦闘なんて実践したことないんだって」


 相模は一歩前に早歩きで歩く四条に小走りで追いかけていた。


「はい、とりあえず私の銃使って」


 人の話を聞こうとしない四条は腰のガンホルダーから一丁渡した。


「だから……」


 相模はため息をしながら拳銃を握り、感触を確かめていた。


「ベレッタ92よ、使い方はわかるでしょ? 」


「そう言う問題じゃないだけども……」


 彼は嬉しそうに話す四条に呆れた表情を浮かべ、ため息をつくことしかできんかった。

 しばらく歩くと裏オークションが開催される博物館近くに到着していた。


「いよいよね……」


 真剣な眼差しで博物館の黒服の見張りに目を凝らす。


「四条さん? あなた何してるんですか? 」


 腰につけていた無線機から通信が来た。


「何をって、任務よ」


 無線機をとり、応答する。


「任務って相模くんの補佐は? 」


「ぽんこつスナイパーの補佐なんて必要ないし、それにスナイパーよりは潜入とかの方が向いてると思うの」


 無線機から大きめのため息が流れる。


「四条、勝手な行動は部隊全体に支障をきたすこと教えなかったか? 」


 見かねた最上が小久保の代わりに無線機に出た。


「せっかくぽんこつスナイパーの天職を見つけてあげようと思ったのに」


 四条は膨れた顔で無線機に子供の言い訳を言うように話す。


「四条……ここは最上さんの言う通り勝手な行動したらダメだって」


 相模は四条に諭すように話しかける。


「そもそもあんたが……」

 

 四条は言いかけたところで表情を曇らせ、言葉を詰まらせた。


「相模に代われ」


 最上の低い声が四条の耳に入り、素直に無線機を相模に渡した。


「お前はどうなんだ? 」


「どうと言うのは? 」


 四条はそっぽを向き、いかにも機嫌が悪そうに腕を組んでいた。


「四条の言っていた天職とやらは」


「近接戦闘員としてならできるって言われましたけど……」


 相模は不機嫌な四条を横目に困惑した様子で言う。


「なるほど、それで天職か……」


 事情をしる彼は四条の意図を理解したように、頷いた。


「それでお前は乗り気なのか? 」


「それは……」


 相模は言葉を詰まらせ、四条からの冷たい視線に気づき解答を躊躇った。


「最上さんのためにこの仕事してるんでしょ? 今のあなたじゃただのお荷物よ」


 小声で話す四条の言葉に相模は悟りを開いた仙人のように我に返った。


「はい、できます……やらせてください」


 言葉を選びながら言う。

 最上は困惑しながら最終確認するが、相模は同意した。


「四条、相模、東郷でプランβを敢行を命令する」


 四条は吉報に頬を緩ませながら、返事をした。


「はぁ……でも死にたくないなぁ」


 弱音を吐く相模に四条が歩み寄る。


「絶対あなたは私が守るから……だからあなたも私を守って」


 真面目な顔で相模の顔を彼女は覗き込む。


「……弾一発くらい当てちゃうかもだけど」


「ちょっとそれ酷くない? 」


 頬を膨らませた四条は腰に手を当てながら顔を強張らせた。


「冗談だって……ね」


 恐れをなした彼はすかさず退いた。


「それじゃ東郷さんと合流しようっか」


 四条は不敵な笑みで指示を出した。


「しーちゃん、その必要ないよ」


 突如として東郷の軽い喋りが無線機から発せられた。


「どう言うことです? 」


 首を傾げながら彼の言動に言及した。


「もう潜入しちゃった」


 何かの冗談かと思った四条は聞き返すが、どうやら本当のようであると気づく。


「いつの間に……」


「しーちゃんのカバー要請の時には潜入ほぼ完了してた」


 笑いながら言う東郷だが、簡単なことではないことは誰もがわかることであった。


「最上さんには言いました? 」


「今さっき言った……すっげー怒られたけどその後褒められた」


 東郷の笑いは小さいながらも止まらなかった。


「で、今どこにいるんですか? 」


 四条は呆れ顔で質問を投げかける。


「一階のトイレ」


 四条は博物館の地図を広げ、場所を確認した。


「状況は? 」


 館内図を指で辿りながら尋ねた。


「警備は相変わらず厳重で、裏オークションの参加者待ちって感じで、博物館としての営業は今ちょうど終わったとこ」


 四条は時計と博物館前の帰る客に目をやる。

 彼女の視界には黒い高級車から降りる背広の男が映った。


「誰か来たみたい」


 彼女は小声で相模に伝達する。


「ターゲット? 」


「違う、あれは……顔まで見えないけど、少なくとも裏オークションの参加者で間違えないわね」


 双眼鏡を片手に目を凝らし、観察していた。


「私たちも参加者として潜入がいいかな」


「参加者に扮するなんて、そんな簡単にできるわけ? 」


 疑問で満たされる相模は四条を見つめた。


「こう言う時のためににあいつがいるのよ」


あいつ(・・・)? 」


 聞き返す相模を置いて彼女は無線機を手に取る。


「どうせ聞いてるんでしょ? 」


「はい、はーい先輩」


 川浦の可愛らしく話す声に四条は不機嫌そうに話す。


「裏オークションの参加者リストの解析とキャンセル予定の女性客を探してもらえる? 」


「はいはい、その代わりに後でジュース奢ってくださいね」


「いくらでも奢ってあげるわよ」


 吐き捨てるように言い、通信を切った。

 ものの数分で四条の端末の振動音がした。


「敵ながらお見事……」


「敵なの? 」


 鼻先で笑いながら言う相模を四条は睨んだ。


「それはそうと、なになに。……やったね、運良く都合の良い人いるじゃない」


 端末をスクロールさせながら、川浦から送られたリストを嬉しそうに眺めていた。


「因みに俺は……」


 四条がリストを読み終えたタイミングで彼は尋ねた。


「もちろん、私の下僕よ」


 四条は蔑む目で相模を見下す。


「何言ってんだ? 」


 理解に苦しむ相模の言葉は一つしかなかった。


「こら、下僕の分際が。なんて口の聞き方なの? 」


 どこから取り出したのかもわからないムチを地面に打ち付けた。


「役になりきるのは良いんだけど、度が過ぎてるんだよね毎回」


「何か言った? セバスチャン」


「いえ、何でもございませんお嬢様……」


 相模は膝間付き、丁寧な言葉使いで応対した。

 彼の顔には一切従順の文字はなく、半分呆れた表情であった。


「よろしい」


 四条は屈服した同僚の姿にひどくご満悦のようであった。


「じゃ着替えましょうかね」


 鼻歌を歌いながら歩く四条に相模は後ろから付いていった。


「絶対楽しんでるだろ……」


 小声で言う声は彼女には届いていないようであった。

 二人はその場所を後にした。

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