某所 作戦会議室
「大丈夫ですかね」
小久保が心配そうな表情で最上に話しかける。
「任務は必ず遂行する……させる」
強面の彼の顔に一点の曇りもなかった。
「最上さん怖いですよ」
お茶を持ってきた川浦が微笑みながら声をかける。
彼女はお盆から優しく茶を机に置いた。
「ありがとう」
なんだか気恥ずかしくなった最上はお茶を啜り顔を隠した。
小久保は良く思っていない様子。
「まぁ一応サブプランもありますし、気負う必要はないですよね」
早口で小久保は話し、最上と同様に川浦に手渡されたお茶を啜る。
「ただそう言う常に心配する心構えは大事だと思うぞ」
最上は飲み終わったお茶を机に置く。
「ですね」
川浦は可愛らしくお盆を持ちながら笑う。
小久保は顔を赤くしながらコルクボードに凹みを作った。
「それはそうと……」
最上は無線を手に取った。
真っ黒な無線機は各場所に配置している者たちに繋がる。
「それぞれ配置についたか」
部屋にかけられた子供が書いたような絵を見ながら言う。
「こちら狙撃班、特定の位置にして待機中、どうぞ」
四条の澄んだ声が部屋に響いた。
「こちら東郷、例の会場の前にて待機……」
ブツブツと雑音混じりの東郷の声が聞こえた。
「どっちも異常なしで、今のところは順調のようですね」
小久保が腕の時計とコルクボードに挟んでいる資料を見直す。
「今のところはな……」
最上は険しい顔で手を組む。
「そんなこと言わないでくださいよ……こっちまで心配しちゃいます」
川浦がセーラ服をひらひらさせながらごねるように言う。
「やっぱり、相模くんのことですか? 」
小久保は手元の資料を相模の顔が載っているものを上にした。
「相模先輩って一体何者なんですか? 」
川浦が首を傾げながら話すが、最上は首を横に振る。
「ダメですよ、詮索しては」
小久保が川浦に注意をし、指を振る。
「するなって言われるとしたくなるのが人間のサガですよ」
頬を膨らませた川浦は腕を組みそっぽを向いた。
「止めても川浦のクラッキングでどっちにしろ情報得るんだろ」
見透かしたような表情で幼気な少女を見る。
「流石、最上さん! 実は大方このチームの人間のデータベースにはアクセスしたんですよね、ただ相模先輩のだけまだできてなくて……」
川浦は胸を張りながら、敬礼をする。
「あのなぁ……下手したら殺されてもおかしくないのわかってるよな? 」
最上はため息をつきながら呆れた顔で彼女を睨む。
「怖いなぁ……でもそれが本当ならもうとっくに私死んでますよね」
人を馬鹿にするような笑いで、最上を茶化す。
「はぁ……小久保、少しだけ相模について話してやれ、どうせ後々盗み見られるわけだろから」
小久保に目を向け、指示を促した。
「しかし……わかりました。少しだけなら」
川浦は飛び上がりながら嬉しがり、歓喜の声を上げた。
「相模くんは現在19歳。家族構成は不明。狙撃能力は世界でもトップを誇る持ち前」
「えぇ……それ何の情報になってませんよ」
川浦は不満そうにふて腐れた態度でソファに座り込んだ。
「うちにある相模のデータベースの大方の情報だぞ」
不敵な笑みでソファーにもたれ掛かる川浦を見つめる。
「あくまで、謎の凄腕スナイパーとしておきたいんですね……」
「まぁこれ以上は踏み込まない方がいいと思うぞ、その前に踏み込めないとは思うが」
「いつか最上さんに一泡吹かせてみせます」
川浦は凛とした顔立ちで誓いを立てた。
「好きにしろ……」
自信ありげに最上は鼻先で笑う。
無線機から唐突に東郷の愚痴が流れた。
「やれやれ……」
最上は机に置いてある無線機を手に取り、通信を繋げた。




