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某所 東郷

 

「いやぁいいね、みんな誰かと一緒にいれて……」


 東郷は人気(ひとけ)のないビル群の狭間に潜んでいた。

 埃っぽいこの場所は暗い。


「お前は子供か」


 無線機から最上がツッコミを入れる。


「懐かしいよなぁ、お前とタッグ組んでた頃」


 東郷はゆっくりと日が沈む赤い空を見上げる。

 胸ポケットから煙草を取り出し、火を点けた。


「何年前の話をしてるんだ」


 最上は些か上ずったような声だった。

 彼らしくない声。


「あの頃の伝説の執行人のお前が恋しいぜ」


「その名前辞めろ……おい小久保、何笑ってる」


 無線機の向こうで人悶着あるようだ。


「それはそうと、そっちの様子は? 」


 真面目なトーンで話す最上の声に東郷は耳を傾ける。


「今のところ、ターゲットの工作員の数は確定で15人」


「思ったより多いな……」


「例の会場にも見張りが十数人程度いる」


 東郷は外にいる強面の見張りに目をやる。


「ありゃ潜入は難しそうだな」


 東郷は黒メガネの背広の男を一人を見かけ嘆いた。


「誰も潜入しろとまで言ってないだろ」


「すまねぇな、職業病ってやつ」


 東郷は煙草の煙を吐き出し、一息つく。


「流石だな、陰湿な潜入者くん」

 

 意地の悪い声が無線機を通して東郷の耳に突き刺さった、。


「おいおい、さっきの仕返しするのはやめてくれ、大人気ないぞ」


「もうお前も俺も子供じゃないから問題ない」


 二人はいつも以上に楽しそうに会話をしていた。


「でもまぁ、相模のやつは撃てないだろうから、どっちにしても潜入からの任務遂行になるだろうが」


「少しは相模くんを信用したら? 」


 東郷は鼻先で笑いながら言う。


「どんなに高度な技術があったとしてもあれはギャンブルさ」


 最上は渋い声で続けて話す。


「それに餓鬼一人を信用しきったら失敗した時に取り返しの行かないことくらい分かるだろ? 」


 その言葉に反論することもなく東郷は頷く。


「因みに俺は信用してるんだろ? 」


「あのなぁ……」


 最上は茶化すように笑う東郷に呆れていた。


「でももちろんお前のことも100%信じてるわけではないから安心しろ」


「……って待ってそれ酷くない? 」


 二人の会話の間に日は沈み、街灯の明かりがつき始めた。


「よし時間だ、無駄話は後でしよう」


「りょーかい」


 会話を終えそれぞれ無線を切る。


「今日もいちょ頑張りますか」


 手に持っていたスーツケースから拳銃を取りだし、銃口に息を吹きかけた。


「東郷さん、カバーお願い」


 唐突に四条の焦った声が無線機から響いた。

 トラブルが発生し、かなり混乱している様子であった。


「りょーかい」


 軽い返事をし、自分の剃り残った髭を触る。


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