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大きな代償


「相模どうした? 」


 無線機から相模を最上の心配する声が聞こえる。


「すみません、いつものです……」


 青い顔の相模は引き金から手を離し、荒い呼吸で陳謝する。


「東郷さん、カバーお願い」


 四条はすかさず無線機を通して連絡を回し、軽いノリの返事が返ってきた。


「なんでいつも撃てないのよ」


 怒り混じりに四条は相模を叱りつける。


「そんなの、撃てない……よ」


 ギルは船から降り、複数のボディーガードを引き連れながら目的地へと向かっていた。


「その発作は緊張からなの? 」


 少しづつ気持ちを落ち着かせている相模に目線を合わせ話しかける。


「別に……緊張からの発作ではない……」


「そろそろ教えてくれない? あなたの打てない理由」


 四条は悲しそうな表情で相模に語りかける。

 彼は冷や汗をかきながら震えていた。

 先ほど見せていた彼とはうって代わり、何かに怯えたいる小動物のようであった。


「ねぇ、何があったの? 」


 四条はそっぽを向く相模の顔を手で押さえつけた。


「見えるんだよ……」


 相模は憔悴しきった顔で呟く。


「何が見えるのよ」


「過去が……」


「過去?」


 首を傾げながら四条はおうむ返しする。


「ターゲットの過去が全て見るんだ……」


「つまり撃てないのはそれが原因なわけ? 」


 相模は小さく頷く。


「嘘でしょそんなの信じられない……」


「みんなそう言う反応するから四条には言ってないんだよ」


 四条は申し訳なさそうな顔で咳き込む。


「じゃ仮にターゲットの過去が見えるとしても、それで突然撃てなくなることなんてあるわけ?」


 その言葉に相模は怒ったような表情を浮かべ、四条を睨む。


「何よ」


 普段見ない彼の顔に怯えながらも睨み返した。


「じゃ四条は、幼馴染を何も心なしに殺せる? 」


 怒鳴るに近い覇気ある声。


「急に何よ」


「答えて」


 真剣な眼差しで見られて四条は押さえつけていた手を離した。


「それは……躊躇(ためら)うわね」


「それが全てだよ」


 普段の彼の口調に戻り、顔色は幾分か良くなっていた。


「話が掴めないんだけど」


「ターゲットの過去を全て見るってことは、つまり幼馴染同然のように思えちゃうってこと。それが躊躇いから発作へと変わる……それが超狙撃と引き換えに受けた大きな代償さ」


「どういう原理な訳それ」


「わからない」


 相模は首を振った。


「そのことは最上さんには? 」


「言ったさ、それでも俺の超狙撃はどうしても必要だから辞めさせることは(うえ)が許さないんだとさ」


 屋上に置いてあるペットボトルの水を手に取る。


「まぁ確かにこの3000m級の狙撃手を手放すわけないわよね」


 腕を組みながら夜景一面を見下ろす。

 船から荷物の積み下ろしがちょうど完了していた。


「まぁそれでも狙撃できないんじゃ意味がないってことよ」


 四条は相模の正面に立つ。

 彼女は困った表情を浮かべるが、すぐに何かを思いついたのか顔を明るくした。


「話戻るけど、ターゲットを捕捉するとその人の過去が見えるって言ったわよね」


 何かを企む顔で不敵な笑みを浮かべる。


「そうだけど……」


 恐る恐る聞く相模の言葉に被せるように四条が一つ提案を出した。


「じゃ私を狙ってみなさい」


 突然の提案に相模は目を丸くした。


「そ、そんなことできないよ」


 慌てふためき、首を大きく振る。


「何も撃てとは言ってないでしょ? それとも私だったら撃てるわけ? 」

 

「つまりどういうこと? 」


「そのままよ、その銃で私を狙って私の過去を見るのよ。もしそれが本当なら信じられるわけだし」


 相模は全てが線で繋がったようで、置いてあるスナイパーライフルを手に取る。


「さぁ狙って」


 多きく腕を広げ、全てを受け入れる構え。


「じゃ……」


 とスナイパーライフルを構えたが、直ぐに辞めた。


「どうしたの? 」


「見えないよ、この距離じゃ」


 彼は肩を落とし、難色を示す。


「どういうことよ」


 四条は不機嫌な顔で問い詰めた。


「近くにいるターゲットのは見れないんだ、そうスコープのように」


「何上手いこと言ってるつもりになってるの、結局証拠がないじゃない」


 彼女は腕を組み、鬼の形相で睨む。


「も、もちろん、遠くに行ってもらえれば見れるんだけどね……」


 小さく言い訳のような口ぶりで言う相模に四条はまたしても閃きを見せた。


「待って、それってことは近接だったら撃てるわけ? 」


 目を光らせ、彼女の相棒を見せつけた。

 デザートイーグルは月光に反射され、白く光っていた。


「待って、四条の思ってることは大方予想できるよ。でも近接の訓練なんてろくにしてないよ」


「大丈夫よ、撃ちゃなんとかなるのが近接戦闘よ」


「はぁ……なんでそんなに脳筋なんだ」


 頭を抱えながら、大きなため息をつく。


「今なんか言った? 」


「いえ、何も言ってません」


 訓練生が教官に接するように気をつけをする。


「よろしい、と言うことで相模くん、準備はいいかな」


 悪巧みやいたずらをするような表情で相模を見つめる。


「あぁ、もうどうにかしてこの仕事辞めようかな」


 彼の願いは夜空の星へと吸い込まれていった。

 二人は屋上を下り、暗闇に消えていった。


 

 


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