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BULLET

「それでどうする? 」


 嬉しそうな表情でギルは東郷を見つめる。

 両者にらみ合いが続くが、長くは続かなかった。


「そうのんびりしてると死ぬよ」


 東郷の目の前には大きな拳。

 刹那に視界は闇に染められ、その場に東郷は倒れた。


「ざるな殺し屋だこと」


 血で染められた手を見てうんざりした表情で四条の服で拭った。


「さぁようやく邪魔者もいなくなったわけだし……」


 ギルは遠くにそびえ立つビル群に顔を向けた。


「いつまでそうしているつもりだ? 」


 不敵な笑みで無線機に向けて息を吹きかける。

 

「……」


 相模の返事はない。


「めんどくさいやつだな」


 ギルは四条の首を強く締めた。

 

「こうしないとわからないみたいだ」


 彼は満足そうな顔で笑っていた。


 静寂に包まれていたデッキに一つの乾いた銃声が鳴った。


 ギルは驚いた表情で自分の背中に手を伸ばした。

 温かい液体がとめどなく流れていた。

 ギルは痛む声とともに崩れ落ちた。

 背後から見えたのは少女の姿であった。

 少女には耐えられない銃の反動をもともにくらい痛みに耐えられず、銃をその場に落とした。


「銃を撃つなんて……悪い子だ」


 背中の傷に手を当てながらも呟く。


「アリシア…………」


 おぼろげに見えるギルの目からは涙が溢れていた。


「神父様? 」


 久々に聞いた自分の名前に驚き、それと同時に喜びに満ちた少女はギルが神父であったことを思い出していた。


「ごめんな……」


「私こそ……」


「良いんだ……正しい選択だ」


 悪人であった彼の態度は一変し、優しい表情で少女を見つめていた。


「アリシアこっちにおいで」


 いつしかの孤児院にいた神父の姿は少女の瞳には写っていた。

 少女もまた死んだ目からかつての活発な少女への目へと変わっていた。 

 神父の元へと走り寄っていった。


「うっ……」


 四条は気を失っていた状態から回復し、周りを見渡した。

 視界には今までに見たことの無いくらいに嬉しそうな少女が走り寄る姿とそれを受け止めようとしているギル出会った。 

 ギルは刹那に我に返っていたようだが、それもつかの間。

 すぐに元の悪人の顔へと戻っていた。


「危ない! 」


 とっさの判断で四条はギルの腕を思いっきり噛みついた。


「痛っつ、このクソあまがよ」


 あまりの痛さに本性を現したギル。

 少女はあまりにもショックを隠しきれないのは明白であった。


「ほんと馬鹿だな、所詮ガキだよな」


 高笑いしながら四条の髪を掴み、少女を見下ろした。


「うそ………さっきのは……」


「あっはは、何言ってんだお前は?」


 少女の言葉に被せるように言い捨てる。


「あんた最低」


 四条は痛みに耐えながら歯を食いしばっていた。


「それはどうも」


 心底嫌味な表情で彼女たちに笑みで答える。




 四条の過去を垣間見た相模にもう迷いはなかった。


「君のためなら……」


 そうつぶやく彼は目を瞑った。


「ギル……言い残すことあるか? 」


 冷たい声で無線機に話す。


「おっやっとやる気になったか」


 嬉しそうに無線機の問いかけに反応する。


「そうだなぁ……言い残すことか……んなもんねぇな。と言うかお前には撃てないだろ? 」


 その言葉をきっかけに相模は引き金を引いた。


 銃弾の火薬が点火する。


 口径から放たれた弾は周りに空気圧を与えながら進む。


 この瞬間は相模にはスローモーションのように感じられる。


 それは銃弾の軌道とターゲットの記憶、過去をゆっくりと見ている感じである。


 ただ今回は違うようであった。



「ありがとう」


 相模はどこか光に包まれている場所にいた。

 目の前には神父姿のギルがいた。

 満面の笑みで立っていた。

 

「本当は殺したくはなかった……」


 相模は自分の内に秘める気持ちを吐露する。


「いいんだ。これしかなかった」


 ギルは絶えず笑っている。


「その悪いんだけど、アシリアに伝えといてほしいことがあって……君にしか頼めないんだ」

 

 アシリアの名前と少女の顔が一致した相模は頷く。


「もちろん……いいです」


「そう多くのことは言うつもりは無いんだ、ただ……愛してる……とだけ伝えてくれ」


 涙の含んだその表情からはあの悪人の顔が想像もつかない。


「わかりました、しっかりと伝えます! 」


 相模は強く返事する。




 その空間は刹那に消え失せ、相模の視界はスコープへと戻った。

 

 銃弾はギルの頭に寸分違わずに当たった。


 銃声はそれから数秒たってから鳴り響いた。


 朝にゴミを漁るカラスたちがけたたましく騒ぎ出していた。


 ギルは完全に息絶え、その場に倒れていた。


 良くやったとチームの全員から無線機から流れていたが相模には遠くにしか聞こえていなかった。


 終わったんだ。


 ただその達成感と何か大事なものを失ってしまった喪失感が一気に彼を襲っていた。


「……がみ、相模」


 無線から四条の声が聞こえた。


「その、ありがとう」

 

 照れ臭そうに彼女は言う。


「仲間のため…………四条のためだよ」


 銃から手を離した。


「先輩、そんな告白じみたことオープン回線で言わないでくださいよ」


 川浦の引き笑いが聞こえた。


「いいなぁ、しーちゃんモテモテ」


 それに便乗する東郷の笑い声も聞こえた。


「相模、へ、変なこと言わないでよ」


 慌てる四条の姿を想像すると相模も自然と頬が緩んだ。


『そう、仲間を助けられたから良いんだ』


 相模は仰向けになり、すっかり明るくなった空を見上げた。


「あぁ綺麗だ……」


 

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