最上と四条の出会い
相模は目にしたのは少女と老婆の姿。
先ほど見た状況とは大きく異なっており、違和感があった。
少女は老婆に馬乗りになり、老婆の息は今にも絶えかかっていた。
「お前が悪いお前が悪いお前が悪いお前が悪いお前が悪いお前が悪い」
少女は何度も手に持った石を彼女の頭に打ち付けていた。
鈍い音がどこかの物置小屋に響く。
黒く染まったの石が少女の視界に入り、我に返った。
「私……」
少女は人を殺した感覚の残る赤い手を見つめていた。
「私は悪くない……だって……」
自分を正当化しないと今の彼女は精神を保てない。
「お前が……孤児院、子供のためっにて言ったの嘘。 お前が私利私欲に子供を売っていたことが悪い」
永遠とその言葉を繰り返し繰り返しつぶやいていた。
いつしか気が狂い、少女の顔に罪悪感から放たれた笑みが溢れていた。
「これは酷いな」
物置小屋に二つの影が入る。
少女はとっさに石をその影に向けて投げる素ぶりをみせた。
「おっと嬢ちゃん、おじさんたちは敵じゃないぞ」
深く被ったフードをとり、顔を見せた。
相模には見覚えのある顔であった。
「私は最上、こっちの怪しいのが東郷だ」
最上は少女に近づき、握り締められていた鈍器を静かに奪った。
「君には殺しはまだ早いようだ。私でも、もう少し上だった」
彼のその渋い声に少女は今まで堪えていた感情がどっと溢れ、瞳に涙を浮かべた。
「あっ女の子泣かした」
東郷は指を指しながら茶化す。
「うるせ、お前は仕事してろ」
少女の頭を撫でながら、照れくさそうにする。
東郷は軽い返事でカバンから出した袋を取り出し、広げた。
何も言わずに老婆の死体をそれに入れ始めた。
もののわずかにそれは終わった。
「この跡はどうする」
最上はその東郷の言葉に睨む。
「はいはい、掃除します」
面倒さそうに東郷は小屋を一旦後にした。
「それでお嬢ちゃん名前は? 」
東郷の後ろ姿が無くなったのを確認してから最上は尋ねた。
「い……ちか……」
泣き崩れる少女はたどたどしく伝えた。
「いちか、か……いい名前だ」
少女はまだ血の跡が残る塊を見ながら鼻をすすった。
「こう言うことを言うのはおかしいのかもしれないが、実は我々は殺し屋なんだ」
「どう言うこと……ですか? 」
気持ちも落ち着き、少女ははっきりとした声で言う。
「今日、この婆さんをやるのが仕事だったわけ」
最上は袋詰めされた死体に指差した。
「でも君が先に殺してしまった」
「ごめんなさい……」
少女は顔をうつむかせ、小さくつぶやいた。
「いやいや、その逆だよ。今回の仕事は手こずっていたんだ。だから君にお礼がしたい……なんでも言ってくれ」
少女の方を持ち、嬉しそうに話す。
「なんでもいいですか? 」
少女はちらっと男の顔を見る。
「もちろんとも」
安堵の表情を浮かべる少女は口を開く。
「ここの孤児院の子供達を助けて欲しいの」
最上は想像していたものとは違う願いに戸惑った。
「子供達って何人? 」
「全員……56人です」
その人数をどこかで養うには流石の彼には難しい。
「それは難しいかな」
なんでも良いと言った自分を恥ずかしく思う彼は小さく言う。
「じゃどうすれば叶えてくれます? 」
強い意志が少女の瞳の奥から感じられた。
「じゃ君は何を差し出せる……」
少女は最上と見つめ合い沈黙する。
「差し出せるものは……私の身しかありません」
少女はまた泣きそうな表情に戻る。
「うわ最上お前、少女を性奴隷化しようとしてる」
モップを持った東郷を笑いながら入ってきた。
「あのなぁそんなつもりで言ったわけじゃないんだが」
少し怒り気味に最上は言い放つ。
「セイドレイカでもなんでも良いですから子供達を助けてください」
最上はいたいけな少女の言葉に吹いてしまった。
「そんなことしなくて良いから……そ、そうだ私たちの仕事を手伝ってくれ」
「殺し屋のですか? 」
最上は頷く。
「大丈夫、こんな可愛い子ちゃん」
東郷はモップで床を拭いていた。
「お前は少し黙ってろ、あんまりうるさいとボスに報告するぞ」
「なんでもありません、最上軍曹! 」
大げさに敬礼する。
「誰が軍曹だよ」
軽くツッコミをしながら、少女にまた目を向け直す。
「これでどうだ? 」
少女は考えることもなく大きく縦に首を振った。
「こう言う出会いだったのか……」
相模は四条があの少女に固守つする意味を何処と無くわかったように小さく独り言をつぶやく。
彼はどこかの穴に吸い込まれるような感覚に陥った。
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「いつまでそうしているつもりだ? 」
相模は現実に戻された。
それは聞き覚えのある、聞きたくもないあの男の声。
朝焼けの風景があり、船上では未だ決着がついていない様子であった。




