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四条の過去

「東郷さん? 」

 

 スコープ越しに見えたのは見慣れた男の姿であった。

 見入る暇もなくギルと彼との戦闘は始まっていた。


「あの速さだと援護もできない……いやできるがそもそも撃てない」


 無理と分かっていても、固定用のバイボットを上げ、機会を伺っていた

 その時ふと四条に標準が定まり、引き金が触れてしまった。

 

「これは……」


 彼の脳裏には彼女の全ての過去が流れ込んでいた。




「イチカ何してるの? 」


 相模はどこかの施設の中にいるようであり、目の前にはどこか見覚えのある少女がいた。

 少女はただ地面の一点を見つめていた。

 夢中でみる彼女の視線の先には小さな虫を喰らうカマキリを見ていた。


「なんでこの子は食べられてるの? 」


 純粋な瞳で見つめる。


「それは……」


 少女らしからぬその言葉に老婆はどこか後ろめたさを感じ、言葉を濁した。

 それでも諦めない彼女はなおも聞く。


「弱いからよ……」


 少女に言う言葉としてはあまりにも残酷すぎるゆえに老婆は顔をしかめた。

 本来であれば楽しい童話の話を聞かせ、楽しむような年齢の子供なのだから。


「弱いと食べられちゃうの? 」


 彼女は深く受け止めていないのか、平気な顔で言い放つ。

 老婆は頷くだけであった。


「私も弱いと食べられちゃうの? 」


 子供らしく単純そうな質問だが、彼女の心には複雑な気持ちが入り混じっているようだった。


「食べられたりしないわ……人間だもの」


 老婆は静かに答え、それ以上は何も言わなかった。

 座り込む少女に手を差し伸べ、彼女の小さな手をしわくちゃになった手で握った。


「これが四条の過去……」


 相模は独り言で今の状況を理解していた。

 彼が見ているものあくまで記憶。

 何かを干渉することはできない。


「なるほどね……それであの娘を」


 相模は納得したような表情で少女が入る建物を見上げた。

 立てかけられていた腐りかけた木の看板にはかろうじて『孤児院』の文字が読めた。

 しかし彼は納得したと同時に一つの疑問が浮かぶ。

 

「なんで殺し屋なんてやってんだ? 」


 仕事仲間の互いの過去を干渉することはタブーとされている殺し屋。

 禁忌ではあるが、彼は好奇心に負けた。

 開きっぱなしのドアの中に入っていった。


 記憶の断片。

 

 次の場面へと移った。


「イチカねーちゃん、おんなじの作って! 」


 さっきまで小さかった少女はすっかり大きくなっていた。

 少女に変わりはなかったが、その顔は将来の彼女そのものであった。


「わかったわかった、順番ね。ショーちゃんの後ね」


 彼女は困ったように周りに囲む子供たちの相手をしていた。

 その姿から殺し屋になるとは思えないほど優しい。


「イチカ、こっちに来てくれる? 」


 遠くから老婆の声が響く。

 身動きの取れない彼女は元気よく返事をした。


「ごめん、呼ばれちゃったからまた後でね」


 立ち上がり、子供達の障害を乗り越え別の部屋に向かうドアに向かっていった。

 相模もその後を追った。


 場面はまた変わった。



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