人。殺す。のも。当然。なの?
「それでギルは突然悪人になってしまったってこと? 」
四条は一息つく少女に質問する。
少女は静かに頷く。
「それで、その後はどうしたわけ? 」
「人。殺した。いっぱい」
彼女の冷たい瞳にはその一部始終が一つ一つ確実に記録されているのだろうか。
四条もまたその光景が自分の行っていた殺しと重ね、少女の気持ちに感傷していた。
「それで今回も人を殺すために日本に来たわけ? 」
「オークション。孤児院。来た。男。殺そとして。た」
たどたどしい単語の羅列の中四条はかいつまんで、理解を深めた。
「つまり、あなたを売ろうとして、孤児院に来た男を殺しに来たわけね」
彼女の言葉に深く頷き、少女は再度悲うな表情で俯いた。
「それでもあなたを売ろうとするなんて、それは許せないわ」
少女の姿を見て、四条は怒りを露わにする。
彼女の瞳と少女の瞳はどこか似ていたのかも知れない。
「どう。して。あなた。私。心配。する? 」
俯いた顔を上げ、熱くなっている彼女に尋ねた。
「どうしてって……」
言葉に詰まり、何かを思い出していた。
「それはあなたが子供だからよ」
グッと堪えて少女に言い聞かせた。
「弱きものを助けるのは人として当然だわ」
強気な態度で自分の正当性を保とうとした。
「人。殺す。のも。当然。なの? 」
純粋なその瞳に四条は目を合わせることはできなかった。
彼女は唾を飲み込み、首を左右に振った。
「それは……」
その先の言葉は出てこなかった。
例え綺麗事を言ったところで、全て言い訳にしか彼女には聞こえないと四条は確信していたからだ。
「でも少なくとも……私みたいな人をこれ以上増やしたくないの! 」
彼女の中の一つの解。
苦し紛れであったが、彼女にとっての本音である事に間違いはない。
「あなた。みたい。な。人? 」
「そう、人を殺す非人道的な私」
半分泣きそうな彼女に少女は何も言葉をかけなかった。
仕事である前に最上への恩返しであるが故に殺し屋をやめるわけには行かないのだ。
二人はしばらく会話どころか目も合わせることはなかった。
しばらくの沈黙を破ったのは監禁室の思い鉄の扉であった。
「おい、でろ」
黒服の男が檻に入った哀れな女を睨みながら、命令する。
四条は睨み返したが、立ち上がった。
黒服の男は檻の鍵を開錠した。
彼女はその瞬間を逃さなかった。
「目瞑ってなさい」
少女に向けて大声で言う。
ちょうど鍵が開いた音ともに、四条は勢いよく鉄の扉を開けた。
刹那に男の背後に回り、男の持っていた警備用のけん棒を取り出した。
けん棒を首に当て、目を手で覆い被さった。
あまりの速さが故に少女は目を瞑る間も無く四条は男を掌握していた。
「さぁ、死にたくなきゃ、あんたのとこのボス居場所教えな」
四条は強い口調で脅しをする。
黒服は終始あうあうと変な声で怯えている様子であった。
「しーちゃん、やっぱまだまだだね」
聞き慣れた軽い感じの声が唐突に監禁部屋に落ちた。
四条の驚く暇も拘束されていた黒服は背負い投げ彼女を地面に叩きつけた。
「ちょっと待って東郷さん!? 」
受け身の特訓を受けている彼女はすぐに正面を向き、疑いながら男の顔を覗き込んだ。
「せいかーい」
帽子を外し、あごひげを触りながら自慢げに仁王立ちする東郷の姿がそこにはあった。




