狂人ギル
二人、野原を歩く姿。
白いワンピースの少女は何度も神父の顔を見ていた。
隣にいるのは何者なのかわからなくなっていたのだ。
「どこに向かってるの? 」
硬い手の神父を握りしめる少女が尋ねる。
手は依然として血生臭い。
彼女は紫色に染まった唇を噛む。
「みんなを助け……いや、あいつを殺すのが先だなぁ」
神父は少女に顔を向けているが、目はどこか遠くを捉えていた。
彼は薬に侵され、憎しにみ囚われてしまっいた。
「神父様……? 」
狂気じみたその笑顔に恐る恐る心配をかけた。
声をかけて元の神父に戻って欲しい彼女の願望も乗せられていた。
「あぁ、大丈夫……ふふふ」
握っていた手を振り払い、その場で笑い出した。
腹を抱えて笑う姿は狂人。
その姿はやはり元の神父ではなかった。
口を空に向け、唾を飛ばし、人目を憚らない笑いは不愉快を通り越して、狂気そのものである。
恐怖のあまり少女は逃げ出そうとした。
「ちょっと、私の元から逃げないでおくれ」
半分白目の神父は逃げ出した少女を追いかけた。
「君にまでいなくなられては……私は………」
笑っていた顔は刹那に変貌し、子供のように座り込み泣き出していた。
目からは大粒の涙が止めどなく流れていた。
少女は神父の泣き声に思わず後ろを向いてしまった。
気を取られてた彼女は野原にある大きめな石につまづき、白いワンピースを汚した。
「ほら、怪我したら大変だろ」
涙をぬぐいながらも立ち、走り寄ってきた。
彼女の目には刹那に昔の神父の姿と重ねていたのだろうか、自然と彼女の目元は緩んでいた。
神父は血のついた手を差し伸べた。
ふと我に返った少女は彼の手を見て怯え、手は胸の前で震えさせていた。
「立てないのか……それなら」
そう言って神父は軽い少女の体を肩に乗せ、ズカズカと前へと進んでいった。
彼の狂気に満ちた姿に抵抗の意思は消えていった。
「そうだ、あいつの心臓をもらおう……ふふふついでにあいつに関係してる奴らのも全部集めよう……」
独り言を言っては笑うを何度も繰り返していた。
野原を抜け、森の奥へと入っていた。
少女は二度とこの深い森から出られないかのように。
「どうやって見つけようかな」
「どうやっていたぶろうかな」
「どうやって辱めようかな」
「どうやってえぐろかな」
「どうやって飾ろうかな」
「どうやって……」
彼は頭に出た欲望を早口言葉のように口に出していた。
「もうやめて! 」
少女は涙めで神父の背中を何度も叩いた。
「どうしちゃったの? 神父様おかしいよ。なんで……なんで……」
彼女は恐怖を押しのけ、神父に言い聞かせるように必死に叫んだ。
「なんでって……まさか君まで私の邪魔をする気か? 」
肩から彼女を地面に投げ捨て、不機嫌な表情で地面に横たわる小動物を睨んだ。
「なん。でも。あり。ません」
強打した腕を抑えながら、片言に言った。
彼女の目は死んだ魚のように変わり始めていた。
「それならよし、さぁ行こう! 遠足だ」
微笑み出した彼は少女をまた肩に乗せ、森の奥へと歩を進めた。
大きな足跡は森の奥の奥まで続いていた。




