少女の過去
「アリシアこっちにおいで」
優しそうな表情で聖職者の男が声を張り上げた。
その視線の先には庭に咲いた花に見とれている幼気なブロンズヘアーの少女がいた。
「今行く」
その言葉に反応し振り返る少女。
可愛げある声が広い中庭にこだました。
神父の周りには彼女と同じくらいの少年少女達が集っていた。
「遅いよもう」
一人のワンピースの少女が手を腰に当てながら、前のめりに怒る。
彼女は黒髪で三つ編みを2つに分けた女の子らしい髪型であった。
「ごめん、この花を渡したくて……」
少女の手には一輪のエーデルワイスが握りられていた。
それは彼女らしい白く清い花であった。
「ありがと……」
花を貰って恥じらいながらも、それを受け取った。
直ぐに頭にさし、くるくるしながら喜びを表現していた。
「さぁご飯の時間だから中に入ろ」
二人の姿に微笑みながら見つめる神父は子供達を促し、建物の中へと誘導した。
この建物は孤児院であり、身寄りのない子供達が苦楽を共にしていた。
神父である彼は、教会と孤児院を運営しており、誰の目から見ても優しい男であった。
「アーメン……」
静かに神父の言う祈りの言葉の後に、無邪気な子供の大きな声が、食堂中に響き渡った。
彼方此方で食器とカトラリーが当たる音が絶えなかった。
「ほら、アシリア好き嫌いは良くないよ」
エーデルワイスの花を頭につけた少女が母親のように叱りつける。
「だって、嫌いなんだもん」
フォークでホウレン草を皿の淵に押しのけた。
「神父、お客人です」
修道女が食堂に入り、来客者を知らせた。
食事中であったため、子供達の視線は二人の集まった。
「今行きます」
神父はナフキンで口元を拭き、足早に食堂を出て行った。
「何しに行ったんだろ」
首を傾げながら神父の後ろ姿を見ていた。
「神父は忙しいから、気にしなくて良いのよ、いつものことだから」
ワンピースの少女は水を飲み干し、素っ気なく言う。
「そうだね」
笑っていた彼女であったが、夜の訪問者にどこか引っかかるところがあったのだろう。
しかし、暗い顔も親友の顔を見れば吹っ切れ、笑顔で食事の続きをした。
実際は食事を続けるつもりはなかったようだが。
「ところで、ホウレン草は食べた? 」
隠そうとしていたところを現行犯逮捕されてしまった。
「げっ」
怪訝そうな顔で皿をテーブルに戻した。
渋々食べさせられたホウレン草は彼女にとって苦い。
まるでこれから起きることの暗示のように。