駄目スナイパーね、あんた
「相模配置についたか? 」
小さく相模は答える。
彼は前と同様に屋上に待機していた。
辺りは真っ暗で、あるのは信号機の光くらいであった。
「暗くても大丈夫? 」
小久保の心配そうな声が無線機から流れる。
相模は気持ちを落ち着かせ、全神経を銃に注いだ。
「暗くても自分の変な力があれば大丈夫です」
静かに答え、大きな深呼吸をする。
「どう言うことです? 」
川浦は最上に質問を投げかける。
「そのままの意味だ。あいつには照準をつけたターゲットを捕捉し引き金を触れると刹那にそのターゲットの過去が見えるんだ」
「それ凄いやつじゃないですか」
彼女は無垢な表情で声を張る。
「だが、あいつはそれのせいで撃てない」
辛辣な顔で渋く低い声で唸るように言う。
「そう言うことだったんですか」
彼女は納得したように顔を縦に振った。
「相模、状況は? 」
最上は無線機に手に取る。
「ターゲットが現在出航準備中」
「四条は確認できるか? 」
「すみません、目視はできませんでした」
「お前の力でも見えないか? 」
「試みてますが、見えませんでした」
「そうか」
最上は肩を落とし、無線を切る。
「最上は今乗ったところか」
腕時計を確認する。
「相模、まずは船の出航を妨害しろ」
「了解」
無線機から流れる最上の声にしっかりとした口調で応答する。
「操縦者を狙撃します」
スコープは舵を握りしめた操縦者に狙いを定めていた。
船と屋上とまではゆうに1500メートルはある。
周囲は暗く、実際には見えるか見えないか微妙な辺りであり、彼の力頼みであった。
「四条のため……仲間のため……四条のため……」
自己暗示で撃てないことを克服しようとしている。
ギルの過去を見て撃てなかった時同様、操縦者の過去も全て見えていた。
何も悪くない人を殺すことは心を蝕む。
彼も同様のことが起きていた。
顔からは尋常じゃないほどの汗と、荒い呼吸。
彼の脳裏には、操縦者が死ぬ前に見るような走馬灯が鮮明に写っていた。
操縦者が殺せば、必然的に家族は悲しむのは明白である。
増しては子供もいる操縦者。
益々相模の心拍数が上がっていた。
彼は時間が止まったかのような感覚に襲われた。
静かに相模はその重い金属の三日月を力に入れた。
『駄目なスナイパーね、あんた』
刹那に操縦者の過去は見えなくなった。
相模は嗚咽し、吐いた。
罪悪感と恐怖を押しのけたのは、仲間の顔だったのは他でもなかった。
「よくやった」
最上の声がかすかに聞こえた。
相模は何も答えることもなくすぐに元の位置に戻った。
船はまだ荷物の積み込みに時間がかかっており、まだ異変には気づかれていないようであった。