殺戮の令嬢
「なるほど……さては警察かなんかの回し者だな」
ギルのきみ悪い笑いは止まらない。
四条はその言葉に何も答えなかった。
「まぁなんでもいい。どっちにしろその気に入らない態度をちょうどへし折りたいところだったわけだし」
ギルは指を鳴らし、部下を呼び寄せた。
すぐさま黒服の男たちが走り寄ってくる。
屈強なその容姿が黒服たちの強さを物語っていた。
「何? 脅してるつもり? 」
四条は屈することもなく、仮面越しから鋭い視線でターゲットを睨んでいた。
「いーや脅してなんかいないさ、する必要もないからね」
ギルは黒服たちに目配りをする。
合図と共に黒服たちは一斉に四条に飛びかかった。
「レディーに容赦ないのね」
黒服の男の拳を手で受け、それをそのまま投げ飛ばす。
「とてもレディーとは思えない動きでそれを言うかい」
高らかにギルは笑う。
黒服たちの攻撃は止まらない。
なんどもくる拳とナイフを華麗に四条は一人一人奪ったナイフで刺していく。
肉を刺す音がまるでリズムゲームのようにテンポよくなる。
ステージは血と男たちの悲鳴が帯びる地獄絵図となっていた。
「警察かと思ったが、どうやら違うようだね」
四条の血のついたナイフを見て、ギルは驚いた表情へと変わる。
血は顔にまで付着しており、ドレスも真っ赤だったのが、どす黒い血の色に染色されていた。
「マフィアの回し者か? 」
「それはどうかな」
彼女は最後の一人になった黒服の男の悲鳴を聞いた。
「さぁその少女をいただくよ」
ギルを睨む彼女は強い口調で言い放つ。
少女は依然として虚ろな瞳で助け求めようとはしなかった。
「おっとそれはいけなませんよ、お嬢さん。これはオークションですよ? 」
彼女は驚いた表情で背後に感じる人影に目をやった。
「あなたには関係ないでしょ」
四条は司会者の言葉を無視し、ギルの方を向いた。
彼女が目にしたのはターゲットからの拳であった。
司会者に向けた刹那の時間は彼女を無防備にさせていた。
鈍い音と共に彼女はステージの硬い床に倒れ落ちた。
「ったく、手こづらせやがって」
倒れた令嬢の髪を引っ張り上げ、怪訝そうな顔で唾を吐き捨てた。
流石の四条も重い拳を面と食らってしまい、意識が朦朧としていた。
「まぁいい、コレクションは集まらなかったが、今夜の楽しみができたから及第点だな」
髪を掴んでいた手を離し、黒服の部下を呼び出した。
3人の男がステージに現れ、ロープと手錠で彼女を拘束した。
「あぁパブロくん、助かったよ」
思い出したかのように、司会者に振り向き礼を言った。
「いえいえ、ギル様にはいつもご贔屓にしてもらっていますので……」
司会者は深々とお辞儀をする。
「ギル様……その女はどうするんですか? 」
「そんな愚問をするのか君は」
司会者は慌てて首を横に振った。
ニヤリと笑うギルの表情は悪人そのものだった。