裏オークション開始
「いよいよ始まるみたい」
四条はどこか緊張している様子で相模に話しかける。
「そうみたいだね、とりあえず部屋を移動するみたいだから流れに付いて行こう」
相模もまた不安な顔で人の流れを目で追っていた。
二人は人の流れに乗り、別の部屋へと移動していった。
「……ターゲットが到着したみたい」
相模は耳に手を当て、川浦からの報告を伝言する。
四条は渋い顔で何も言わずに次の会場へと歩みを進めていた。
訪れたのは先ほどの会場とは違った、前方にステージがある部屋だった。
「どうやらオークションが始まるようね」
会場のどよめきと黒服の男達が参加者を囲むように並ぶ異様な光景に四条は固唾を吞む。
照明が消え、辺りは真っ暗になった。
「紳士淑女の皆さん、今宵のオークションにお越し頂き誠にありがとうございます」
スポットライトは司会者である中年太りした茶色いメガネの男に当たった。
嬉しそうに話す彼はステージから見える参加者に深々とお辞儀する。
「では時間も惜しいので今からオークションを開始します。皆さん準備はよろしいですか? 」
司会の開始の合図に合わせて、グラスを鳴らし乾杯の音頭を取った。
「気味が悪いわ」
四条はシャンパンを持ちながら眉をひそめていた。
「それではまず最初の商品は……」
ドラムの音が高らかに鳴り響き、照明は会場を行ったり来たりまばらな動きを見せる。
「こちらです! 」
司会の男の威勢の良い声と共に現れたのは、一つの紫の布で覆われた檻であった。
「中国産の虎でございます」
布が取り払われ、中から立派な虎が顔を出した。
警戒した様子で檻の中からじっと睨み、様子を伺っていた。
「ワシントン条約違反ってとこかな」
相模は四条に小声で話し、裏オークションの意味を確かめていた。
「まさに裏オークションね」
四条の声をかき消すように、会場からは参加者の値段を告げる声が飛び交っていた。
一万ドルから始まり、徐々に値はつり上がっていた。
「現在100万ドルです。何方かいませんか? 」
司会の男は終始にやけ顔で参加者を焚き付けていた。
「はい、それでは100万ドルで落札です」
ステージにあるモニターに値段と落札の文字が表示された。
「それではどんどん参ります」
司会者は両手を大げさに広げ、より一層大きな声を張った。
その後は、象牙を始め動物系から大麻の栽培所の権利書と言ったあらゆる違法物がオークションされた。
「さぁ……こちらの心臓は何方、高値で出す方いますか? 」
何十回も大きな声を出していたからなのか、些か元気が無くなった司会者は会場を見渡した。
「1億ドル! 」
多額の値段に疲れ切った司会も甲高い声がでた。
「ほんと気分が害されるわ」
四条は苛立ちを隠しきれていたなかった。
「では1億ドルで落札でございます……」
深々とお辞儀する司会者はずれたメガネを戻し、興奮を抑えきれず深呼吸していた。