#2 リピート機能は必須です【前半】
突然暗転してパソコントラブルかと思えば、なんだただの演出か、と思った矢先。それは唐突に訪れた。
大音量で恥じらいの声が流れ、直後、無音を保つ主人公とコネクトした少女の華奢な裸体が露見。おかしいとおもいませんかね、まだシナリオ全然そういったムードじゃないのに。
と思って公式サイトを開いたらあら不思議。小さい文字で“追加パッチファイル”の項目がある。バグということなのかな。んー、もし学生諸君がこのサイトを覗いていたらまだ助かるかもしれないが……。
ええ、そうでしょうそうでしょう。きっと慌てて窓のボタンを押すなりするでしょうけどもう遅い。これはある意味で罠。
これすらもまっちゃそふとらしいので、私は許せちゃいます。
それでも精神が滅入っているので今回は短く、これで最後に。
このサイトの管理人は未成(これ以上は文字化けしていて読めない
【ひまじん沖田のプレイ日記 パート219-●●●● by まっちゃそふと-第二回 20●●/07/22】
最後の文のインパクトが強すぎるんですが、まあ当然よね。うん。それより、パッチいれんとなぁ…グピッ
OPが明けてすぐ現れたのは、タイトル画面だった。
美少女ゲーが売れるか売れないかは正直、絵のしこりてぃーに依存していると思う。
例えばどんなに素敵な文章でもイラストが不適切なものだったら……。
「よし、今は考えるのを止めよう」
PCを再び見つめて、“はじめから”を押した。
押した。確かに押した。というかそれしかなかった。
画面に並ぶのは《はじめから》しかないし、ロードもセーブもまだしたことないから普通ならそれを押すのだが。
「ちょっと待ってくれ……酒が回りすぎてんのか分からないが……ハハハ」
明らかにおかしい。そしてそのデジャブ感は見事に的中した。
【PC画面】――――――――――――――――――――――――――――――
「さて、突然だが僕は聞いてもらいたいことがあるんだ」
ふと、聞き慣れた声が聞こえて目を向けると、同年代と思われる男が話をしている。ただし、不審な行動はないが、纏っているオーラや話し方には若干、拒絶を示す私だった。
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ちょっと待ってくれ。これは本当に一度見たことのあるシナリオじゃないか。
「回想シーンってことかな」
そう冷静にとらえてみる。
でもエンターキーを押すのがめんどくさくなって、AUTOモードを入れることにした。
【PC画面】――――――――――――――――――――――――――――――――
「僕は友達がいない。
それに対する世間に蔓延るテンプレ言い訳はこれだ。
‹作ることができないのではなくて作らないだけなんだ>
端的に言うと、僕はとある驚異的な能力により友達を作ることができない。本来なら、これは漏らしてはいけない、秘匿されていた情報だから今耳にしていることは幸運と思った方がいいかもしれない。」
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期待を返せ。
日々の労働の肥やしは、このゲームでどうにかしようと思っていた。
「これではだめだ……せめてOP手前まで行ってそこらでリピートしておこうか」
愚痴を思わず口に出しながら、それでもPCに向かう。
【PC画面】―――――――――――――――――――――――――――――――――――
▶冬華:「名前で呼んでいいよ。冬華、ふーゆーかって」
(システム):[ここを再生するよ?]
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「オーケイ、頼んだぜ!」
慌ててAUTOモードを切って、ログをそのまま起動。
確認ダイアログが出る仕様は優しいと言えるのかどうか。
【PC画面】―――――――――――――――――――――――――――――――――――
(システム):[エラーのため再生できません]
(OS):[未知のトラブルが発生しました。強制終了します。]
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「は?」
なんだこれ。ほんとにまっちゃそふとの作品なのか?
それすらも怪しまれるほどに、期待とのギャップが凄まじい。言うなれば、有名無実。駄作。
「うふぇ」
酒の効き具合もいつものそれとは違う。何故だ。
……違う、そうじゃない。おかしいのは俺じゃない。世界の方だ。
今思えば朝からおかしかった。竜巻によりダイヤも乱れ、ゲリラ豪雨が通勤ラッシュを迎え討ち、降雪が 帰宅ラッシュ時に訪れた。
「この世界が狂い始めている?」
酒のせい、と思いたいくらい馬鹿げた発言を自身でもしたとは思うが、今日はすべてが異常だったからいいのだ。
「……今日は?」
そういえばこのソフトが発売されてから晴れた日は一日もない気がする。
「まさか……なぁ」
酔いしれる俺を止める思考がどこにある。それ以前に誰もここにはいないのだが。
急いでスマートフォンを取り出して画面を覗きみる。
【スマホ画面】―――――――――――――――――――――――――――――――――
通信圏外:サービスは利用できません
時刻:0時31分
バッテリー:残37%
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その“まさか”であるというのは言葉にすればこうだ。
「俺がソフトを買うまで、世界は平常に動いていて俺もその世界線にいた。
けれど、俺がそのソフトを買ったとき、世界線が異常化――つまり並行世界へと移動した」
口に出しても、誰も返事はしない。悲しげに時を重ねる針が機械音を奏でるだけで。
「……だからボッチは自覚してはいけないんだ」
«ドクゥン»
視界が揺れた。
音が遠ざかる。
突然、めまいのようなものが襲ってきた。疲れじゃない、酔いでもない。これは作為的なものだ。何故なら……。
【PC画面】―――――――――――――――――――――――――――――――――――
じぶんのこえがきこえないからなぁ
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≪ピンポンパンポーン≫
(アナウンス):[前半パート、ご覧くださいましてありがとうございました。なお、今回はタイトル回収ができなかった都合により、前半パートという括りになったと言伝がありました。次回もよろしくお願いします、とのことですのでよろしくお願いします。ちなみに私は作者の脳内に住むアシスタントのアミリーナと申します。以後よろしくお願いします。……冬華たちは製作の都合により出演できませんでした]