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グラマー委員長ベラに別れと約束を








「あ、お嬢様!」

「待たせたわね、セレン。」

「いえ、…お怪我はございませんか?」

「それ、私に聞いてる?」

「…いえ、聞いてません。」


出口を抜ければ正面門にはもう既に私の家の馬車が待ち構えていた。なんか馬がブルブルいってセレンに唾かけてるけど。セレン本当に動物に好かれないよねー。この間なんか後ろ足で蹴られてたし。


私を心配していたはずのセレンは私がそもそもあれくらい大丈夫な事を思い出したのか一気に遠い目をしてから視線をそらした。「絶対あんな拘束自分で解けれたよ、面倒だっただけだ…。」となにか落ち込んでいるけど、セレンもやっと私のこと理解して来たようで何よりだわ。


「あー、眠い…。さっきのアレ結局何だったのよ…。」

「…やっぱり覚えていらっしゃいませんでしたか?」

「んー、なんか見たことある顔ぶれだった気がするのよねー。」

「…はあ。」


「なに、ため息なんて。幸せ逃げるわよ。」

「貴女がつかせてるんです…!」


うだうだ言いつつも私が手を伸ばせば、自然と取って乗り込むのを手伝う所を見ればもしかして優秀なんじゃないだろうかって思うわよ、セレン。ヘタレ脱却も近いわよ、頑張れば。


「っまって!」


後一歩で乗り込む、というところで後ろから女性の声が聞こえて来た。なんか私のことを呼んでいるようだから、と浮かせていた足を再び地面に戻して振り向く。そこにはこれまた見たことあるような黒髮美女。やばい、ドレス着ててもわかるくらいグラマーだわ、ボンキュッボンだ。すごいわ。


「なに?」

「帰る前に話をしましょうよ、アシェル?」

「話…だれ?」

「ちょっと!?あんたと学校でよく喋っているでしょう!?」


んん?ああ、そういえばこの美女学校で会ってたのか。通りで。


「あれっしょ、委員長でしょ?こんにちわー。」

「委員長ってなに!?呑気に挨拶してんじゃないわよ!」

「委員長、ドレス着てるから分かんなかったよ。」

「だから委員長じゃないし、勝手に話を進めるな!ベラよ、ベラ!!ベラ・ランロード!」


「そっかそっか、じゃあね、ベラ。」

「勝手に終わらすな!話あるっつってんのよ!」

「ベラあんた口悪くない?大丈夫?」


「あんたにだけは言われたくないわよ!バカにすんな!」


「あ、あの…。」


委員長、いやベタ……、いやベラだ紛らわしい。ベラがなんか怒ってるんだけど。

さっきから大声出してばっかだけど、元気だわー。


と、ベラの言葉を右から左へ流していた私の耳に戸惑ったようなセレンの声が聞こえた。その声に振り向けば戸惑い半分哀れみ半分の顔をしている。ちょっと待て、その哀れみって私に?なにわかります、みたいな顔でベラのこと見てんの?


「…そうだわ、待たせたんだった。」

「…ねえ」

「なに?」



私が話半分に聞いていたことに気づいたのか、眉を顰めたまま今度は声のトーンを落として尋ねてきた。視線は何故か私の背後に向かっているけど。


「その大荷物なに?」

「ああ、旅に出るのよ。」

「そう、旅に……旅!?」


「そうだよー、もう弟も成人したしいいかなって。貴族とか面倒だし、私には合ってないのよ。自由って素敵よね。まあ本当は今日のこのパーティーもこない予定だったんだけど、なんか招待状に必ず出席するようにって書いてたからさあ。あんな面倒なことあったこと知ってたら絶対行かなかったのに。こちとら準備してて眠いってのにさあ。」

「それはお嬢様が当日に突然荷物詰め込んだからじゃ…、」

「なに」

「い、いえナニモ。」


「…旅って。…いつ帰ってくるの。」

「あー、帰らないんじゃない?家にはもう手紙残してきたし、所持金尽きる頃にはもう私も死んでるわよ。あれね、佳人薄命?」

「自分で言う言葉なの?…まあ、死ぬ前に私の屋敷くるならおもてなしくらいするわよ。」


「…なんで?」

「っだから!あんたのこと友達だと思ってんだから当たり前でしょ!あんたは違うかったみたいだけど!」

「……。」


ポカーンと口を開けてベラをみていた私に恥ずかしくなったのか顔を真っ赤にして怒るベラ。そんなベラを見ていたら、前世で仲の良かった友人のことを思い出した。あの日この世界にきてから彼女のことを思い出すのは初めてだし、そもそも最近は前の世界のことを思い出すことも少なくなってきていたのに。





『っだから聞いてるの透子!』

『聞いてるってー…加奈さん眠い進まないー。英語マジで怠いわー。これ日本人必要?母国語の勉強しろっつうの。』

『あー、もうグダグダ言わない!ほら、今日私の家に来なさい!教えてあげる!しょうがないから…と、友達だし!』

『…友達くらい詰まらずにいえばいいのに。』

『うううううるさい!』


こんな私にいた数少ない友達、世話焼きでツンデレな所とかは結構面倒臭かったけど、真っ直ぐで素直な、私とは正反対な友達。





思い出したら、自然と私の口元に笑みが乗る。そういえば加奈とベラって似てるなあって。


「そうねえ…、じゃあ近いうちに寄るわ。その時はケーキ用意しておいてよ。私一番好きなの甘さ控えめのロールケーキだからね、友達様?」

「!…ならちゃんと手紙で来る日言いなさいよね!」


本当は、この国には何も残さないつもりでいた。家族への情も、婚約者への情も、なにもかも。未練なんて全くないのだから簡単だと思っていた、けど。


まあ、しょうがないなー。未練とか、執着とか。この国にはなにもないと思ってたけど。一つくらいあっても。友達を残していくのも、もしかしたら悪くないのかもしれない。押しに弱いしね、私。







悪役令嬢になった女は世界を旅して回る自由人になった。

彼女にはこの国に未練なんか何一つない。最後まで、家族にも、婚約者にも情を移すことはなかった。だって彼らは彼女を破滅に追い込むかもしれない存在だったのだから。


実際彼らが彼女を追い込む追い込まないなんて関係ない。少しでも可能性があるのなら、それはもう彼女に情を移させない理由になる。チラチラ視界に入っていたはずの婚約者のことだって、家に帰れば声をかけてくる家族のことだって、彼女にとっては作られコンピュータ化されたNPCのよう。


だって彼女はこの世界の住人ではないのだから。姿形はアシェル・バルボリーニ公爵令嬢という者だとしても、彼女はもうただの“アシェル”。彼女はまだ、この世界のことを受け入れようとする気持ちすら持っていなかった。



しかし、彼女は見つけてしまった。




悪役令嬢だった彼女が生まれ故郷に残したものはたった一つ、友達のベラだった。自分以外に、自分の世界以外に関心を一つも持たなかった彼女が見つけた、唯一の人間。







馬車に乗り込んだアシェルの口元は先ほど以上にハッキリとした笑みが浮かんでいた。いつも気怠げで眠そうにしている顔じゃない、純粋な笑顔を。馬車が進むにつれて見慣れた風景が離れていく。そんな様子を尻目に、彼女の乗った馬車は国境を越えていった。




「セレンも一緒に来て良かったの?今までよりまともな収入は入んないわよ。」

「…私はお嬢様の従者ですから、どこまでもお仕えしますよ。」

「…そう。」

「はい。そういえばお嬢様、これからどこへ向かわれるのですか?」




「そういえば決めてないわね。」




「……は?」

「まあ、適当に通った国を寄りつつどっか行くわ。」

「いやいやいや、え?計画性は?」

「そんなもの面倒よ、適当に進むのよ。」

「突然決めたと思ったらやっぱり貴女は…!!!!」


「ふああ、ねむ…、セレン朝になったら起こして…ぐう。」

「寝るの早!?ちょ、お嬢様〜!!」










ここまでが短編での内容です。次話からは脱力系令嬢アシェルのその後になっていきます!お楽しみいただけたら嬉しいです。

感想等、お待ちしているので是非いただけたら舞い上がります!←

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