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脱力系JKは悪役令嬢になったらしい

短編を膨らませ、脱力系令嬢のその後に迫ります。短編を見ても楽しめると思うので是非ご一読下さい。

またこの1話に残酷表現、流血表現がございますのでご注意ください。


















気がついたら、悪役という立場に私はいた。












ふと目を覚ませた時、普段ならジリリリと煩くも私を叩き起こしてくれる時計が鳴る一時間も前の時刻を指していた。まだ寝れたのに、と苦く思って起した身体をベッドへと再び倒れさせたけど、覚醒しきった身体はもう一度私を眠らせることを許してはくれなくて、仕方なくフローリングに足裏をつけた。


「はあ、なんで何も用事はないのに早起きしなきゃなんないの。」


溜息が溢れる口を抑えることなくクローゼットへ向かう。その途中にババっと脱いだ部屋着のおかげで開けた時にはもう制服を着ればいい状態にまでなっていた。

そのまま伸ばした手は制服を掴み、もう慣れ親しんだそれは意識を向けなくても自然と着ることが出来る。


昨日のうちに準備した、というかルーズリーフがいっぱい挿まったバインダーと筆箱、ポーチ。あともう少ししか入っていない鞄に準備も何もないが。そのカバンと脱ぎ捨てたままだった部屋着を掴んで階段を降りた。


リビングのドアを開けたら、珍しく自分以外が奏でる音が聞こえて視線をそっちに向けたら、会社で編集長を務めていて家で会うことが殆どない母がキッチンに立っていた。


「お母さん?」


私の声に反応した母はつけていた火を止めてこっちへ振り返った。


「あら、透子とうこ。珍しく早いんじゃない?」

「それはそうだけど…、お母さんがこの時間にいることも珍しいよ。」

「ふふ、まあね。案件もおちついたから今日はゆっくり会社に行けるのよ。朝ごはんはお魚でいい?」

「うん。やった、楽できるわー。」

「もう、グータラなのは変わらないわね。ほら、顔洗って来なさい。」

「ほーい。」


壁に掛けられたテレビの前にあるソファに無造作にカバンを投げて洗面台へと向かえば背中からカバンは投げない!と母の注意する声がきこえた。

普段朝に会わない家族に少しだけ照れ臭かったからとった行動だと、多分母は気づいている。だって注意する声が呆れと笑いを含んでいたから。


洗面台で顔を洗ってタオルで拭っていれば、ふと視界にヨレたワイシャツが目に入った。


「…お父さん昨日帰って来てたんだ。」


母は出版社の編集長を務めているが、父は警視庁で働く警部だった。家に帰ってくることは稀で帰って来たとしても着替えを取りに来る時間しかない、そんな忙しい父。しかし、そんな父に不安なんて持ったことは一度もない。…嘘、昔幼かった時は遊んでくれない父が好きではなかったけれど、今はそんな事ない。だって、



「あ、またある。」


両親が忙しいから家事は基本的に高校生で一人娘である私が行なっている。だから父の脱いで洗濯機に放り込まれたワイシャツを洗ってアイロンにかけるのも、私の仕事だった。


それはまあ、怠惰を具現化したような私は面倒臭いと思わないではないが、そう思ってもやるのには育ててくれる両親のためと、もう一つ。洗濯機の画面の脇に貼られた小さなカラー付箋。そこにはぶっきらぼうで急いで書いたであろう『ありがとう、助かる。』の文字。


愛されてないなんて思ったことはない。資金だけもらっているなんて馬鹿なことはない。だってこんなにも家の中には家族からの愛で溢れている。

普段は面倒だと切り捨てるようなことでも、これくらいのことなんてことないと思わせてくれる。


その付箋を無造作にブレザーのポッケに入れた。そのまま今日1日その中に入れておいて、帰って来たら私は、自分の部屋の中のクローゼットの奥に隠しているボックスの中にしまうだろう。そしてまた増えた宝物に気持ち悪くもにやける顔を隠すことはできないんだろうなって。




母が用意してくれた朝ごはんは多分普通の家庭なら毎朝ありつけるだろうけど、私は結構久しぶりで。やっぱり母の味付けが1番好きだな、とそんな言葉は魚の切り身と一緒に口の中に放り込んだ。


まだ学校が始まるまで時間はあったけどやることがなくなった私はもう出発する事にした。


「いってらっしゃい、気をつけてね。」

「…はーい。いってきます。」


玄関先でニッコリと笑った母は私とは似ていない柔らかな笑みを持っている。私は父親に似て少しだけ目がつり上がっているし、あまり顔全体で笑わないから母とは家族というより友達に見えるかもしれない。


母に見送られながら私は昨日入れたばかりの新曲を聞くため、イヤホンを耳にさす。

その新曲は某有名アイドル五人組の春の応援ソングだった。季節的にもあっているし、その曲調と歌詞が私の背中を優しく押しているように感じられた。


今日は母にも会えたし、父の手紙も貰ったし。なんかいい日かも、なんて柄にもなくニヤけてきた。大通りへと差し掛かり人が見えて来たため、私は口元を片手で隠した。そして意識を音楽へと向けた頃、それは無情にも起こった。


軽快なメロディーには相応しくないキーの高い音。その音は段々近づいて来るから音は煩くなっていく。何事だ、と顔をそっちへ向けた時にはもう、目の前までそれは迫っていた。

ドンッと体に走る強い痛み。通行人が甲高い悲鳴をあげて見ていたり、携帯を耳に当てて何処かへ連絡していたり。


私の身体は一直線にぶつかって来た車によって空へと舞い、数十メートル離れた場所で倒れ落ちた。ドサっと耳元で音が聞こえた時にはもう、私の身体は指一本動かすことが出来なくて。



ああ、死ぬのかな。なんて漠然と思った。



私はただ、信号待ちをしていた。音楽を聴いて今日の授業当たりませんように、なんて思っていただけ。ただ、それだけ。ただ、私の人生が歩みを辞めてしまっただけ。


まだ若いのに、とか。未来ある若者が、とか。そんなことは誰よりも私自身が知っている。それなのにこんなに簡単に終わってしまった運命は、いったい私に何をしてくれたんだろう。


私という人間がこの世界からいなくなった後、家族や友人たち、先生たちはどうするんだろうか。私のために泣いてくれたんだろうか。


怠惰で不器用、口はあまり良くない私に親しい友人は片手で足りる程度だし、適度に手を抜いて勉強していたため先生に可愛がられていたわけではない。両親だって今日は珍しかっただけで、基本的には忙しくて、そんな忙しい仕事が好きな人たちだ。たまの休み以外、1日も休むことを許されないような人たち。


しかし、それでも私にとっては大切な人たちだった。皆んなを思い出して意識をおとした私が最後に思ったこと、それは。



私が死んだ事でも変わりない日常が流れていくこの世界のことだった。






一人の女子高校生が早朝の大道路で、暴走した車によって儚くも命を落とした。道路に横たわり頭から血を流す彼女の側に、手作りであろうお弁当が包まれたものと、ブレザーのポケットから落ちた紙切れがあった。暴走した車の運転手は、昨夜に飲酒をしておりそれが抜けていないにも関わらず運転したという、現代社会では少なくない、腐ったような理由だった。運転手は意識を取り戻したあと刑務所にいれられ、彼女の両親によって刑が重く課せられた。懲役と多額の慰謝料。そんなものでは愛しい娘を奪われた両親の心の傷は癒えることない。


また、運転手の妻と子供は彼女の両親に数え切れないほどの謝罪と今払える全てのお金を渡したのち、もともと冷え切っていた家族関係を切り実家に戻ったそう。運転手に残ったのは先の見えない懲役と、払える見通しのつかない多額の慰謝料だけだった。





後日行われた彼女の葬式では、彼女が思っていた以上の人間が参列し涙を流した。教師たちは泣き崩れる生徒たちの背中をさすりつつも瞳からいく筋もの涙を流し、彼女の友人たちは棺の側に崩れ落ちて大きな声をあげて泣いていた。

その側で彼女の母親はその顔を涙でぐしゃぐしゃにしてあの日から止まることのない涙を流し続けている。そんな母親の肩を抱きつつも父親は、彼女に受け継がれたその少しだけ鋭い瞳から流れる涙を拭うことなく、その瞳に焼き付けるように娘の顔をずっと見ていた。



彼女が去ったことでこの世界が悲しみの色を放っていることを、彼女が知ることはもうない。







意識がふわふわと、私の元へと戻って来た。ああ、もう世界ともお別れか、と惜しく思う気持ちが私の心を占める。流れに身を任せて真っ暗な空間を漂い続ける私を、不意に誰かが引っ張った。そして暗闇の向こうにある鈍い光を放つ方へと連れていかれているようだった。


やめてくれ、このまま静かに眠らせて欲しい。まだ何か私に用事があると言うの。もういいじゃない。


まだ社会にも出ていなかった幼い私を突然終わらせておいて、神様はまだ私に働けと言うのだろうか。もう本当に、やめてくれ。


そう思うのに、鈍い光の方へと進むことを辞めてくれないことに、私は考えることを放棄した。出来れば次の人生は波風立たない穏やかなものでありますように。そう願って、今度こそ私は眠りについた。





再び意識を取り戻した時、私はこの新たな世界に絶望した。目の前いはキラキラと目に優しくない色合いの男の子が瞳の奥を怒りで染めて、しかし口角だけはあげて私に笑いかけていた。そんなチグハグな、美しい男の子。

私の背後では父親だと思われる人物に目の前の男の子は私の婚約者だと教えられた時、私は見たこともない記憶にもないような、一人の女の子の人生が映像となって襲いかかってきた。


可哀想な子、愛を知らずに愛を求める寂しい子、意地っ張りでプライドが高い面倒臭い子。

そして、狂気に自分を投げて自ら破滅へと進んでいく子。


鏡を見たわけじゃない。けれども、この女の子が私だと思った。いや、確信した。






なんなんだ、本当に。神様はそんなにも私のことが嫌いなんだろうか。前の人生を短く残酷に、無情に切って捨てただけでは飽き足らず。今度はわたしを私自身で破滅させようとするなんて。

目の前の男の子は私を殺す子だ。背後に立つ両親は私を地獄へと突き落とす人たちだ。


私が何をしたって言うのだ。何か来世でも背負わなければいけないような大罪を犯したとでも言うのだろうか。そんなに、幸せを願うことすらも許されないような罪を犯したのだろうか。私が何をしたって言うんだ、わたしがなにを、





なにを、




















作者は法律や民事裁判に詳しくありません。その場の雰囲気こみで書いていますので、現実ではありえない表現もあるかと思いますが、フィクシィンとして流していただけたら嬉しいです。

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