『契約農家に依頼せよ』【一画面小説】
収録後は、いつもミネラルウォーターで口をゆすぐことにしている。いつからか身についた癖なのだが、口の中を無味無臭に保っておきたいと、この仕事を通じて思うようになった。
健康食品のブームは移り変わりが早い。ついこの前、朝バナナダイエットが流行ったばかりだと思ったのに、今や糖質制限ブームの真っ只中だ。そんなブームの中でも、もはや定番化している健康食品がある。それが、青汁だ。
マネジャーが最初に青汁のCMの仕事を持ってきたとき、私は専業農家という体で撮影に参加した。そのレビューと飲みっぷりを評価され、各社から次々と青汁のCMのオファーを受けるようになったが、いずれも「素人の体で」という約束があった。各社に出演するとなると、映像を見た視聴者にプロの役者であることがバレると思った私は当時、メイクを学び、全社のオファーを受け、全社で全く違う素人を演じ分けることに注力した。今世間で流れている青汁のCMの農家の女性は、すべて私が演じ分けているものだ。映像技術の進歩は目覚ましいものがあると、男性役や自営業役の同業者とよく話している。
その私が、自信を持って言えることが一つある。それは、いま、私が一番消費している健康食品が、口をゆすぐために箱で購入している500mlのミネラルウォーターだということだ。
※フィクションです