〜コワレタモノ、コワシタモノ〜
§0 はじまり
〜コワレタモノ、コワシタモノ〜
アアタノシイ…
今私の目の前には満身創痍の男と
血だまりに沈む女がいる
世間一般では男は勇者と呼ばれ
女は魔王と呼ばれている
物語は勇者対魔王というわかりやすい
クライマックスを終え、
後は勇者の凱旋、皆に祝福され
めでたしめでたしと言った所か、
でも残念、ここで幕引きだ
ん?ワタシはナニモノか?
そんなことどうでも良いではないか
ワタシは大げさな演出もそこそこに
久しぶりに彼の地へ降り立つ
どうやら男がこちらに気が付いた様だ
傷付いた体を引きずり、こちらに向かって
問い掛ける
「おお女神よ、私は遂に諸悪の根源、魔王を倒しましたぞ、これで世界は平和になるのだな」
何を馬鹿な事を言っているのでしょう…
この程度の事で世界が平和になるのなら
誰も苦労はしません…
ですがコレデヨイノデス
「ええ、充分です、ですがまだ全て終わった訳ではありませんよ」
「む、まだ何かあるのか?私はもうボロボロなのだ、MPも薬草も使い果たしてしまった、体力が戻るまで少し待ってくれないか?」
「いえ、その必要はありません」
「む?」
「勇者よ…
そうしてワタシは出来る限り極上の笑みを浮かべ、
静かにこう言い放ちました
もう用済みです 『女神の抱擁』!」
「な…何をっ……
その瞬間、男の足元からツタが伸び男を拘束、ツタごとワタシの超大な魔力により男を押し潰した。
ブチュッといやな音が響いた後、
血だまりがもう一つ増える
肉が潰れた衝撃でワタシの純白のドレスに
赤い花が咲き、辺りはシーンと静まり返る
ああ、この瞬間がタマラナイ…
必死に組み上げた積み木のお城を最後
怪獣ゴッコと称して崩す感じだろうか、
ワタシはしばらく湧き上がる高揚感に
打ち震えるのであった。
一しきり感動し、その熱も冷める頃…
ワタシは倒れ臥す《ワタシ》を蹴り上げる
「いい加減起きなさい、いつまでねてるのです」
「んんっ…… ああ収穫は終わりましたか…
彼はいい果実でしたか?」
いままで倒れていた魔王と呼ばれた女が
ゆっくりと起き上がる、
今回は随分と血を流していたから
まだ完全には復活していない様だ
「ええ、充分に、これでまたしばらくは大丈夫そうよ」
少しずつ周囲に魔力が拡散していくのを感じる
それと同時に勇者だった肉塊が少しずつ消えていく、
これで証拠は残らない、もう何度も繰り返した手順だ
「それじゃあ、ワタシはまた別の所で新たな魔王として魔物を生み出してくるわ、今回、彼結構頑張ったみたいでだいぶ減っちゃったし」
「ではワタシは次の勇者を選定に…、また御し易いといいけど」
「勇者?イケニエの間違いではなくて?」
「アラ、身を呈して皆を守るのが勇者ではなくて?、まあ良いわ、また10年後位に会いましょう」
そう言うと女神と呼ばれた女はどこかへと消えて行った
「…………」
魔王と呼ばれた女は暫しその場に立ち尽くし
ゆっくりと闇に消えて行った
後には血も肉塊も残っていなかった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
他の作者様の小説を読んでて頭の中に何か落ちて
来ましたので書いてみました。
また読んで頂けると幸いです。